【対談シリーズ】JTマーヴェラス監督と学習塾社長の滑らない話

2021/8/28

JTマーヴェラス監督 吉原知子 × 個別指導キャンパス 代表取締役 福盛訓之

 〝笑う門には福来たる〟のように、いつも笑って暮らしている家庭には幸運がやって来る。心掛け次第で暗くも、明るくもなるのが人生。そうだとすれば、心をいかに育むか。新教育総合研究会「個別指導キャンパス」の福盛訓之代表が、各界の人たちと語り合う。対談シリーズの4人目は、大阪市をホームタウンとするバレーボールチーム「JTマーヴェラス」の吉原知子監督。今回はオンラインで実施した。

一日一日の積み重ねが笑顔に(吉原)
指導者次第で高い目標へ(福盛)

吉原知子さん

よしはら・ともこ
 1970年、北海道出身。日本人初のプロバレーボール選手として国内外で活躍。92年バルセロナ五輪、96年アトランタ五輪、2004年アテネ五輪出場。指導者を目指して筑波大大学院で体育学修士課程を修了。15年にJTマーヴェラス監督就任し、Vリーグ2連覇に導いた。

 ―Vリーグ女子1部で2連覇達成。しかも昨年は全日本選手権との2冠。目標通りですか。

吉原 シーズンが始まる時、チームとしてどこを目指すのか、私は選手たちに聞くようにしています。選手本人がどうしたいのか、どうしていくのかが大切です。選手が打ち出した目標に対し、私は、こういうバレーをして勝っていこうとか、情報を提供しながらサポートします。

福盛 素人の私から見ると、バレーボール選手は日本一を目指すのが当たり前であり、それがモチベーションになっているはず。この点、どうですか。

吉原 私がJTマーヴェラス監督に就任した2015年、チームはVリーグの2部に降格していました。当時、選手たちは自信を持てないでいた。日本一は目標というよりも、夢でした。でも、どうしたいのかという目標を明確にする中で、自信を持ち始めた。選手の意識を変えるため、私はコミュニケーションを心掛けてきました。

福盛 プロのスポーツ選手は常に高い目標を掲げていると思っていました。吉原監督の話を聞き、必ずしもそうではないことを知りました。驚きです。実は、学習塾の世界でも、どこそこの大学に行きたいという目標を持った生徒は少ない。大半が、保護者の勧めで学習塾に通っています。だから、自信も持てないでいる。しかし、吉原監督のように、指導者のやり方次第で、目標を高いレベルに押し上げることができるわけですね。

吉原 日本一になってみたい気持ちは選手全員が抱いていますが、本当に実現する意思を抱いているかどうかは別です。気持ちを変化させることが指導者として大事になります。先ほど話した通り、私は15年に監督へ就任しましたが、それまで監督経験が無かった。しかも、低迷するチームを任されました。そこで、私が始めた指導法が「やれるんだ」という自信を持たせることです。そのために「あなたなら、できるから」と声を掛けました。もちろん、裏付けとして練習量をしっかり確保しました。

福盛 私は勉強が苦手な生徒に対し、褒めて伸ばすようにしていますが、これは、小中高校生が素直だから可能です。人生経験豊富な大人を相手に、この指導法は難しい。そう思っていました。でも、吉原監督は見事に実践している。

吉原 私は、いいモノはいい、悪いモノは悪いとはっきり伝えることにしています。ショックを受ける選手もいますが、私も自分をさらけ出し、本気でぶつかっていく。選手が憎くて言っているのではありません。みんなで納得し、約束したチームの目標を達成するため、選手たちに要求しているのです。バレーボールはチームスポーツだから、人とのつながりが肝です。つないでいかなければ、バレーボールはできません。

福盛訓之氏

ふくもり・としゆき
 1973年、大阪市出身。大学在学中の19歳で起業。96年に新教育総合研究会「個別指導キャンパス」(大阪市北区)を設立。個別指導塾を全国約330教室で展開している。第21回稲盛経営者賞第1位、第1回大阪府男女いきいき事業者表彰優秀賞、紺綬褒章など受賞多数。

福盛 吉原監督の話に引き込まれます。人間関係を構築する本気度、愛情がすごい。普通は、その域までたどり着けない。

吉原 私自身が成長しようと思っています。監督だからと偉そうにするつもりはまったくありません。間違いがあれば、選手に謝ります。選手から学ぶこともあります。私にとって一番勉強になるのは、選手の観察です。選手は私にサインを出しています。そのサインを見逃さない。そこから学ぶことも多いです。

福盛 選手に学ばせてもらっている、と吉原監督は本気で思っている。なかなか言えません。吉原監督の言葉に力があり、胸を打ちます。

 ―少し目先を変えましょう。吉原監督は、新型コロナウイルス感染防止にいろいろ苦労されたのではないですか。

吉原 密にならないようにコートに6人が立つ場面を避け、3~4人1組で練習しています。一方で、私は、自分と向き合う時間を選手に勧めています。例えば、読書とか、料理とか。私自身、読書が好きです。最近は『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』(中竹竜二著)を読みました。東野圭吾さん、赤川次郎さん、林真理子さんの小説も読みます。

福盛 コロナ禍にあっても、吉原監督は前向きだ。

 ―対談のタイトルは〝笑う門には福来たる〟です。最後に笑うためのこつは何でしょうか。

吉原 スポーツの世界は一日一日の積み重ねが笑いに結び付きます。妥協しないことです。

福盛 笑顔にも度合いがあります。何かをやり遂げた笑顔は、いい笑顔です。学習塾経営者の私の立場で言えば、生徒を指導する講師の育成が使命ですが、吉原監督のような指導者をつくるのは至難。やりがいを感じています。

吉原 私は指導者としてまだ物足りないと思っています。自分をもっと磨いていきたい。そして、周囲の人たちが成長するかどうかが、上に立つ者の責任であることを肝に銘じたいです。

福盛 名将だ。成功し終えた指導者ではなく、今を生きている指導者だからこそ臨場感がある。東京五輪でバレーボール女子の日本代表は1次リーグ敗退でした。3年後の24年パリ五輪へ、吉原監督の動向を注目していきます。

 ―福盛さんはすっかり、吉原監督のファンになりました。監督、これからもファンを笑顔にする活躍を期待しています。本日はありがとうございました。