【格差の原因を探る】コロナ禍なのに、日本の大富豪50人の資産は1.5倍に! 米国はトップ1%が下位80%と同じ資産額

 このところ貧富の格差を是正する声が、世界的に盛り上がっている。成長の果実が社会全体に行き渡らず、格差拡大を招いたとの問題意識からだ。日本では岸田首相が「成長と分配の好循環」を訴え、〝分厚い中間層の復活〟を掲げる。米国では超富裕層への増税が議論され、中国でも習近平主席が「共同富裕」を唱えている。

※1人当たり月間現金給与額は厚生労働省の毎月勤労統計調査「産業大中 分類別常用労働者1人平均月間現金給与額」より

 まず日本の中間層の状況を把握してみたい。上の図❶をみてほしい。コロナ禍以前となる2019年までのデータで大変恐縮だが、赤いグラフは日本人1人当たりの月収を示している。
 グラフは1997年以降からずっと下がり続け、2009年あたりから現在まで、横ばいないし、多少の上昇基調が続いている。しかし、20年前に比べると所得は下がっていることが分かる。
 一方で、青いグラフはコアインフレ率を表している。コアインフレ率とは、価格変動の大きい食品とエネルギーの価格を除外したインフレ率のことだが、収入が上がらないので物価も上がらないデフレ状態が続いている。ちなみに1997年、2014年のインフレ率の急上昇は、それぞれ消費税が3%から5%に、5%から8%に増税されたことによる強制的な物価上昇によるもの。
 もちろん時代と共に、所得控除や再分配の制度が変わっているから手取りの面での単純比較はできないが、中間層が伸び悩んでいることには変わりない。

日本の大富豪の資産 わずか1年で1.5倍に膨らむ

 中間層がそんな状況にある一方、富裕層の資産は急増中だ。フォーブスの長者番付によると、コロナ禍にも関わらず、日本の上位50人の資産総額は、昨年の1680億㌦(約19兆円)から2490億㌦(約28兆円)となり、約1.5倍に増えた。特にトップ10は多少の入れ替わりがあったが1.6倍になった(下図❷参照)。

※2021年と2020年のフォーブス「日本長者番付」より ※「コロナ禍で資産額が1.6倍」とは、同長者番付2020のトップ10人の資産額とをドルで比較。2020と2021のトップ10人は全員が同じではない。※ドル表示をわかりやすく円換算。2020年は1ドル107円、2021年は1ドル108円と発表当時の相場で計算した

 図❸の緑の円グラフは金融資産の残高別に、日本の世帯割合を表している。金融資産とは、現金や株、国債、貯蓄性のある生命保険などのことだ。2019年のデータなので、コロナ禍で増大した富豪たちの資産が反映されていないが、この時点で半数近くが450万円未満の家庭となっている。
 加えて、このグラフは金融資産を保有していない世帯は含まれていない。金融広報中央委員会によると2020年で二人以上世帯の16.1%、単身世帯の36.2%が金融資産を全く保有していないことから、実際にはもっと富が偏在していることが読み取れる。

※総務省統計局「2019年全国家計構造調査」より

米国はさらに深刻 上位400人の保有資産は4兆5000億ドル

 それでも日本はまだマシな方で、米国はさらに深刻だ。フォーブスがこのほど発表した米長者番付によると、コロナ禍で多くの米国民が失業したにも関わらず、最富裕層の上位400人の保有資産は、計4兆5000億ドル(約500兆円)に増え、過去最高となった。

 図❹の青い円グラフは米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が発表した富の分布を示すデータだ。米国では、たった1%の富裕層が米国の富の3分の1近くを保有している状況で、その額は下位80%の家庭とほぼ同等であることが分かる。

>>上位2100人の資産が46億人分を上回る

※連邦準備制度理事会(FRB)が発表した米国の2021年第2四半期現在の富の分配状況より。1㌦114円で円換算した

株高なのではなく、マネー価値の下落?

 クレディ・スイスによると、コロナ禍の2020年に世界の富は28.7兆㌦も増加したそうだ。その理由は、株高で富裕層の金融資産が膨らんだことが大きい。
 コロナ対策で、世界中にマネーがあふれた。経済というものは需給関係にあるから、例えお金でも、量が増えれば価値は下がる。そういう視点で見ると、現在は株高なのではなく、マネーの価値が下がっているから株が上がっているように見えるのかもしれない。それならば、貯金だけしている者は、預金残高が同じでも実際には資産が目減りしていることになる。
 「富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる」─。
 約2000年前の「マタイによる福音書」の解釈だが、格差はいつの時代も社会の不安定要素だ。 格差是正に向けて動き出した各国政府。それぞれの政策を今後、注意深く見守っていきたい。