【対談シリーズ】落語家と学習塾社長の滑らない話

落語家 桂 福丸 × 個別指導キャンパス 代表取締役 福盛訓之

 〝笑う門には福来たる〟のように、いつも笑って暮らしている家庭には幸運がやって来る。心掛け次第で暗くも、明るくもなるのが人生。そうだとすれば、心をいかに育むか。新教育総合研究会「個別指導キャンパス」の福盛訓之代表が、各界の人たちと語り合う。対談シリーズの1人目は、落語家の桂福丸さん。

親子の会話で「しゃべり」育つ(桂)
親の姿が子の物差し(福盛)

かつら・ふくまる
 1978年、神戸市出身。灘中・高から京都大法学部へ。卒業後はフリーターとして生計を立て、英語落語を学習。2007年、4代目桂福団治に入門。「福丸」の名付け親は作家の藤本義一氏。天満天神繁昌亭などの落語会に出演中。奈良県王寺町子ども落語教室講師。

 ―福盛さんの目に、桂さんの学歴はどう映りますか。

福盛 灘中、灘高、京都大法学部という最高難易度な学歴をお持ちです。就職先がメガバンクなどであれば自然ですが、落語家の道に進んだことにとても興味を覚えます。おそらく、やりがいを見いだしたと思いますが、「やりたい職業」をどのように見つけましたか。

 実は、大学卒業後6年間はフリーターとして生計を立てていました。学生時代にサークルのイベントで司会、コント、演劇をする機会が多く、次第に、自分に合っているのは舞台ではないかという気持ちが強くなりました。一般に、人生のうち約50年間働くとすれば、仕事が自分に合っていなければストレスになります。自分に合わない職業を選択肢から外していった結果、落語家にたどり着きました。

福盛 自分のやりたいことを見つけるまで一定期間を要していたのですね。納得できなければストレスになるという考え方は印象的です。落語家になって今、幸せですか。

 自然体でいられることは幸せです。

 ―新型コロナウイルス禍で、先行きの不安が広がっています。この時代をどう生きるべきでしょうか。

福盛 私は47年間生きていますが、仕事も、家庭もうまくいく「特効薬」はありません。受験勉強もそうです。新型コロナ禍で、この先どうなるかという不安もあろうかと思います。学習塾は即効性を期待されがちですが、私は、毎日の積み重ねが必要だと考えています。そして、人間としての道徳観を養うことも大事です。インターネット全盛の現在、情報が一方通行だったり、価値観が分断されたりする傾向があります。こうした環境にどう向き合うか。この点も、これからは一層問われていきます。

ふくもり・としゆき
 1973年、大阪市出身。大学在学時の19歳で起業、96年に新教育総合研究会「個別指導キャンパス」(大阪市北区)を設立。学習塾を全国約300教室で展開。第21回稲盛経営者賞第1位、第1回大阪府男女いきいき事業者表彰優秀賞、紺綬褒章など受賞多数。

 私は、価値観が偏らないよう心掛けています。新型コロナ対応を巡って、感染抑止派と経済回復派の両極端な意見を聴くことで、自分なりに考えるようになります。先ほど、福盛さんは道徳観に触れましたが、親としての教育をどう考えますか。

福盛 親の姿が子どもの手本になります。例えば、母親が芸能人の不倫報道を見て「アカン」と言えば、これが子どもの物差しになる。「片付けなさい」と子どもに注意しながら、台所が汚れていれば、親の説得力は無い。そう考えると、親も子育てを通して成長することが多いと思います。

 落語家には優秀な子どもが多い。落語家自身が「アカン親」と認めているからです。偉ぶらないところが良いようです。

 ―桂さんは子ども落語教室の講師を務めています。教育の視点で思うことは。

 奈良県王寺町で小学生に落語を教えていますが、子どもたちはとにかく人前で声を出し続けます。声が大きければ、みんなが聞いてくれる。このことは社会に出てからもプラスに働くはずです。日本の教育は「読み・書き・そろばん」であり、「しゃべる」ことを特に教えてこなかった。今になって重要視されていますが、そもそも「しゃべる」原点は、親と子の会話にあります。会話のキャッチボールができているか、親は子へしっかりボールを返さなければいけません。

 ―福盛さんは学習塾の経営理念に「三方よしの精神」を掲げています。

福盛 親は子どもの成績が上がってほしいと望んでいます。そのために、学習塾は授業料をいただいています。双方は売り手と買い手の関係にありますが、私たちは「世間よし」も重視しています。つまり、先ほどお話したように道徳や感謝の気持ちを身に付けた良質な社会人を育てることです。将来、社会に出て活躍できれば、まさに「三方よし」となります。

 福盛さんの話を聴き、社会のためにすべきことが見えてきました。私が高校2年の時、阪神大震災が発生し、家族と一緒に小学校へ避難した。避難所生活で学んだことは、つらい時こそ笑いが重要ということです。親が落ち込んでいる姿を、子どもは見たくありません。本当はつらかったに違いないですが、それを笑いに変えて頑張ってくれました。この経験が、私が落語家を目指した出発点かもしれません。

 ―受験シーズンが本格化します。桂さん、最後に一言。

 落語には滑らない技術があります。

 (司会は深田巧、写真は佐々木誠)