万博で出会った技術の結晶 サステナブルな世の中を目指した器「ORIZARA」

 万博会場内のギャラリーEASTで5月27日から6月1日までの間、「饗宴! 匠が演じる日本美の世界」が開催されている。全国各地、地域に根差した伝統の技を継承する職人や工芸家、クリエーターたちの作品が大集合。どれも見応えのある超高精細で完成度の高いものばかり。作品ジャンルは、陶磁器、漆器、織物、木工品、金工品、表装品、和紙製品など幅広く、日本全国各地から50点を超える工芸品が揃っている。

 その中でユニークな試みにチャレンジしているのが、理美容機器メーカーの「タカラベルモント」(大阪市中央区)と、石川県金沢市で300年以上続く鋳物業者の「金森合金」の取り組みだ。展示されているのはシルバーに輝く魅惑的な器「ORIZARA」。リサイクルされたアルミで作られた工芸品だ。

 これは美容室などで使用されるヘアカラー剤を入れているアルミ製のチューブ容器を回収して、不純物を取り除き、溶解してアップサイクルしてできた器だ。

 飲み物に使用されるアルミ缶などは98%以上がリサイクルされているのに対し、同じ素材のアルミでも美容業界で使われるアルミチューブは大量廃棄が課題となっていた。そこで今回の万博をきっかけにタカラベルモントがこの解決策を提供できる金森合金を見つけ出しコラボレーションするに至った。

 美容室で使用されるアルミ製チューブ容器のリサイクルを難しくしているのは、容器に付着したり浸透している不純物を取り除くことだった。

 ところが、金森合金が持つ技術を利用すると通常では処理するのが難しい不純物を除去することができるので、純度の高いアルミが作り出せる。

 今回はこの技術を使って器を製造した。工業製品として大量生産するものではなく、100年経っても価値が落ちない工芸品といえるレベルの逸品まで向上させた。表面のザラザラ具合や、見る角度によって光の反射角が変わって光り方が違って見えるという、工芸品と呼べる魅力的な仕上がりになっている。重量は小さいものが約100グラム、大きい方が約300グラム。

 今後、この素材を大量に生産できるようになれば、様々なものの製造に利用できるという。工作機械だったり、何かのパーツだったり、と利用先は無限にありそうだ。

 天然資源には限りがあり、特定の国の影響を受けやすくなっている上に、資源全体の価格も上がっている。諸々考え合わせると、再利用できる資源を生み出せるか否かは重要な産業事案になる。

 現在、ハイレベルで不純物を取り除ける企業は多くないため、金森合金を中心に鋳物(いもの)業者でタッグを組んで、技術の横展開を進めていく必要があるが、実務的には可能だという。
 冒頭に説明したアップサイクルの「システムを作る」ためには、技術革新や大量の資金が必要なのではなく、人々がリサイクルをしなければいけないと思って行動することが必要で、そのシステムができれば、自然と再利用できる廃棄アルミの量は増えていくはずだ。

 万博のテーマにも含まれる「サステナブルな社会」を実現するための取りくみが小さいながらも形になっている。万博がなければ生まれることのなかったこの素材の未来は、人々の心がけ次第で大きな成果を生み、社会に還元されるかもしれない。

 催事の会期後は、シグネチャーパビリオンでこの器が販売されるので、購入してみたい人はそちらへ行ってみては。