【大阪の高校受験】難し過ぎるC問題 教科書レベルでは解けない?

 大阪の府立高入試には、難易度の異なるA、B、Cの問題が3つ用意されている。北野天王寺などの最難関校が使うC問題は、「これで本当に公立?」と目を覆いたくなるほど難しく、「学校の教科書レベルでは解けない」とも言われる。合格するには、どんな力が必要になのか。「知らなかったばかりにわが子の可能性を閉ざしてしまった」なんてことにならないように、保護者が知っておくべき受験情報について調べてみた。

大阪府立高入試 難しすぎるC問題

 大阪府立高の入試科目は5教科。理科・社会はどこも共通問題だが、国数英の3教科は各校ごとに難易度の異なる問題が出題される。Aは基礎的、Bは標準的、Cは発展的な問題で、どの教科にどのレベルの問題を使うかは各校の判断だ。トップ校は国数英のいずれも最も難しいC問題を使っている。

 C問題はどのくらい難しいのか。開成教育グループのクラス指導部・教務課長、門脇由治さんによれば「英語は全国トップレベル、数学は全国一」という。

 2022年の入試にC問題を採用したのは、全日制137校のうち26校。国数英すべてに採用したのは、北野や天王寺など文理学科を設けるトップ10校のほか、普通科トップレベルの春日丘(茨木市)、千里(吹田市)など16校。国語だけ、国英だけなど一部に採用したのは住吉(阿倍野区)、清水谷(天王寺)、(旭区)など10校だった。

 門脇さんは「C問題の特徴は時間との勝負。問題文が長く、知識を組み合わせて解く問題が多いので、短時間で解く訓練が必要」と話している。

 それでは、具体的に各教科の特徴を見ていこう。

【数学C問題】難しさ全国一 大阪独特の平面図形

 数学のC問題は、基本的に3つの大問からつくられる。大問1は計算・関数・統計といった小問の集合、大問2は平面図形、大問3は空間図形だ。このうち、大問1だけで約半分の配点があり、「まずはここをどれだけ早く、正確に解けるかがカギ。北野・天王寺を受験するならミスも1問程度に抑えたい」と門脇さんはアドバイスする。

 続く大問2の平面図形は大阪独特。「毎年、どの問題集にも載っていないような設定で出題される。反復演習でパターンが染みついていると、逆に解けなくなるような問題」という。

 打って変わって大問3の空間図形はパターンで解きやすい問題だ。「塾生には先に空間から解くことを薦める場合もある。問題を飛ばすのは勇気がいるが、飛ばす訓練も必要だ」と突破のテクニックを説明しつつ、「C問題といえど基本の計算力がないと、見通しも立たず思考力が発揮されない」と基礎学力の大切さを強調する。

 ところで、図形問題はどんなイメージなのだろうか。難関中高や京都大・大阪大の医学部の受験対策塾「京橋数学塾A4U」の塾長、六人部鉄平さんが「直角三角形の外接円」を一例に上げてくれた。

 図を見てほしい。円の直径を含んで円に内接する三角形は直角三角形だ。「これに気づく人は多いが、逆の視点を見逃してしまう人が多い」と六人部さん。逆とはつまり、直角三角形があれば斜辺(図の場合は線AB)の中点を中心に外接円が書けるという発想だ。

 「書いた円が次の設問を解く手がかりになることは多く、特にAO、BO、COは円の半径で等距離である関係から二等辺三角形を見抜かなければならない状況などは数多く登場する」。つまり、最初をつまずくと、後の問題を解けなくなる。

【英語C問題】長文ずらり英語で問い 英検2級の抜け道も

 数学に並び〝難しい〟のが英語のC問題。問いも英語で出題され、長文をいくつも読み進めねばならない。学習指導要領には「聞く」「話す」「読む」「書く」の英語4技能をバランス良く育成するとあるが、英語C問題に関しては、大きく「読む」に振っていると言える。

