「売れ残り」を「利益の種」に 小売りの在庫問題、データで改善 200ブランドが導入 AI で見つける〝眠った売れ筋〟

倉庫や店舗の在庫を可視化し、適切な店舗への在庫移動などを提案してくれる

 たくさん作って⼀商品あたりの原価を下げる。売れ残れば値引きして売りさ ばく――。⻑く⼩売業を⽀えた⼤量⽣産、⼤量販売の考え⽅だ。しかし、国内 では⼈⼝減少が進み、消費の拡⼤が⾒込みにくくなる中、この⽅法はいつまで 通⽤するのだろうか。

 「⼩売業にとって、在庫は経営そのものです」

 こう話すのは、⼩売業向け在庫分析サービスの「フルカイテン」(⼤阪市福島区)を運営する瀬川直寛CEOだ。同社が⼿掛ける「FULL KAITEN(フルカイテン)」は、EC(電⼦商取引)や店舗、倉庫にある在庫をAIなどで分析し、「今ある在庫をどう売れば、売上や利益につながるか」を⽰すサービス で、現在アパレルや雑貨、眼鏡、靴、スポーツ⽤品などの⼩売業を中⼼に、約200ブランドが導⼊している。

「多いか少ないか」ではない

 ⼩売業の問題は「ちょうどいい量」を⾒極める難しさだ。特に中⼩企業では、⻑年の経験や担当者の肌感覚で仕⼊れ量を判断するケースも少なくない。⼀⽅で⼤⼿企業も数百店舗、数万種類の商品を抱えており、⼈の⽬で分析するには限界がある。

 同社のサービスは、こうした⼩売業の在庫の悩みにアプローチ。「倉庫に商品があるのに、売れる店舗で⽋品している」「別の店では余っているのに必要な店に移されていない」「本来なら定価で売れた商品を早く値下げし過ぎている」などの⼀つ⼀つの〝取りこぼし〟を分析。

 瀬川さんは「もし⽋品していなければどれだけ売れたのか。値引きの時期を変えていればどれだけ利益を残せたのかなどの機会損失を可視化できます」と話す。

3度の倒産危機から生まれた

 発想の原点には、瀬川さん⾃⾝の苦い経験がある。2012年に夫婦でEC事業を始め、ベビー服を販売。事業は伸びたが、売上を増やそうと仕⼊れを膨らませた結果、⾃宅は⾜の踏み場がないほど在庫が積み上り、資⾦繰りが悪化。倒産⼨前にまで追い込まれた。

 「売れない商品をセールにかけ、現⾦に換えなければ会社がもたない」と考えた瀬川さんは「これから売れる商品」「売れにくい商品」を数字で判別する仕組みづくりに着⼿する。

「⼩売業にとって、在庫は経営そのもの」と話す瀬川さん

 瀬川さんは分析を進める中で、商品は単純に「売れる」「売れない」の⼆分 類だけではないことに気付く。過去に売れていたが、新商品ばかりを販促するうちに店頭で⽬⽴たなくなり、販売量が落ちている商品もあった。「再び販促にかけると、売上が伸びることがわかったんです。新商品で鮮度を⾼めるだけでなく、今ある商品の⾒せ⽅を変える⽅が在庫効率がいいことに気付きました」(瀬川さん)

 その後も送料無料で客数を増やせたが、採算が悪化するなど合計3度の倒産危機を経験。その都度、在庫や価格、客単価などを数字で分析し、経営を⽴て直した。

 ⼤学時代に慶應⼤理⼯学部で予測モデルを研究していた瀬川さん。得意のデータ分析と⾃らの⼩売業での経験をもとに、17年にクラウドサービスとして事業化。18年にはEC事業を売却し、経営資源をFULL KAITENに集中させた。

在庫を減らしても売上は落とさない

 導⼊企業でも成果が出始めている。スポーツ⽤品⼤⼿のミズノは、店舗間やECへの在庫移動で活⽤しており、粗利益が⽉約466万円増加した。実店舗用の在庫をEC用へ融通する「倉庫間移動」により、74.5%の商品が実際にECで売れたという。

 ⼥性向け下着を販売するピーチ・ジョンでは、⼀部店舗でFULL KAITENが算出した数量を出荷に活⽤。出荷数量を20%抑え、店舗の在庫を前年よりも14%減らしながらも売上を維持した。

 「多くの企業は機会損失を嫌がって在庫を増やしますが、すべての商品が売れ筋になるわけではありません。在庫を増やせばお⾦に換えるために値引きも必要になる。量が増えるほどリスクも⾼くなります」と瀬川さん。

「大量」から「適量」へ

 ⼈⼝減少が進む⽇本では、これまでの⼩売業を⽀えてきた⼤量⽣産、⼤量販売モデルは難しくなる。

 瀬川さんは「⽣産量や仕⼊れ量を減らすと原価は上がる。しかし、それでも企業は利益を出していかなければならない。どこで利益を失っているのかを⾒つけ、改善することが、ますます重要になる」と話す。

 在庫は減らすべき〝余り物〟ではなく、⾒⽅を変えれば売上や利益を⽣み出せる経営資源になる。

 同社は「今あるものを、どう⽣かすか」のアプローチで、⼩売業の新たな稼ぎ⽅を提案し続けている。

(佛崎一成)

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