実家の相続、所有していてマイナス面ばかり…
相続したものの、利用するあてがないうえに買い手も見つからず、固定資産税や管理費用だけは払い続けなければならない〝いらない不動産(負動産)〟。舞い込んできた負担に音を上げ、悩んだ末に登記はせず、管理もしないで放置するといった〝逃げ〟。おかげで所有者不明の土地が増え続け、今や全国で九州よりも広い面積となったというから驚く。対策に迫られた国は4月から「相続土地国庫帰属制度」なるものを打ち出した。果たして「救世主」になるのか。
大阪市城東区に住むIさん(55)は昨秋、郷里から掛かってきた一本の電話にてんやわんやさせられ、思わぬ出費を強いられる事態に遭遇した。今も処理作業は続いており、「困り果てるなんてことも度々」という。そのてん末とは?
Iさんの実家は高知県の山間部にある。年老いた両親が2人で暮らしていたが、4年前に父親が亡くなった。父一人で従事していた農作業は、高齢の母にはできない。2人姉妹の長女だったIさんが家を継いだ。「こっち(大阪)に来たら」と誘ったが、母親は「ここを出たくない」と言うばかりだった。
実家は母屋と離れがあって、トイレと風呂は別棟という田舎によくある構造。年寄りには暮らしにくく、築50年で老朽化も甚だしかった。「離れない」年老いた母がひとりでも生活できるように、母屋に接した小さな空き地に木造の家屋を建てた。
人が住まなくなると建物は急速に朽ちてゆく。母屋にはシロアリが発生し、屋根が崩れ始めた。さらに柱が傾き、母屋全体が母親の暮らす建物に寄りかかってきた。ついには「放置していては危険」と地元の役所からIさんに連絡が入る。昨年9月には「一刻も早く」という解体を即す警告が発せられた。
一番下の娘が大学入学の時期を迎えていたIさん。経済的にも時間的にも「手一杯の状態」だったが、幾度となく〝高知通い〟を強いられた。結局、今年に入り、役所から回された業者と〝解体〟を契約。300万円近くもかかってしまった。「母がいる間は、後はこのままにしておくしかない。高知市内から車で40~50分の、たった5軒の何もない集落。山林もあるが、買い手がいるとは思えない。数年先には、また処分で悩まなければならないと思うと、相続放棄をしておけば、と少し後悔している」と苦笑する。
相続したものの、今は空き家となった遠い実家。通わなくなってからは老朽化が著しい別荘、不便で活用できない土地など、所有していてもマイナス面ばかりが大きい。
そんな体験をしたIさんが気になっているのが、4月に運用が始まる「相続土地国庫帰属制度」だ。
Iさんに限らず、こうした〝負動産〟が全国で増えている。処分したくても「ゼロ査定で買い手もなし」となると、相続放棄するしか策がない。しかし放棄となると、他の財産もすべて放棄しなければならず、これは避けたいというのが偽らない気持ちだろう。
途方に暮れた相続人は相続登記をせずに、知らぬ顔を決め込む。結果、所有者が不明といった土地が増え続け、2016年の調査では全国で410万㌶という途轍もない面積が判明している。防災の面からも、財政上も、これ以上は問題を放置できないとあって、国が乗り出して成立させたのが、そんな土地を国が引き取るという今回の制度だ。さらに罰則付きの「相続した不動産の移転登記の義務化」の法律が来年4月に施行される。