中学校の部活動「地域へ」 26年度から本格移行 大阪市や守口市、門真市の現状は?

少子化と教員負担で転換期 進む自治体、 慎重な自治体

 少子化や教員の長時間労働に影を落とす中学校の部活動が、大きな転換期を迎えている。これまで学校にとって当たり前の存在だった部活動が、いま全国的に「地域での運営」へと舵を切ろうとしている。大阪市や守口市、門真市の現状を追った。

中之島小中一貫校のグラウンドで活動する陸上の種目
中之島小中一貫校のグラウンドで活動する陸上の種目

 この数年で生徒数の減少により多くの部活動が廃止されてきた。過疎地域では2000年代からすでに縮小や廃止が進んでいたが、近年は全国的な人口減で、大都市以外の多くの自治体も同じ問題に直面している。その結果、子どもたちがスポーツや文化にふれる機会が減り、活動の均等性も損なわれつつある。
 こうした中、国は18年に「部活動改革」を掲げ、学校主体から地域主体への移行を打ち出した。23年から今年までの3年を「改革推進期間」に位置づけ、各地でモデル事業がスタート。今年5月には「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」の最終とりまとめが発表され、施策名を「部活動の地域展開」に改めた。26年から31年を「改革実行期間」とし、休日の部活動は原則、すべて地域で担う方針だ。
 この「地域展開」とは、これまで中学校だけで行ってきた部活を、地域のスポーツクラブや文化団体などと連携して進める取り組み。生徒が部活動を続けられる場の確保を第一に、指導の専門性を向上させたり、教員の負担を軽減したり、地域の新たな価値をつくったりすることも狙いとされる。
 取り組み自体は前述の「改革推進期間」が始まってからは全国で実施されており、各自治体がそれぞれ抱える生徒数や地域資産を踏まえ、最適な形を模索している段階だ。
 ただ、課題も多い。多くの市町村で生徒や保護者への周知が十分に進んでおらず、「地域展開とは何か」が浸透していないのが現状だ。加えて、国が活動内容や仕組みの共通ルールを示していないため、自治体ごとの取り組みには差が大きい。
 本紙の宅配地域である大阪市、守口市、門真市の状況を取材すると、すでに地域団体や外部指導員との連携が始まっている例もあれば、まだ学校主体のまま運営されているケースもある。
 受け皿となる企業・団体側はどうだろうか。テニススクール・ノアは地域展開する部活動に、指導者を派遣する民間企業の一つだ。保護者の反応については「学校の先生が必ずしも経験者とは限らない中、プロが教えてくれるのはありがたいと評価されている」と担当者。生徒も「スクールに通うハードルは高いが、部活なら参加しやすい」「学校にはない指導内容で世界が広がる」と前向きな反応を示しているという。
 企業側としては「認知度の向上や、上達意欲のある生徒を勧誘できる」とメリットを挙げる一方、土日の指導者の確保や大会参加時の責任体制などが今後の課題という。

【大阪市】区ごとに異なる現状も

 大阪市には130の中学校(1606部活動、参加生徒約4万人)がある。大都市であり、人口減少が緩やかなため、早急な地域展開の必要性が少なく、当面は部活動の在り方について検証を重ねながらも、現在の活動を継続できる見通しが立っている。加えて「部活動改革」の一環で18年に整備された「部活動指導員制度」があり、登録した多くの外部指導者が教職員に代わって指導に当たっている。
 つまり現時点で、地域展開のメリットとして掲げられた「生徒の活動機会の確保」「指導内容の専門性向上」「教職員の負担軽減の推進」のいずれも確保した状態で部活動を運営できている。
 ただ、市内でも地域差はある。人口が増えている中央区や西区と、少子化の影響が強い此花区や大正区などでは実情が大きく異なる。このため、大阪市は地域展開にあえて大きなアクションは起こさず、部活動指導員を交えた現在の運営体制を維持・拡大・改良していくスタイルを現在は採っている。

都島区をはじめ、近隣区の中学を対象にしたボートの種目
都島区をはじめ、近隣区の中学を対象にしたボートの種目

 大阪市も他の自治体と同様に、モデル事業には積極的に取り組んできた。23年度より運営を民間事業者に委託する形でモデル事業を開始。そのモデルとなる拠点は市内4つの教育ブロックにそれぞれ1拠点ずつ設置された。 「2年間のモデル事業を通じて一つの気づきを得た」と話す市教委の総括指導主事、渡辺隆明さん。気づきとは、パラリンピック正式種目の「ボッチャ」や「マンガ・イラスト」など、通常は学校の部活動にない種目の体験活動の存在が有意義であることだった。「こうした活動があるおかげで、学校の部活動には入っていなかった生徒の新たな居場所をつくれた」と渡辺さん。「生徒の選択肢にさらなる多様性を加えられる。また、本市の特徴を踏まえ事業を展開していくことが、子どもたちのさらなる活動の場や可能性の創出につながり、市として強みの一つになる」と続ける。
 「何よりもまず生徒たちの環境の確保、発展を第一に考えている。教師の負担軽減も考えつつ、生徒にとっても先生にとってもより良いものを見つけていきたい」と話していた。