 門脇さんは「文量が多いので、長文を読むスピードを鍛える必要がある」と説明したうえで、英語を意味のカタマリごとにスラッシュ(/)で区切って読む「スラッシュリーディング(区切り読み)」を勧めている。「この読み方を身に付ければ、後に続く内容をカタマリごとに予想しながら読めるようになる」という。

 また、受験当日のリスニングに関して、「『いつもより早くて聞き取れなかった』という受験生の声を耳にする。実際には普段と同じスピードだが、受験当日の緊張からかもしれない。このため、当塾では1.5倍速でリスニングの訓練をするなどの対策を講じている」(門脇さん)。

 ところで英語に関しては、英検の合格級によって試験の点数を優遇する制度がある。準1級の合格者は読み替え率100%で、当日試験は90点満点扱い。2級なら80%で72点が保証され、当日の試験結果と比べ、高い方の得点が使われる。

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 府教委によると21年度入試では、北野で336人、茨木で285人、天王寺で268人が2級以上を取得していたので、受験者の7割以上は80%の得点が保証されていたことになる。

 門脇さんは「2級を取っていれば受験勉強でやることも絞りやすくなり、精神面でも圧倒的に有利」と話す。「そのためには学校の内容を超えていく必要があり、中1で4級、中2で3級〜準2級、中3の6月か10月で2級と余裕を持って進めていくのがいい」とアドバイスする。

 ただ、この制度が〝受験生の英語力低下を招いている〟との指摘もあり、入試の英検活用が廃止に向かっているという声も挙がっている。この話題に関して府教委は「そういう声があることは認識しているが、現時点で廃止について会議の議題にはなっていない」と回答した。だが、今後の動きには敏感になっておく必要がありそうだ。

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基本マスターは当然。その知識を柔軟に使いこなす力が必要

 紙幅の関係で国語について触れなかったが、C問題といえど、教科書の内容を大きく超えるわけではない。基本的な教科書の知識を完璧に理解して、その知識をいかに柔軟に活用できるかがカギだ。

 門脇さんは「難関校を目指す場合、理想を言えば中学で習う内容は7月には終わらせておき、夏以降は入試の演習を増やすのが望ましい。コロナ禍の21年入試はサンプルとしてあまり参考にならないが、C問題は16年から7年分の過去問がある。これらを解いて傾向をつかみ、自信をつけることだ」と話している。

 数学の図形問題について具体的に説明してくれた六人部塾長は「高校入試まではある程度、覚えれば対策できるが、大学入試では通用しない。食塩水の濃度にしても、ヒストグラム(度数分布図)にしてもバラバラの問題に見えるかもしれないが、実際にはどちらも割合を問う計算。こうした根本から完璧に理解しておくことが大切」と話し、そのレベルに達するためにも「自学力こそ重要」と強調する。

【府立高受験の仕組み】上位校は内申点より入試得

 大阪の公立高受験の仕組みをおさらいしておこう。合否判定に使われるのは主に、中学3年間の通知表の評定(内申点)と入試結果の2つだ。配点は内申点450、入試得点450の計900点で、得点順に合否が決まる。
 さらに細部に入って、内申点450の中身を見ていこう。9教科でオール5なら9(教科)×5(評点)=45点となる。1.2年生は課程を修了する3学期末の通知表成績を2倍(1.2学期の成績は途中経過のため)に、3年は6倍で計算する。3年間オール5なら、1年90点+2年90点+3年270点=450点となる。つまり、受験は1年から始まっていると言える。
 一方の入試450点の内訳は単純だ。国・数・英・理・社が各90点満点なので、90点×5(教科)=450点となる。
 基本的な仕組みが分かったところで、さらに加える要素がある。それは、学校によって入試に重点を置くか、内申に重点を置くかが異なるところだ。中~上位校は入試に重点を置き、入試と内申の配点を7:3で計算する場合が多い。これを得点に変換するときは、入試得点に1.4倍、内申点に0.6倍を掛ける。900点の内訳が入試630+内申270に変わるわけだ。北野、天王寺、茨木、三国丘などトップ10校はこの計算方式で、当日入試のウエイトが高い。