シンガー・ソングライターの蘭華が昨年末に出した3枚目のアルバム「遺書」が話題になっている。深刻な社会問題になっているいじめや誹謗中傷によるハラスメントを続ける者たちに対し「そして友は自ら命を絶った」と取り返しのつかない事態を訴える内容。これまでも一貫して平和や家族愛、生命、故郷などをテーマに歌い続けてきた彼女の歌声は重い示唆を含んでいる。
全10曲のアルバムは全て彼女の作詞作曲でセルフプロデュースした文字通り手作り。「アルバムタイトルは作品名から選ぶことになり、担当ディレクターは『僕は生きてる』、私は『遺書』を。〝前向きなタイトルにしたい〟と言われましたが、私のこだわりを受け入れて頂いた」と蘭華。
大切な友人を自死で失ったつらい経験をどうしても歌にしたかった。遺族から自分宛に残された手紙を読み、その痛みを曲にしたのがズバリ『遺書』だったからだ。『誹謗中傷をやめないあなたへ』とズバリの題名の曲もあり、全ての作品に強いメッセージ性が込められている。
独りではどうにもならない世界がもどかしい。今回収録した『愛を耕す人』は、2019年末にアフガニスタンで井戸開墾を続けながら凶弾に倒れた日本人の中村哲医師(享年73歳)を偲んで翌年発表した曲。「忘れはしないでしょう」とエールを送ったが、アフガンはその後、イスラム過激派勢力が全土を制圧し中村医師を讃えた壁画が消され、今も女性に対する人権弾圧が強まっている。
「世界中が混とんとし、力による支配が強まるばかり。でも私には歌で訴え続けるしかない」と顔をそむけずステージからメッセージを発し続ける。
両祖父母は福建省から来日した中国人。蘭華は本名で「中国から来日して日本人に愛されたパンダの蘭々から付けてもらった」と話す。母は9人きょうだいの末っ子。「私は父方の大分県中津市で生まれ育ったけど、日本中におじさんやおばさんがいっぱいいる。関西の京都、神戸や姫路にもいて、アルバムPRで各地を回る時、親戚の家に泊めてもらい、いとこと話しが尽きない」と楽しみな様子。
メッセージ性の強さは〝現代のフォークソング〟と例えられるが、蘭華自身は「まず自分のルーツである日中友好の架け橋になりたい。そのためにはいろいろな街の喫茶店やスナックなどで歌わせて頂いて、私の事をまず知ってほしい」とアピールしている。
(畑山博史)