陰でうごめく官僚+大企業
通常国会終了に伴う、今週発表されたメディアの内閣支持率調査は衝撃的だった。岸田総理お得意の外交部門でのG7広島サミット成功で5月に一気に伸びた支持率がストンと落ちてしまったのだ。お気楽息子秘書の〝官邸パーティー写真〟流出も一因だが、大部分はマイナンバーカードにまつわる数々の不手際発覚と先行き不安だ。こんな事で来秋実施する「現行健康保険証廃止、マイナカードに機能統合」がうまく行くのか? 総額3兆円の大判振る舞いでごり押しされるマイナカード狂奏曲を検証する。
国民は不便になるマイナカード
「マイナポイント」ばらまき1兆円
謝罪に追われる関係大臣
マイナカード申請は6月時点で人口の77%を超えた。ところが相次ぐ不祥事で河野太郎デジタル担当相が「自らに処分を」と暗に辞任を示唆するまでに陥った。岸田総理があわてて慰留したが、河野大臣自身が「これはさっさと辞めた方が身のため」と気付いた結果だろう。
先月、東京や神奈川のコンビニでの公的証明書発行サービスで、マイナカードを使って申請して別人の住民票が10数件誤交付され、システム構築の富士通・時田隆仁社長謝罪▽カードに年金などの公的給付金受け取り口座をひも付けたところ約800件が他人の物で河野担当相謝罪▽カードのマイナ健保証に他人データを全国で7000件以上をひも付けて加藤勝信厚労相謝罪▽カード申請したもらえるマイナポイントを他人に200件近く付与して松本剛明総務相が謝罪。さらに廃止した印鑑証明が10数件ひも付けされていたり、他人の顔写真取り違えなど、次々出るわ出るわ。そのうえ、マイナカードにひも付けできる預貯金口座は本人名議に限られるのに、家族などの名義口座をひも付けたケースが13万件以上発覚のデタラメぶりだ。
こうしたミスは全てヒューマン・エラーと呼ばれる入力時の人為的間違い。防ぐにはITを駆使した高度なチェックシステムが必要だが、開発にはコストと時間が必要。何事も急ぎ過ぎるとロクな事はない。
何がなんでも普及一筋
岸田総理は自身のインスタグラムでマイナカードPRを展開。笑顔で「豊かな未来を実現」と呼びかけ。相次ぐトラブルにも「来秋のマイナ保険証一本化変更なし」と強弁している。
国のPRによると①本人確認書類になる②コンビニで各種証明書が取れる③健康保険証として使える④マイナポイントがもらえる⑤コロナワクチン接種証明の電子交付に⑥オンラインで行政手配⑦マイナポータル利用で暮らし便利に⑧民間サービスにも拡大、とある。
私に言わせると①従来の健康保険証、運転免許証、パスポートで十分。むしろ1つに統合すると紛失した時に大変②生涯で行政証明など何回使うの?③使えるのでなく強制でしょ④バラマキの極み。本当に便利ならポイントがなくても皆が持つはず⑤紙で十分⑥目の前で確認しないと、ひも付けミス心配⑦ネットが使えて、専用の読み取り機リーダーまで持つ人が何人いるの?⑧預貯金口座開設や携帯購入時でのカード提示義務付けで、喜ぶのは脱税摘発マルサと捜査上便利な警察だけ、と反論したい。つまり、民間人は何一つ得な事はなく不便になるだけ。
さらに国は「カードICチップと暗証番号で個人情報はガードされている」と言うが、高齢者の多くは面倒だからカードと暗証番号を一緒に保管するはず。逆に危うさ満開だ。
カード事業構築に掛かる2兆円あれば全ての大学授業料が無償化できる額。それどころか国は全国の大学当局に対し「マイナカードを学生に普及させないと補助金を見直す」と脅しを掛け若者の申請を促し、ポイントの経費総額1兆円は財政不安で国債乱発の日本とは思えない支出額だ。
「デジタル後進国」の大ウソ
