【シリーズ「2025大阪・関西万博」①】〝万博の華〟海外パビリオン 一挙紹介

国の威信かけ、こだわり抜いた建築デザイン 終了後には再利用も

 2025年大阪・関西万博まで1年を切った。「膨らむ会場建設費」「海外パビリオンの工事の遅れ」などネガティブなニュースばかりが世間をにぎわしているが、読者が本当に知りたいのは、ほとんど報道されていない万博の中身についてだろう。そこで本紙では、今号から4回シリーズで特集を計画。まずは〝万博の華〟といわれる海外パビリオンについて迫る。(佛崎一成)

 大阪・関西万博には世界160を超える国と地域が参加し、海外のパビリオンは会場のランドマークにもなっている円周2㌔の大屋根リング内に建設される。

 パビリオンにはA・B・C・Xの4種類のタイプがあり、目玉は各国政府が独自のデザインで設計する「タイプA」だ。従来のパビリオンは、あらかじめ用意された建物に装飾を施すスタイルが一般的だったが、大阪・関西万博のタイプAは、各国が建物の設計から携わるのが最大の特徴となる。

 もちろん、ゼロからの設計だから一筋縄にはいかず、各国政府と建設事業者との間で意思疎通がうまくいかない面も多々あった。

 「だが、今はそれを乗り越え、続々と建設が始まっている」と2025年日本国際博覧会協会で広報・プロモーション局長を務める小林浩史さんは力を込める。

 5月9日時点でこのタイプAを目指す国は53カ国あり、うち39カ国はすでに建設事業者が決まっている。

 小林さんは「パビリオン建設をめぐって調整が大変な時期があったのも事実だが、裏を返せばそれだけ建築デザインにこだわり抜いているということ。国の威信をかけた結晶でもある。ぜひ会場で実物を体感してほしい」と呼びかけている。

再利用見据えて建設

 万博は時代を映す鏡だ。過去にはモノを見せる万博が主流だったが、現在は人類共通の課題解決、いわゆるSDGsをテーマにした内容に移り変わっている。その辺りが今回の万博にどう反映されているか、各国のパビリオンから探ってみよう。

 「持続可能な社会」ということで、大阪・関西万博ではパビリオン自体が循環型の建物になっているのも特徴だ。スイスはシャボン玉をイメージしたデザインで、球体の重さは5つ合わせて400㌔以下。通常の建造物重量の1%ほどで万博史上最も軽い建物となる。加えて球体や展示スペースの資材は、万博が終わると家具などに再利用するという。

 ルクセンブルクも建物の構造自体がリサイクルしやすくなっており、終了後には交野市に移築して子ども向け施設として活用される予定だ。オランダは水から水素を取り出して再生可能なエネルギーを作り出す技術を紹介する。

見どころは

 海外パビリオンについて見どころを小林局長に聞くと、「まだ各国の全容が明らかになっていないが」と前置きした上で、「イタリアはアート作品やバチカン市国の芸術が見られるなど個性が出ている」と強調。

 また、次の万博開催地であるサウジアラビアにもふれ、「(サウジの)都市をそのまま持ってきて、街を探索するような没入型の体験が興味深い。ディズニーシーにあるアラジンエリア(アラビアンコースト)をさらにすごくした感覚」と説明した。

 さらに、万博では各国の食も楽しみの一つだ。前述のイタリア館では「屋上にはレストランを設けて庭園を眺めながらイタリアの食文化を楽しめる」(小林局長)し、「スイスも〝アルプスの少女ハイジ〟と一緒に食事のできるバーが登場する」(同)

 目玉は今後発表か

 ところで、今回の万博の目玉は何だろうか。1970年の大阪万博では4時間以上の待ち列を作ったアメリカ館の「月の石」が話題だったが、その「月の石」も実際には開催1カ月前にリリースされたものだった。

 このため、小林局長は「現段階ではまだすべてのベールを脱いでいないが、昔と違って見て終わりではなく、体験や交流が生まれる価値ある184日になると思う」と説明。さらに、「大屋根リングの円周2㌔の中に、各国が今一番面白いと思っているものすべてがギュッと詰まっている。またとない機会をぜひ体感してほしい」と話していた。

