恒大集団破綻、景気停滞、若年失業者の急増…
〝三重苦〟中国経済 日本への影響は?
中国がおかしい。今春「ゼロコロナ」政策を突如解禁し、一気に経済成長に舵を切ったと思われたが、半年近く経っても景気の停滞が続いている。先週には、不動産大手「恒大集団」が米裁判所にドル建て債務48兆円を抱えて破産申請。さらに中国内では雇用が伸びず、若年失業者がついに2割超えに。その途端、中国政府は「若者の失業率発表を来月から取り止める」ときた。
共産党の一党独裁で、国民生活や経済よりも党が全てに優先する専制政治の中国。都合の悪いことは当然のように隠すので、欧米は警戒してすでに距離を置き始めた。しかし、日本にとっての中国は、最大の貿易相手国だけに影響は深刻だ。不気味なお隣さんの〝不都合な真実〟を調べてみた。
「20年代に米を抜く」は幻!?
どこの国も経済は数字だ。中国経済はコロナ禍と不動産不況にありながらも、何とかGDP(国内総生産)で年3%前後の成長を続けていた。コロナ明けでも「急増は見込めない」から微増の年4%で、その程度は今も維持し続けている。
ところが、ここへ来て輸出が停滞し、貿易収支が3カ月連続して減少。中国より一足先にコロナ明けした欧米が、景気が減速気味なのに加え、特に政治的対立を続ける米国への輸出が激減している。
国内需要も卸売物価指数(企業間取り引き)が10カ月連続してマイナスとなり、消費者物価指数(個人の購買意欲)も2年5カ月ぶりにマイナスに転落。個人消費は中国で「日本病」とも呼ばれる〝不動産バブル崩壊→少子高齢化で内需減→結果デフレ〟とわが国がたどってきた道を進んでいる。
デフレの原因も①若年層失業率増大②民間企業の賃金抑制③民間企業の格差拡大─にあり、こちらも日本に似ている。
「2020年代にGDPで米国を抜き世界一になる」と豪語していた中国だが、明らかに黄信号が点滅している。
根深い〝負の3連鎖〟中身
不動産バブルが弾けるのは、どこの国でも政府の差し金による金融引き締めが原因だ。中国ではコロナ最中の21年に、政府がマンション価格の高騰を抑えるため、「不動産会社の財務規制強化」を打ち出してから、一気に資金繰りが悪くなった。何も「恒大集団」だけでなく、最大手の「碧桂園」もピンチの状況にある。
中国では土地の個人所有が認められていないので、マンション購入と言っても日本の定期借地権のようなもの。客はマンション工事中から権利確保へ手付け代わりにローン払いを始めるのが中国式だが、資金難で工事が止まり、各地では客の怒りが満ちている。国内GDPの3割が不動産だから事態は深刻だ。
仮に「恒大集団」ショックが「碧桂園」まで飛び火すると、日本の30年前の〝バブル崩壊〟よりも世界経済へのダメージは大きい。特に日本経済は、企業の中国依存度が極めて高いので実体経済に必ず悪影響が出る。
2つ目は、地方政府(日本の都道府県)の財政破綻危機だ。根本原因は、中央政府の過去10年に及ぶ地方インフラに対するバラマキ投資。再生産力に乏しい地方へ過剰投資しても回収返済できないのはどこの国でも当たり前。地方政府の債券発行は中央政府の許可がいるが、抜け道的な方法として地方政府傘下の投資会社「融資平台」に資金調達を請け負わせた。この隠れ債務が、IMF(国際通貨基金)の試算で、日本の国家予算の10年分以上となる1300兆円あると見られている。地方政府が債務不履行になると、年金の支払いが遅れたり、地方銀行が倒産したりすることなどが予測され、住民の不平不満への発火点となる。
3つ目は、こうした状況を受けての人民元下落だ。金融市場では10年物の国債利回りが2・5%に低下し、米中の金利差が広がりつつある。国際金融市場で人民元は売られ8月10日には1㌦7・289元と約15年振りの安値に陥った。通貨下落は緩やかに進めば輸出企業にとってプラスだが、急激だと中国の内外投資家が逃げ出し、資金流出が起こる。
進出の日本企業ビクビク
日本政府レポート「海外経済の潮流」にも〝わが国のリスク要因〟として、この記事の中で私が書いた中国の「不動産低迷と若者失業率上昇」が紹介されている。昭和の日本経済は「アメリカがクシャミをすると、日本は風邪を引く」と言われたが、令和の貿易相手国トップは中国だ。日本企業の進出数も中国が最多。日本経済は内需が弱い分、中国向け輸出の占めるウエートが大きいから、7月の貿易統計でも早速、悪影響が出ている。
日中関係は1990年代から「政冷経熱」と胡錦濤主席が言い出し、尖閣や靖国の問題を棚上げして、日本企業の中国進出が続いた。現在は政治的に福島原発処理水海洋放出問題と3月のアストラス製薬現地法人トップの無説明拘束が続いており、更に米日韓トップの対中政策連携強化で日中の溝は深まるばかり。進出日本企業にとって中国はアジアビジネス最大の市場だが、突然の追放や拘束のリスクがつきまとう神経質な展開が続いている。
習近平に全てのカギ
現代中国は、毛沢東初代主席が第2次世界大戦後に前政権・国民党との内戦に勝利し建国した若い国。その毛主席は「文化大革命」などで経済政策に失敗。1989年の「天安門事件」や91年盟友「ソ連崩壊」を経て、鄧小平が90年代「改革開放」を指揮し経済大躍進に成功、国民の1人当たり所得は一挙3倍のレジェンド成長を遂げ「世界の生産工場」となり、次は西側と協調して民主化に向かうものと期待された。
しかし2013年春に就任した習近平主席(70)は「国進民退」を打ち出す。国有企業を中心に据え、急成長したITなどの民間企業は叩いて服従させる方針に転換。4000年の歴史で一度も民主化された事がない中国人は、民主主義国のように自分たちの意思で進退を決めるより、強い指導者たる共産党=習近平に豊かな暮らしを与えてもらう方を望んでいるようにみえる。
習主席は「最長2期10年」の任期を自ら改訂し、今春異例の3期目入り。この間、香港民主化勢力や新疆ウイグル地区住民を徹底弾圧。南シナ海への強引な海洋進出。台湾海峡での緊張激化。さらにウクライナ侵攻後のロシアと結びつきを強めるなど、欧米や日韓台との対立を先鋭化している。世界の「21世紀にはリアル戦争がなくなり、経済もグローバル化する」という期待を伏すのに一役買った。
その裏で中国では、かつての〝一人っ子政策〟の反動で、2人目以下を解禁しても国民反応は鈍い。少子高齢化は進むばかりで「貿易の落ち込みを、国内消費でカバー」するという思惑は果たせそうもない。こういう時は「内政の失敗を外敵に求める」のが歴史の定石。経済の閉塞感が台湾有事の暴発を招く危険性は増している。
太平洋を隔てた米国にとって、アジアは遠い存在だ。先日の米日韓首脳会談は「中朝への初期的対応は、日韓に任せた」とのバイデン大統領の思惑がある。安倍元総理が舵を切った〝戦争ができる国ニッポン〟は、その後も強化充実の一途。もう日中関係は「政冷経熱」の美辞麗句だけでは続けられない。