「死者のホテル」って何?

スポンサーリンク

迫る〝多死社会〟増えぬ火葬場

 大阪国際大学と週刊大阪日日新聞が協働し、大学生たちが新聞記者の仕事を実践する「PBL演習Ⅲ」(担当教員:尾添侑太准教授)を同大学で実施した。学生15人が7グループに分かれ、自分たちで見つけたテーマについて、人と会って取材し、記事を作成した。新聞離れが顕著な大学生に新聞に興味を持ってもらうとともに、活動を通して学内外のさまざまな人たちとコミュニケーションを図り、自分の意思を形成することを学んでもらう事が狙い。
 本紙「わかるニュース」でおなじみの畑山博史論説委員のもと、学生たちはテーマ決め、アポの取り方、質問の作り方、取材、記事の書き方などで試行錯誤を繰り返し、それぞれ1本の記事を仕上げた。今回は、日本のカルチャーとして一躍変貌を遂げた「令和ガチャの進化と『大人熱狂』」と、〝多死社会〟の課題から生まれた「『死者のホテル』って何?」の二つを紹介する。

 関西唯一の遺体安置ホテル「ご安置ホテルリレーション」が大阪市北区の阪急中津駅からすぐの場所にある。日本は少子高齢化の影響で14年連続して人口減少し、団塊の世代の75歳後期高齢者入りで今年の65歳以上死亡者数は約140万人と全体の85%を超えると予測される。「多死社会」の今後の深刻な課題は火葬場不足による葬儀の遅延だ。このホテルはその間の遺体安置を引き受け、葬儀や火葬までの期間に故人を知る人々が宿泊することもでき、生ける者同士の交流時間にも当てられる。都市部住宅事情などで自宅での遺体安置や葬儀が困難なケースにも対応、葬儀に関するさまざまなニーズに応える施設として存在感を増している。現場で話しを聞いた。
(武部柚花、三坂莉々采)

遺体を寝かせる布団
遺体を寝かせる布団

 一般的な葬儀場内宿泊施設と遺体安置ホテルの最大の違いは、遺体の滞在期間。葬儀場は通夜から葬儀終了まで通常2~3日程度遺体保管するのに対し、遺体安置ホテルでは火葬順待ちが発生しても遺体を冷凍保存し1週間程度でも保管できる。他にも遠方から到着する親族待ちや、自宅での安置が難しいケースなど様々な葬儀開催までの時間的課題に対応できる。通常の葬儀はもちろん家族葬や宗教形式葬儀も「リレーション」で行うことが可能で多様化に適している。
 「多死社会」到来に、特に都市部ではコロナ禍以降火葬順待ちが顕著となり、火葬場新増設は今後も困難が予想され、その状況はさらに延びると予想される。このホテルは遺体を衛生的かつ丁寧に保管してくれ遺族も同宿できるため、故人と別れる最後の時間を共に過ごすことが可能で今後さらにニーズが高まりそうだ。

遺族が宿泊する部屋
遺族が宿泊する部屋

 ホテルでの業務について担当のTさんは「最高のサービス業」と胸を張った。家族ごとに異なる別れの形や想いを尊重、それぞれに合った葬儀スタイルを提供する。生涯一度きりの葬儀を悔いのないものにするために、遺体は冷凍保管庫での保存だけでなく、遺族が触れ合うことができるよう布団に寝かせ24時間体制でドライアイス交換も行ってくれる。
 大阪市の場合、冬場などの火葬順待ち期間が最大1週間程度発生するケースがあり、多い月には100件ほどの遺体が同ホテルに預けられる。保管数が増えても提携している冷蔵施設利用が可能だから受け入れに問題はない。遺族や関係者は遺体と随時対面でき、事務的ではない温かみある〝最後の別れ〟を演出してくれる。
 「多死社会」は、一部の人だけの問題ではない。誰もが突然最期を迎える危険性はあるし、いつ何時に身内の葬儀を催す立場になるかも知れない。しかし火葬場だけでなく葬儀場の新増設を地域住民は簡単には受け入れてくれない。総論で必要性は理解できても、自宅近くという各論部分で納得してもらえないのだ。
 コロナ禍以降家族葬の割合が飛躍的に高まり、大規模葬儀場に参列者が送迎バスや車で詰めかけごった返す光景はめっきり減った。逆に1日1、2件限定で家族葬が行える小規模施設は徐々に市街地でも増えている。こうした施設のバックアップにも「リレーション」は欠かせない存在になっているようだ。私たち世代が「まだまだ遠い存在」と感じていた葬儀ビジネスも日々変革を遂げている事を目のあたりにした。