スイス連邦

©スイス連邦外務省 プレゼンス・スイス

テーマは「生命(ライフ)」「地球(プラネット)」「人間拡張(オーグメンテッド・ヒューマン)」の3つ。大阪・関西万博では地球環境への負荷が最も小さいパビリオンを目指す。

ドイツ連邦共和国

© German Pavilion / MIR LAVA facts+fiction

循環の「環(わ)」、調和の「和(わ)」、感嘆の「わ!」の3つの意味を込めた「わ! ドイツ」がタイトル。パビリオン自体が循環型・持続可能な建築の出展作品で、建築・景観・展示を一体化。

イタリア共和国 

パビリオンの中に入ると、イタリアの豊かな創造性へのオマージュを体現した劇場が来場者を迎える。最新技術と伝統が融合した最高級の〝Made in Italy〟がイベントや展示で披露される。

ルクセンブルク

© STDM architects

膜屋根を持つ鉄骨構造で、閉幕後に可能な限り部材の再利用を目指す。ルクセンブルクの自然や人々の暮らしなどをデジタル技術を用いて紹介し、伝統的な料理も提供される。

アメリカ合衆国

©Trahan Architects

「わび・さび」から着想を得た三角形の木造建造物2棟の上にはライトアップされたキューブが浮かぶように置かれ、2面のLEDスクリーンがアメリカの名所を映し出す。

サウジアラビア王国

©The Saudi Pavilion at Expo 2025 Osaka, Kansai, Japan

デザインはサウジアラビアの伝統的な都市構造物から着想。王国に深く根差した文化遺産、街や都市を探索しているような空間体験で没入感のある壮大な旅を楽しめる。

中華人民共和国

©素材提供:中国国際貿易促進委員会(CCPIT)

外壁は中国の伝統的な書道の巻物を広げた形がモチーフ。自然に由来し、自然に順応し、自然と調和して生きる中国文化をアピールする展示で迎える。

フランス共和国

©Coldefy & Carlo Ratti Associatti

テーマは「愛の讃歌」。互いの小指が結ばれる赤い糸を通じて、「自分への愛」「他者への愛」「自然への愛」といったさまざまな「愛」に導かれる新しい未来のビジョンを提案する。

オランダ王国

© Plomp

建物の中心には球体があり、持続的に利用可能なクリーンエネルギーと日の出を表現。パビリオン内では、クリーンエネルギーを水から生成する新技術を紹介予定。

オーストリア共和国

©BWM Designers & Architects

螺旋状のオブジェは楽譜をモチーフにデザイン。パビリオンでは、過去から未来、既知のものから未知のもの、現代の、そして最新のオーストリアを表現。伝統菓子も楽しめる。

ベルギー王国

©BelExpo ©Carré 7

「水」をコンセプトにしたパビリオンは3層に分かれ、「固体」「気体」「液体」をそれぞれのエリアで表現。ライフサイエンス、ヘルスケア分野の最新の人間中心技術が紹介され、レストランも設置される予定。

カナダ

© カナダ大使館

「再生」をコンセプトに春の訪れと共に凍っていた川の水が溶ける風景をイメージ。外観はカナダで見られる自然現象「水路氷結」を表現し、パビリオン内ではカナダの温かさ、開放性、前向きな姿勢を表現する。

チェコ共和国

EXPO 2025 Czech Pavilion Apropos Architects

建築は現代的な技術と伝統的な技術の融合。最新のCLTパネルが採用される一方で、外観には芸術的なボヘミアン・クリスタルを用いた美しい回廊状のパビリオン。

ポーランド共和国

パビリオン設計:アリシャ・クビツカ、ボルハ・マルティネス(Interplay Architects)

木材を基調にデザインした外観は、ポーランドの創造性と革新性の波の広がりを表現。コンサートルームではピアノのリサイタルが開催され、同国の作曲家・ショパンのピアノ曲が楽しめる。

オーストラリア連邦

外観はユーカリの木や花をモチーフとしたデザインで、国の活気と多様性を象徴。最新技術、豊かな文化、ダイナミックな社会を体感できるさまざまな文化イベントやビジネス・プログラムを開催。

「円周2㌔の中に世界が詰まっている」と話す小林局長