【HITOMIOテクノロジーズ・小泉英一社長】「国民の健康寿命延ばす」 受療率1割の壁を超え、すべての日本人にウェルビーイングを

 日本人の平均寝たきり期間は男性9.2年、女性12.7年で世界ワースト1位。超高齢社会となった日本の重要課題である。健康寿命を失う要因として最も多いのが「運動器(筋肉や関節、神経など)の障害」で、認知症(約17%)を上回る。健康寿命を延ばすには運動器障害の克服が必須だが、接骨院や鍼灸院の国民の受療率は10%強に留まっているという現状がある。この状況にメスを入れるべく日々挑戦を続けているのが「HITOMIOテクノロジーズ」だ。その挑戦や考え方について、社長の小泉英一さんに阪本晋治が迫る。(西山美沙希)

「医療は平等であるべきだ」と変わらない思いを話す小泉社長

 ─「HITOMIOテクノロジーズ」が展開する「ReCORE(リコア)鍼灸接骨院」は、1店舗で1日150人と大阪でも指折りの来院数を誇る。多くの治療院から患者に選ばれる理由をどう分析しているか。

 安価ながら技術力も手を抜いていないことはホームページなどを見てもらえばわかるが、患者様に心から寄り添える形を実現し、満足してもらって「また来たい」と思ってもらうような雰囲気作りに努めていることが一番だと考える。

 例えば、冷たい壁に固いベッドでの施術が主流だった時代から、五感全てで満足してもらうことに開院当初の21年前からこだわってきた。天然木を用いた壁、寝心地を追求した特注のベッドを使用し、患者様の居心地の良さを追求した。他にも主婦が買い物帰りに気軽に寄れるように、冷蔵庫も用意している。

 患者様の期待値を超える満足感をどう作るかという点は、今でも各店舗で重きを置いている。

 ─そこまで満足感にこだわる理由や背景は。

 僕自身が医療を患者の立場で見ていることが大きい。というのも実は、20歳の時に慢性糸球体腎炎と診断され、今でも3カ月に1回は通院しなければならない生活を送っている。患者様の気持ちがよくわかり、寄り添えるのは僕の強みだ。

 ─「ReCORE鍼灸接骨院」の歴史は21年前に小泉さんが開業した一つの接骨院からはじまった。開業の経緯は。

 鍼灸大学を卒業後、ある鍼灸院に弟子入りした。そこは当時業界トップの鍼灸院で、来るのは政治家や芸能人、大企業の社長と錚々(そうそう)たる顔ぶれだった。完全予約制で紹介制、当然単価も高い。これに僕は違和感があった。「医療は平等であるべきだ」という医療の本質と矛盾しているのではないかと。

 「保険が使えて誰でも行きやすい治療院は何か」と考えた末、柔道整復師の学校に入り直した。接骨院や整形外科で経験を積み、2003年に大阪の弁天町で開業。その頃から一人でも多くの患者様を救いたいという思いがあったが、僕一人では限界がある。多店舗展開し、現在は全国に直営が41店舗ある。

 ─多店舗展開で同じ目標を持った仲間を増やしていくことに難しさはないか。人手不足が問題となっており、若い世代の育成が難しいと言われている。

 最初はやはりうまくいかず経営を学んだ。経営を永続するには会社のパーパスが必要不可欠だと知り、お飾りではなく、本気のパーパス経営をすることにした。我々が今掲げるパーパスは「ウェルビーイング・フォー・エブリワン」。つまり、すべての人にウェルビーイング(=健康で幸福な状態)を届けていくことだ。採用の際も「我々の目標に共感する人だけ来てください」と伝え、入社後も「我々は誰のため、何のためにこの会社で働いているのか」ということを常に伝え続けている。この考えに共感した人は長くついてきてくれる。