官僚は「日本はデジタル後進 国」と言うが、諸外国の状況を見ればウソと分かる。米国の社会保障番号制度は1936年から始まったが、今も16歳以上人口の7%に相当する1800万人が番号を盗まれ〝なりすまし〟被害に遭っている。ドイツはナチス時代の反省から総背番号制は第2次世界大戦後、憲法で一貫して禁止。英国は2006年にIDカード法を成立させたが、プライバシー保護の見地から10年に廃止。お隣韓国は1968年北朝鮮スパイ対策で住民登録番号を全国民に付与したが、過去10年に約4割の国民が登録カード紛失。再発行に100億円単位の経費がかかり「カードを廃止して、ネット上の番号だけでは?」と検討中。
もちろん、中国やロシアなど人権より国家利益が優先する専制国家ではこの限りではない。日本は人権優先の民主主義国家であることを忘れてはならない。
黒幕は財務省と大企業
マイナカードの黒幕は、将来の大増税にいち早く備えたい財務省と国から末端の市町村までシステム構築の巨大利権に群がるNTTや富士通、日立などのIT大企業だ。少子高齢化の日本国財政は現状のままではやがて行き詰まるから、将来は消費税額だけでなく法人税、所得税など全てで大増税が待ち受けている。その際にマイナンバーはもれなく徴税するのに絶対必要。財務省は1970年代の「国民総背番号制」構想に始まり、80年代の納税者番号制度「グリーンカード」を始めたが失敗。今世紀に入り、住民基本台帳をベースにした「住基ネット」を先行させ、ようやく「マイナンバー」へとたどり着いた。
これで終わりではなく、25年には「マイナンバー」の新カード切り替えと「住基ネット」廃止が決まっており、財務省の半世紀に及ぶ構想は大団円を迎える。よく考えると、あと数年で新カード切り替えとは〝現行制度の欠陥〟を認めたに等しいが、大手メディアは何一つ指摘しない。
一方、IT系大企業はシステム構築を一手に引き受け、後の補修点検も受け持つから安定的に高収入を得られる。見返りは、こうした大企業にはほぼ例外なく官僚が天下っており〝持ちつ持たれつ〟の関係にある。闇で暗躍する政治家と合わせて見事な『政界・官僚・財界』の癒着の輪が完成し、国民を監視と搾取する。システムを管理する側が、国民の個人情報を自由自在に扱える実態は、これまでの数々の不祥事で枚挙にいとまが無い。
総背番号で管理される国民
かつて裁判例では「マイナカードは社会保障、税、災害対策に限る」と線引きされた。社会保障とは年金などの公金交付、税は納税や還付金など、災害対策は文字通り住民の安心・安全に関わる事項だ。
ところが、今国会の「改正マイナンバー法」成立で、国会承認を必要とせず政府が省令さえ出せば自由に適応範囲を拡大できる事になった。将来は「何がマイナカードに乗せられているのか?」すらあいまいな時代が来る危険性も増す。
コロナで国民の〝タンス預金〟が増え一番困っているのも財務省。現金保管は最も国税当局が実態を把握しづらいからだが、来春にも新札に一斉に切り替えて、旧札交換の過程でこれらのあぶり出しを図る予定だから抜かりない。
既に預貯金口座のひも付けと新口座開設時はマイナカード提示を金融機関に義務付ける方針だから〝タンス預金〟以外は、将来的に財務省で全把握できる。
マイナンバーとそのカードは本来切り離して考える必要がある。米国は「社会保障制度番号カードは絶対持ち歩かないで」と呼びかけているが、ネット上の売買や紛失盗難によるトラブルが今も後を絶たない。健保証は、現役労働者世代は万一のけがや急病のために常時持ち歩いている人が大多数だ。その健保証を米国の社会保障番号カードに上乗せするなど、いわば「財産口座の実印を持ち歩け」と言っているようなもので、とてもまともな政策とは言えない。既に健保証一体化によって、他人の健保証情報に誤ってひも付けされ、診療窓口で10割負担を強いられたり誤請求された患者の戸惑いと怒りが全国に渦巻いている。
官僚は半世紀も諦めずに国民の財布の中身をひも付けしようとしてきた。それに協力した政治家の事を、次の選挙で忘れてはならない。かつて「消えた年金」問題での国民の怒りが、当時の自公政権を下野させた事実もほんの10数年前にあった事なのだから。