大阪府は、高校や大阪公立大学の授業料の「完全無償化」に向けて来年度から段階的に開始し、3年かけて2026年度には全員の無償化を実現する。親の所得や子の人数に制限なく、府内在住で府外の私立高校に通う生徒も対象に含める形で制度設計を進める。8月下旬に制度案を決定し、9月議会で議論される予定。想定とおりに進めば都道府県での高校の完全無償化は全国で初めてとなる。
現高2から恩恵 公立大は現3年生から
吉村洋文知事は4月の府知事選で、完全無償化を公約に掲げて当選した。府はこれまでも高校、大阪公立大学の無償化を進めてきたが、世帯年収などで対象をしぼっていた。完全無償化に向けては、5月9日にあった府の戦略本部会議で素案が決定された。実現には少なくとも年約427億円の公費が必要で、歳出抑制や府の基金の活用などで財源を確保する。府は制度案を8月に正式決定し、年明けの来年度予算案に盛り込む。
段階的に実施で不公平感緩和
現行制度では年収910万円未満の世帯で国の支援制度に府が独自に上乗せして高校や公立大学の授業料を軽減している。高校だと公立高校は年収910万円未満、私立高校や公立大では年収590万円未満の世帯などが無償化されている。
素案では、公立・私立高校(全日制、定時制、通信制)や高等専門学校(本科1~3年生)、専修学校(高等課程)と公立大学に通う府民が対象。高校では来年度は3年生だけを対象とし、段階的に26年度までに全学年で無償化とする。府では「段階的実施により、入学年次による授業料負担の不公平性を和らげることが期待できる」としている。
公立大学は来年度に4年生(6年制は4~6年)、25年度に2~4年生(6年制は2~6年)、26年度に全学年(6年制は1~6年)に対象を広げる計画という。大阪府民に限定したことで、大学受験に詳しい予備校の幹部は「公立大には近県から通学する優秀な学生が多い。今後、受験動向に影響が予想される」と指摘する声も。
制度設計の協議も必要
ただ、私立高校の完全無償化でも府が定めた標準授業料(現行で年60万円)以上の学費を学校側に一部負担を求める「キャップ制」(就学支援推進校)を採用する。また関西の高校に通う府民も無償にする考えで、今後、府外や高校側とも制度設計について調整を進める。
年430億円の公費必要
所得制限が全面的に撤廃された場合、高校で年223億円程度、公立大で年33億円の追加費用が必要となる。新たな財源について府はこれまでの府債を返済するための積立金「減債基金」の不足が23年度に解消するため、新たに年平均で250億円程度が活用できるとの見通しを立てている。
府によると、少なくとも年約427億円の公費が必要で、「歳出抑制や府の基金の活用などで財源を確保する」という。
吉村知事は「所得や世帯の子どもの人数に制限なく、自らの可能性を追求できる社会の実現。投資という点では将来、社会に還元される」と話している。