 また、ソニー元社長の平井さんの「社長として仕事をするな 人として仕事をしろ」の言葉に共感し、社員との対話も大事にしている。

 ─社長自身も社員教育に関わる。

 今年も60人ほどの新入社員に、初日から4日間は僕が理念研修をし、月に一度の研修も担当している。そこではひたすら「誰のため、何のため、なぜ我々はこの仕事をするのか」というパーパスやビジョンといった会社の軸を伝え続けての繰り返しだ。また、月に一度開催している社員の誕生日会では、新入社員に混ざって「最近どう?」といったたわいのない話もする。

 ─日本中に40店舗を構える会社の社長自らが、新入社員の飲み会に参加している光景はなかなか見られない。

 そうかもしれない。しかし、我々のパーパス「ウェルビーイング・フォー・エブリワン」のエブリワンには当然社員も含まれる。人が幸福を感じるには、肉体・精神面だけでなく社会的健康が重要だ。それは、良好な人間関係を築き、社会における自分の存在価値を感じること。

 コロナ禍でなぜ離職が増えたかというと、リモートでコミュニケーションが希薄になり、社会的健康が失われたからだ。だから社長である僕が直接コミュニケーションをとり、社員が発言しやすいシチュエーションを作って、個人の希望が実現していくことを実感してもらう。そうすることで存在価値や自己肯定感が高まっていく。その感覚は〝Z世代〟でも一緒だ。結局は何をするにしても人と人としての付き合いが大切。

 ─小泉さんを見ていると、「企業は人なり」という言葉を思い出す。社会的健康の実現という視点で見ても、患者が集まる治療院は大きな意義がありそうだ。

 まさしくその通りだ。治療院は治療を通して肉体的な健康にもアプローチするが、患者様同士や施術者とのコミュニティーの場にもなっている。特に近所付き合いの少なくなった都会の環境では、治療院は社会的健康を含めたウェルビーイングが満たされている環境にある。

 痛みが取れて体がよくなっても通い続けてくれる人がたくさんいるのは、やはり院をサードプレイスとして利用してくれている証だと考えている。

 ─今後の展望は。

 接骨院・鍼灸院の課題に、国民受療率というものがある。体の異変を感じたときに、どれだけ来院し治療を受けるかの割合だが、年に一回以上鍼灸接骨院を頼る人は国民の約1割にとどまっているというデータが出ている。この状況ではどれだけ店舗を増やしても、「全ての人にウェルビーイング」という企業パーパスは達成できない。

 9割の人に治療院が必要ないかといえばおそらくそうではない。きっかけが無かったり、鍼灸院に接骨院と色々ありすぎてわからないといった理由があるはずだ。そこで、自分に合った治療院を選べるようにすることが必要だと考えている。

 そのために、AI(人工知能)と接骨・鍼灸を融合した「見える化」を進めている。

 クリニックや医療の世界では、治療を進めるうえで検査をするのが当たり前だ。しかし、治療院業界にはそういったデータがなく、痛い、痛くないといった主観しかない。だから改善しているのかどうかわからず、自己判断で治療をやめる人が出てくる。自分の状態を可視化することで患者様の健康にも貢献し、ゆくゆくは治療をメソッド化することも可能となる。例えばAIが鍼のツボを判定するなどの技術も目の前だ。

 国民のウェルビーイングに貢献し、会社のビジョンである「健康寿命プラス5歳」を目指していく。

大阪市港区弁天町の本社で。小泉社長(左)と阪本晋治

小泉英一さんプロフィル 

1997年に明治鍼灸大学鍼灸学部卒業。2002年明治東洋医学院柔整科卒業。古東整形外科内科勤務を経て、2003年に株式会社SHIN9を立ち上げ、こいずみ鍼灸整骨院を開院。ReCORE(リコア)鍼灸接骨院を中心に、全国で鍼灸接骨院を展開する株式会社HITOMIOテクノロジーズの社長兼CEOを務める。

■株式会社HITOMIOテクノロジーズ
[本社]大阪市港区弁天1丁目2-1 大阪ベイタワーオフィス19階 [東京]東京都品川区南大井6-28-11 谷口ビル4階 電話06(6572)5123 [設立]2004年11月19日 [社員数]302人(2024年6月現在)