大阪天満宮を中心に、参拝や買い物客でにぎわうことの多い東天満。しかし実際は、歴史のある古本屋、映画館、ゲームセンター、レコードショップなど、〝サブカル好き〟が泣いて喜ぶ店の集まる聖地でもあるのだ。今回はそんな隠れざる一面を持つ東天満エリアについて読者の皆様に紹介したい。
JET
新潟出身、大阪在住10年目の記者。元来の友人・交流の少なさのおかげで数多くのインドア系趣味を持つ、30代の独身。最近の趣味はハロー!プロジェクト(アイドル)の音楽鑑賞と現場巡り。Webサイト「オモコロ」で執筆中。
東天満とは…
京阪電車・大阪メトロ天満橋駅から大阪メトロ扇町駅あたりまでを指し、東はオフィス街、西は天神橋筋商店街と平日・休日を問わず、絶えず人でにぎわうエリア。「ひや、きおーがん」で有名な樋屋製薬や象印マホービンなどの企業もオフィスを構える。春になると造幣局の桜の通り抜けが有名だが、今回はそのようなメジャーなスポットは紹介しないのであしからず。
天満エリアの文化の集積地 アート好きならここに集まれ
扇町キネマ
映画・音楽・舞踊・伝統芸能・美術・体験型講座などあらゆるアートジャンルが集まる10個のキューブ(立方体)からなるシアターコンプレックスとして、2003年10月に開館。250席、100席、50席の劇場空間から構成されている。1月26日からは寺山修司生誕90年記念として、「ジャパン・アヴァンギャルド-アングラ演劇傑作ポスター展」と題した展覧会が開催されるなど、アンダーグラウンド系アートにも力を入れているシネコンだ。
大阪市北区南扇町6-26、10:00~22:00
不定休
「ジャパン・アヴァンギャルド」とは
1960年街80年代にかけての、商業演劇とは一線を画した「アングラ」と呼ばれる劇団のこと。それらの公演ポスターは、前衛的な内容からいまだに高い創作的評価を与えられている。
さまざまな音楽ジャンルがそろう多国籍レコードショップ
TOTOTO RECORDS(トゥトゥトゥレコーズ)
天神橋筋1丁目商店街に居を構えるレコードショップ。店主いわく「陳列するジャンルにこだわりがなく、その時その時のおすすめをそろえている」とのこと。レコードのみならず、CD、古着、雑貨などの取り扱いもあり、買い取りにも力を入れている。
大阪市北区天神橋1-18-14
手焼きパントリーゴ 3階
12:00~20:00、水曜定休
エマーソンレイクアンド・パーマー「トリロジー」
イギリスで60年代後半街70年代に君臨したスーパーバンドの通算4枚目のアルバム。ジャケットが示す通り、3人の演奏のハーモニーがより強調された内容となっている。
由緒正しき対戦型特化のゲームセンター
ゲームセンター KO-HATSU(コーハツ)
対戦型格闘ゲームの聖地として、最新ゲームから懐かしのレトロゲームまでを幅広くそろえる、昔ながらの雰囲気が味わえるゲームセンター。日替わりでさまざまなレアゲームが稼働しており、有志による大会や、対戦会のリアルタイム配信も行われている。ゲームセンター文化の火を絶やさぬように火種を燃やし続けている。
大阪市北区天神橋2-2-21
月~金 17:00~24:00、
土 12:00~24:00、
日 12:00~23:00、年中無休
超希少台!?「ブレイカーズリベンジ死華護(シカゴ)」が遊べる
国内では設置台数の少ない「ブレイカーズリベンジ死華護(シカゴ)」。その他にもマイナーゲームの対戦会が定期的に実施されている。そのほか「ストリートファイター6」といったメジャー級最新アーケードゲームも稼働中。
文学書からコミックス、サブカル、アイドルグッズまで幅広い
矢野書房
戦前・戦後の日本文学を中心に、幅広いジャンルの古本を取りそろえている。店の奥にはショーケースに陳列された戦前の書籍もあり、隅々まで散策するのがおすすめ。また、男性アイドルのグッズを扱うショップが併設されているのも特徴。レアなものの取り扱いも多くあるため、ファンは1日グッズを「ディグって」(発掘)みるのもアリ。
大阪市北区天神橋3-6-14
11:00~19:00
不定休
マニア垂涎(すいぜん)の品が多数
貴重な日本文学や漫画資料、マニア垂涎の手塚治虫「ターザン」の販売も。諸事情であまり詳しくは取り上げられないが、某男性アイドル事務所のレア物グッズも多数取りそろえている。
学術書から美術書まで唯一無二の品ぞろえ
天牛書店 天神橋店
天井の高い店内に整然と古本、雑誌、文庫が並べられており、初心者にも目的のものが探しやすいのが特徴。文庫や新書系が充実しており、記者個人的にはこの店で講談社文芸文庫シリーズを収集するのが垂涎(すいぜん)のひとときである。公式インスタグラム(@tengyu_bookstore)では、骨董性の高い貴重な書籍の書影を公開している。
大阪市北区天神橋3-7-28
11:00~20:00(日、祝 ~19:00)
年中無休(年末年始を除く)
筆者の愛する講談社文芸文庫シリーズ。あまり中古書店では見かけることの少ない大江健三郎の代表作「万延元年のフットボール」が880円(税込)で販売されていた。
JET的勝手に書評コーナー
ここでは、東天満の古書店で購入した書籍を記者目線で勝手に論評をさせていただく。
教祖の文学 不良少年とキリスト 坂口安吾
戦前・戦後にかけて活躍した文豪、坂口安吾の評論・エッセイ集。『無頼派』の代表格でもある彼の文章は、どんな権力にもおもねらない歯に衣(きぬ)着せぬものである。本作品中ではとりわけ、太宰治の自死に関しての印象をつづった『不良少年とキリスト』が秀逸。太宰の才能を誰よりも評価しつつも、自死という結末を辿った彼についての軽侮と尊敬の念、そして「どんなことがあっても、我々(われわれ)は生きていかねばならない」という安吾ならではの生命讃歌(さんか)が読む者の心に突き刺さる。
無能の人 つげ義春
作者の分身と思わしき漫画家がスランプに陥り、河原で拾った何の変哲もない石を売りに出してみるなど試み、「そんなもの売れるわけがない」と妻の罵倒を浴びながらも何とか理屈をこね、食いつなごうとするという人間の悲しみとギャグの織り混ざったストーリー。理想の芸術的漫画を描けない苦しみを背にしながら、どんどん貧困へと突き進んでいく姿を俯瞰(ふかん)で見つめる作者の姿が、おかしくもあり、しかしどこかで人間の「こだわり」について考えさせられる作品。