〝相続登記義務化〟2024年4月施行
所有者が分からない土地は、2040年には約720万ヘクタール(北海道本島約780万ヘクタール)に及ぶとされ、国や自治体、民間企業にとって、国土や不動産の有効活用が妨げられる大きな要因となる。一方、最近では放置した空き家の大量発生による環境問題にも発展。そこで、この問題の解決策として、24年4月1日から施行される〝相続登記義務化〟について考えてみたい。
所有者(名義人)不明の不動産は相続・売却に大きな支障
2017年(平成29年)12月に公表された所有者不明土地問題研究会(一般財団法人国土計画協会)の最終報告で、「16年(同28年)時点の所有者不明土地面積は、地籍調査を活用した推計で約410万㌶、九州(土地面積約367万ヘクタール)以上に存在する」という報告があった。増加傾向が続けば、40年度単年で、経済的損失は約3100億円に上り、累計損失額は約6兆円と試算されている。
所有者不明土地・建物は、登記簿などの所有者が分かる台帳が更新されていない、いわゆる相続が発生しているにもかかわらず放置されているケース。また、郊外や地方では過疎化が進み、不動産価値が減少し誰も欲せず長年所有者が誰か分からない不動産など、相続や売却などの取引や利用に大きな支障が生じている。
〝相続登記〟権利関係が複雑にならないうちに! 法改正前の相続物件も登記対象
早めの遺産分割協議
土地・建物・マンションなどの所有者が亡くなった場合、相続人の名義に変更する手続きを〝相続登記〟という。来年4月1日の施行以後、相続人はその取得を認知してから3年以内に相続登記をしなければならない。正当な理由なく怠れば「10万円以下の過料が課される」可能性があるが、注意しなければならないのは、法改正以前の相続登記物件も適応されることだ。
相続登記は、その不動産の所在地を管轄する法務局で行う。相続登記の手続きは、まずは相続する不動産を確認するために、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を入手する。不動産は、土地と建物に分けて登記されているので、それぞれの所有者と持ち分を確認。共有名義になっている場合は、亡くなった人の持ち分だけ相続登記をする。
土地・建物を母親(故人・被相続人)が3/5、長男(相続人)が2/5を所有している場合、母親の持ち分3/5を相続人の兄弟が遺産のわけ分の話し合いを行う。合意形成ができたら、遺産分割協議書としてまとめ、相続人全員の署名・押印をする。遺産分割協議書は、相続登記の手続きを進める上で最も重要な申請書であることを認識する必要がある。その後、不動産を引き継ぐ人は、必要書類を集め相続登記の準備を行う。
相続人申告登記
しかし、遺産分割がまとまらず、相続登記を申請することができない場合は、自分が相続人であることを法務局の登記官に申し出ることで、相続登記の申請義務を果たすことができる「相続人申告登記」の制度がある(24年4月1日施行)。この制度を利用すれば、自分が相続人であることが分かる戸籍謄本等を提出するだけで申出はできるが、権利変動を公示するという従来の登記とは全く異なる役割を持つことは認識しておかなければならない。
所有者の発見が特に困難〝未登記物件〟
現在、相続登記において、権利(土地・建物の所有権や抵当権)に関する登記の義務はないが、土地や建物の表示義務(表題登記)については以前から義務化されている。表題登記とは、建物を新築した場合の登記で、その所有権の取得の日から一カ月以内に申請をしなければならない。しかし、表題登記がされていない建物は今も多い。住宅ローンを組む場合は、必ず抵当権設定の必要性から登記を行うが、現金で新築を購入、また一部増築などの小規模工事でリフォームローンなどを利用しないケースでは特に顕著だ。
相続登記の義務化同様に、表題登記の登記申請を怠った場合も「過料が課せられる」と従来から不動産登記法には定められている。しかし、現状過料が課せられることは少なく、今後についても不明だ。
登録免許税は、固定資産評価額から算出
相続登記に必要な登録免許税は、土地・建物それぞれに、固定資産評価額×0.4%で計算される。固定資産評価額は、土地や建物などについての資産評価額が記載されている固定資産評価証明書で確認できる。固定資産評価額は、「固定資産評価基準」をもとにして市区町村長が決定し、3年に1度見直されている。
司法書士や弁護士など専門家に相談
相続登記手続きは、法務局に相談して個人でもできる。しかし予約が必要で混雑も予想され、司法書士など専門家に依頼することが多くなりそうだ。また、相続人の間でトラブルなどが発生しているような場合は、紛争の解決はもちろん相続登記もできる弁護士に依頼した方が良い。相続登記は、トラブル防止のためにも権利関係が複雑にならないうちに手続きを進めることだ。
遺産分割協議による登記の必要書類
遺言書がなく、複数の相続人がいる場合の一般的な必要書類
▽戸籍謄本(除籍謄本)
被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
相続人全員の戸籍謄本
(※被相続人の死亡日以降発行分)
▽住民票(除票)
被相続人の住民票(除票)
不動産を取得する相続人の住民票
▽登記申請書
▽固定資産評価証明書
登記申請時の年度の証明書
▽遺産分割協議書
相続人全員の記名・捺印(実印)が必要
▽印鑑証明書(※相続人全員)
▽相関関係図(家系図)