社員のやる気アップ! ユニークな福利厚生 人手不足の中、競合企業に負けない魅力を

 あらゆる業界で人手不足が叫ばれる中、求職者の選択基準の一つでもある企業の福利厚生。最近は他にない独自の制度で、社員の生産性までアップする一粒で二度おいしいユニークな内容も増えてきた。社長さん方、参考にどうぞ。

「早上がり制度」で売上4億→10億円

ハタメタルワークス(東大阪市高井田)

建設的な議論が交わされる同社の会議
建設的な議論が交わされる同社の会議

 銅加工や金属加工に高い技術を誇る東大阪市のハタメタルワークスでは、「早上がり制度」に取り組んでいる。決められた仕事が終われば就業時間より1時間早く帰宅できる内容で、他人の仕事も手伝って全員で早く帰るのがねらい。
 導入のきっかけはリーマンショックだった。当時、仕事は3割ほど減っていたが、社員は少ない仕事を定時までかけてダラダラ過ごしていた。
 この状況を問題視した畑敬三社長がひらめいたのが「早上がり制度」だった。実際に導入してみると、社員は以前にも増してテキパキと仕事をするようになり業務効率が向上する結果となった。
 畑社長によると、制度の効果は大きく2つあった。一つは社内の人間関係の改善だ。これまで社員の中には「この人の仕事は手伝おう」「この人と一緒に仕事したくない」と私情を挟む場面もあったが、「『早く帰る』という共通の敵を倒すために互いに協力し合う、まるでマンガのようなことが起きた」と振り返る。
 もう一つは「業務効率を上げるためにこの機械がほしい」「もっとこうしたら仕事が早くなるんじゃないか?」と前向きな意見が出るようになったことだ。
 15年前に制度を開始して以降、作業効率の改善によって短い納期の仕事も受注できるようになる。結果的に取引先は5社から150社に、売上は4億円から10億円に増加した。

「週休3日」で求人応募が10倍超

アンドエーアイ(大阪市北区曽根崎)

社長業と子育てを両立する代表の西さん
社長業と子育てを両立する代表の西さん

 生成AIサービスやモバイルアプリを開発する大阪市北区曽根崎のアンドエーアイ大阪支社(本社・東京)。20代の従業員を多く抱える同社では「週休3日制」を導入している。
 目的は連続勤務の疲労やストレスを防ぐためで、休みは毎週水、土、日曜の3日間。半面、水、土、日曜以外の祝日は出勤となるが、年間休日は150日以上確保している。
 発想は、社長業と子育てを両立する代表の西真央さんならでは。西さんが関心のあったワークライフバランスについて調べていたところ、生産性が100%なら、勤務時間を80%にして100%の給料を払う「100─80─100ルール」の存在を知る。すでに多くの海外企業も採用しており、一定の効果が上がっていることを知ったのがきっかけ。
 最初は週の休みを3日もとることで、業務が停滞する不安もあったが、実際に運用しはじめると従業員の生産性が向上。労働時間が短い分、仕事に全力を傾けるようになった。
 西さんは「全体で見ると週休2日だったときと、業務効率はほとんど変わらない。さらに求人の応募も以前の10倍以上に増えた」と制度の魅力を実感している。

「毎月3㌔」のお米配給

ファストコム(大阪市中央区本町)

毎月、福利厚生でもらえる秋田県鹿角市のお米3㌔
毎月、福利厚生でもらえる秋田県鹿角市のお米3㌔

 ウェブや映像制作などを手掛けるファストコムホールディングス(大阪オフィス・大阪市中央区本町)では、会社から毎月3㌔のお米がもらえるユニークな福利厚生「うちの米プロジェクト」を実施している。
 もらえるお米は白米か玄米かを選択可能。一人暮らしであまり自炊をしない社員には社内で「おにぎり食べ放題」と題して提供。社員同士で顔を合わせる機会が増えたという。
 プロジェクトは同社がオフィスを構える秋田県鹿角市ではじまった。同エリアの求人情報メディア「スコップ」を運営しながら、一つの地域課題に直面する。その課題は農家の後継者不足で、背景に不作などによる収入の不安定さがあった。
 このため、作付け費用に1年間の米代金を前払いし農家の収入を安定化。農家が栽培に専念できる体制をつくり、後継者問題の解決を目指す。
 制度の導入以降、社員の意識も変化。これまでご飯を食べるための「ライスワーク」が働く理由だったが、夢や目標を実現するための「ライフワーク」を社員が意識するようになったという。

毎日、会社からプレゼント

アントプロダクション(大阪市北区大淀南)

「煮卵の日」に手料理を味わう社員
「煮卵の日」に手料理を味わう社員

 社員に毎日、何らかの商品を支給したり、イベントを開催したりする「一日一善プロジェクト」というユニークな福利厚生に取り組むのは、ウェブマーケティングやウェブサイト制作を行うアントプロダクション(大阪市北区大淀南)。
 同プロジェクトを導入するきっかけは社内のコミュニケーションの希薄化だった。
 コロナ禍のテレワークで社員同士の交流が激減。「上司の考え方が分からない」「部下にアドバイスが伝わらない」など業務に支障を来すケースが目立つようになった。
 このため、社内で議論を重ね、売上の一部を福利厚生として社員や社会に還元する「一日一善プロジェクト」にたどり着く。さらに「ただ商品を配るのでは面白味がない」と、「○○の日」「○○デー」などと名付けて実施し、社外向けにも特徴のある福利厚生として広報しやすくした。
 社員に評判が良かったのは、石けんを配る「ばい菌ゼロの日」やツナ缶を配った「ツナの日」。昼食に手料理を振る舞う「煮卵の日」なども一人暮らしの社員に喜ばれた。一方で地域社会向けでは、大阪市内でこども支援をする「地域こども支援ネットワーク事業事務局」にお菓子や食品を寄付。子どもたちの笑顔に繋がる取り組みに社員らも喜んだ。
 「毎日の福利厚生をきっかけに、普段あまり話さない社員同士も部署の垣根を超えて交流が深まっている」と効果を話している。

メンタル維持に「ペット通勤」

アニスピホールディングス(大阪市福島区)

オフィスで愛犬と過ごす女性社員
オフィスで愛犬と過ごす女性社員

 ペット共生型障がい者グループホーム「わおん」「にゃおん」を展開するアニスピホールディングス(本社東京、大阪市福島区に関西支店)の特徴的な制度は、飼い犬やネコとの「ペット通勤」だ。
 大の動物好きでもある代表の藤田英明さんは、ペット殺処分や全国の空き家、障がい者の居場所というそれぞれの社会問題を、ペットと共生する障害者施設というパッケージによって解決するビジネスモデルを全国に展開。そんな中で、ペットの癒やし効果を職場にも持ち込み、社員のメンタル維持を図ろうと考えたのが同制度だ。
 すでにペットを飼う約4割の社員がペット通勤を経験。「ペット通勤を日本の主流にしていきたい」と話している。