【守口市】午後5時からは地域が指導

課題は会費、保護者と地域団体の思惑にギャップも

 公立中8校を擁する守口市は、現時点までで部活動統廃合の動きは盛んではない。生徒数が減る一方、部活動数はほぼ一定水準で推移しており、まさに今、部活動改革のタイミングに来ている。
 市が最初に取り組んだのは、2021年度にスポーツ庁からの委託を受け、府教育庁と連携して開始した「休日の地域展開の実証研究事業」だ。現在の「モデル事業」にあたり、学校と地域が連携した部活動の検証結果を継続して国に報告している。実施校は初年度の2校から今年度は5校にまで拡大し、種目はサッカー、卓球など4種目で実施。加えて、任意の教員と保護者などが学校で指導する「任意団体による活動」が認められている。
 また、市教委が地域のスポーツ・文化団体に、無料か少額の会費で生徒を受け入れてもらい、市は広報でサポートする「習い事」と市政の一体化したようなものも存在する。
 これらをまとめるシステムとして、市は独自に部活動「標準活動時間」というものを設定。授業が終了した後の午後4時から教員の勤務が終わる同5時までの1時間は、教職員による従来の部活動で、原則5時以降は「地域展開」の団体による部活動の時間という仕組みだ。このおかげで人員不足から部活動を守れ、教職員の労働環境も改善できる。生徒も5時以降は専門性のある指導を受けられるし、5時で帰ってもいい。多様な形態のおかげで、部活動に関わる全ての人にベストな状況をつくり出している。

守口市卓球協会による指導の様子
守口市卓球協会による指導の様子

 ただ、課題は会費だ。23度の実証実験のアンケートによると、保護者の「理想の会費」と、収支を踏まえて団体が求める「現実的な会費」に差があった。保護者からすれば、これまで部活動は無料だったため、会費を払うなら「なるべく安くしてほしい」との声は当然だが、「団体からは、指導者の報酬額がネックとなり、これ以上の指導者の確保や拡充が困難」と市教委の主幹、鈴木彰太さん。
 このため、市は費用負担の軽減につながる取り組みを今後も検討していく方針。「双方のギャップを埋め、どちらにとっても良い条件となるよう決めていきたい」と話している。
 会費の問題は地域展開を進める市町村共通の壁ではないだろうか。市の今後の動向が注目される。

【門真市】他自治体も注目する先進モデル

全国大会出場選手や関西フィル奏者も

 門真市には現在6つの中学校がある。生徒数減に伴い、多くの部活動が廃止される中、市は早期に取り組みをはじめ、今年度からは、段階的に市内すべての中学校で部活動の地域展開を拡大。これまで休日のみだった部活動も徐々に平日にまで広げている。
 同市では現在、活動場所の提供・管理をはじめ、参加者への連絡や地域指導員への給与も含めた部活動運営の基盤部分を地域の(NPO)法人へ業務委託するのが主流となっている。運動部では主に「門真はすねクラブ」、吹奏楽部は「トイボックス」らが請け負い、教職員と連携しながら活動生徒・指導団体のマネジメントを行う。運動部は中学校に指導員を派遣するのに対し、吹奏楽部はトイボックスなどが管理する市民文化会館・ルミエールホールを貸し出して、一点に部員を集め指導している。
 「他自治体と比較して、先進的かつ円滑に展開できている」と話す同市教委の教育監、峯松大輔さん。その要因として「門真は市の規模が適度に大きく、生徒数に比べて協力団体の数が豊富。いろいろな条件がうまくかみ合い、スムーズに進められている」と分析する。

ルミエールホールで生徒に楽器指導する地元吹奏楽団のメンバー
ルミエールホールで生徒に楽器指導する地元吹奏楽団のメンバー

 また、レベルの高い指導者が偶然に存在していたこともプラスだった。運動部には、卓球やバトミントンなど全国大会で成績を残した選手や実業団、吹奏楽部には普段からルミエールホールで演奏している関西フィルハーモニー管弦楽団などの人材がそろっており、生徒や保護者の多くは肯定的に捉えたという。今では他自治体から視察が来るほどスムーズに進んでいるそうだ。
 同市教委の総括参事、 山拓也さんは「現段階では、門真市は部活動の地域展開が最もうまく進んでいる自治体の一つだと考えている」と話している。

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