俳優 石井正則 × 個別指導キャンパス代表取締役 福盛訓之
〝笑う門には福来る〟。新教育総合研究会「個別指導キャンパス」の福盛訓之代表が、各界の人たちと語り合う対談シリーズの11人目は、俳優やタレント、近年は写真家としても才能を発揮している石井正則さん。
合わなかったら、やめてもいい(石井氏)
すごく明るい前向きな発想に感心(福盛氏)
福盛 芸人として活動しながら、古畑任三郎シリーズの西園寺刑事役で俳優としてデビューされました。見事に未知の世界を切り拓いたイメージです。
石井 当時は芸人が俳優をするのが珍しい時代。とにかく足を引っ張ってはいけない、という意識しかありませんでした。いい芝居をしようとか、そんな大それたことを考える余裕すらありません。だからこそ、目の前にあること、やるべきことに集中できたのだと今になれば思います。
福盛 思い切って新しい一歩を踏み出すコツはありますか。
石井 僕はやりたいと思ったら、何でもやってしまいます。コツは「合わなかったら、やめてもいい」と思いながら始めることです。すると割とすぐに一歩目を踏み出せる。
福盛 気持ちが楽になるということですね。
石井 例えばギターを始める前に、「高いのと安いのと、どちらにしようか。でも安いと楽しくないと聞くし…」なんて考えているうちに3年くらい経っているケースがありますよね。
迷った結果、高級品を買って「これ合わない」と感じても、すごく悩んで高い買い物をしたから無理して続ける。すると楽しくない期間が、どんどん長くなります。それなら次の日に安いギターを買ってみる。もしも、すぐに嫌になったなら、やめるのも早い方がいい。時間をロスするよりも、次に進むのです。色んなことにチャレンジして、合っているものに出会う体験を何度も繰り返すうちに、一歩目を踏み出す癖がつく。将来、人生の大きな決断に対峙した際も、今までの「やってみたデータ」が蓄積されているから、大事な判断もしっかりしたものになるような気がしています。
最初はリスクの少ないことで、興味を持ったらまず取り組んでみるように心がける。実際に、始めたもののフェードアウトした趣味もたくさんあります。オカリナは20分でやめました(笑)。
福盛 すごく明るい前向きな発想に感心します。写真集の出版も、やってみる精神からでしょうか。
石井 ハンセン病療養所を撮影した写真集「13ハンセン病療養所からの言葉」ですね。テレビのドキュメンタリー番組を観た時、現場の写真を撮らなければならない感覚になったのです。一方でこの時も、行ってみて僕が撮るべき事柄ではないと感じたら潔くやめるつもりでした。結果は、訪れた瞬間「撮らなきゃダメだ」と確信。全国13カ所の療養所を何年もかけて回りました。情報はインターネットでも拾えますが、自分の足で訪れ、その場で話を聞くことに価値がある。その気持ちを携えながら、一枚一枚大切に撮りました。肌で空気や場所を感じることの重要性を再確認しましたね。
福盛 写真集は、写真展にも発展しました。
石井 ここまでの規模になるとは全く考えていませんでした。当時からハンセン病療養所は入所者も減少していて、風景もどんどん変わってきている状況だったのです。どう形にするかよりも、早く撮っておかないと次に来た時には景色が変化してしまっていることの危機感が大きかった。どんな事柄が自分と化学反応を起こして、良い方向に繋がっていくのかは、まずその世界に飛び込んでみないとわかりません。最初にお話したように、なるべく一歩目を踏み出すようにしていたからこそ、写真展や写真集のお話も来たのではないでしょうか。
福盛 幅広い活動を支える原動力は、肌で感じ取ろうという気持ちでしょうか。
石井 簡単に情報が入る今、うわべの知識で知った気にならないように注意しています。どんなに調べていても、リアルな経験がある人とない人では、一言一句同じことを喋ったとしても違いが出ますよね。
福盛 いい意味でアナログな感覚を大切にしていらっしゃいます。
石井 情報だけではなく、そこにあるエネルギーのようなものまで自分の中に貯めていくニュアンスとでもいうのでしょうか。そのためには、現場に身を置かないと吸収できないと感じています。ハンセン病療養所で直接お話を伺った人は明るくて元気な人が多く、たくさんのエネルギーをもらいました。その時に得た活力は、無意識に芝居などに滲み出るはずです。個人的な考えですが、聞きかじった知識では、こうしたパワーは出ないでしょうね。
福盛 今の子どもたちは、生まれた時からネット環境が整っています。
石井 実際の体験や感じてきたことが、さらに大きく影響する時代に入ったと感じます。細かいことはAIがこなしてくれる時代になりました。人間がやるべきことは、コミュニケーション能力など、より人間力が求められる分野になるはずです。興味を持ったら、ちょっとしたことでもいいから、踏み出した方が力になると信じたいですね。
福盛 まずは自ら一歩踏み出す。デジタル時代だからこそ届けたいメッセージです。
(司会・写真は上部武宏、記事は岩崎甚)