今知りたい、仏壇の役割 日本人の〝心のよりどころ〟 精神的な健康も

来店客に仏壇について説明する八木研の原田副本部長(左)
来店客に仏壇について説明する八木研の原田副本部長(左)

 時代とともに変わりゆく日本の住環境と家族構成。限られたスペースで効率的に生活することが求められるようになった住環境を背景に、不要なものはなるべく断捨離することが良しとされる時代になった。中でも真っ先に必要性が問われるものといえば、仏壇ではないだろうか。かく言う筆者もまさに必要性に疑問を持つ一人だ。多くが信仰を持たないとされる現代の日本人にとって〝あったら良いが、なくても困らない〟。仏壇を購入する意義とは何だろうか。

客観的視点持てる〝物言わぬカウンセラー〟

多様化する仏壇

 仏壇といえば、黒いうるし塗りのきらびやかなものを想像しがちだが、現在仏壇はさまざまな住環境に合わせ多様化が進んでいる。特に都市部での主流は家具調だ。一見して仏壇には見えない木目調でチェスト型のデザイン。壁掛けで省スペースに対応するモダンなデザインのもの。中にはイタリアの有名家具ブランドが手がけた一千万円を超える高級志向のものもある。
 その多種多様さは、「確かにこんなおしゃれなデザインであれば、インテリアとして一つ置いてもいいかも…」と、つい購入意欲がわいてしまうほど。しかし、見た目の良さだけでは購入理由としては弱い。そもそもなぜ日本では家に仏壇を置くようになったのか。

仏壇のルーツ

 民俗学者の柳田國男氏によれば、日本人の仏壇のルーツは弥生時代にさかのぼる。この時代にはすでに部屋に棚を設けて野花を飾り、先祖の霊を招いて祀(まつ)る「魂棚(たまだな)」という習慣があった。これは豊かな自然の中に先祖の気配を感じ、畏敬(いけい)の念を覚えた日本人独特の死生観から生まれた習慣だったと考えられる。
 その後仏教が伝来し、家庭の〝小さな寺院〟として立派に祀ろうと金などをあしらった仏壇にシフトする。つまり、仏教の要素は後付けで、もともと日本人は先祖崇拝を信仰にしてきた民族だったわけだ。
 「祖先を大切にするべきだ」。これが道徳的に正しいことは理解できる。しかし、30代で無宗教の筆者からすれば、道徳心だけでは信仰を継続するのは難しいように思う。祖先を祀るモチベーションはどのようなところにあったのだろうか。そこに、現代人が忘れている仏壇の本来の意義があるはずだ。

本来の機能

 禅僧にして大学教授の枡野俊明氏は、ベストセラー『心配事の9割は起こらない』で、仏壇は日本人にとって「心のよりどころ」であったと記述している。
 「『ご先祖様に手を合わせる』という行為は単なる儀礼的なセレモニーではない。代々受け継いでくれたことによって、今自分がいただいている命に対する感謝、生かされていることへの感謝をご先祖様に伝えることでもあったのです」
 「ご先祖様と話をし、思いの丈をぶつけることで心は穏やかに安らかになってくる。閉塞感を打ち破り、気持ちが前向きになる。ご先祖様の前で過ごすそんな時間は『心をととのえる』ためのものでもあったと言える」
 なるほど。つまり、仏壇は物言わぬカウンセラーというわけだ。筆者は仏壇のある家に暮らした経験はないが、それでもお寺に正しく参拝し、仏様との対峙を感じた後は、何ともいえぬ心の晴れやかさを感じる。その経験が自宅で毎日続くと考えれば、精神的な健康に結びつくことは十分に想像できる。

一流経営者に学ぶ先祖信仰

 仏壇を「心のよりどころ」という視点で見直すことで思い当たることがある。筆者は記者という仕事柄、経営者と呼ばれる立場の人の話を聞くことが多い。有名企業に訪れた際、立派な神棚や仏壇が社内に設置されていたのを見た記憶がある。「般若心経の教えを大事にしている」と話す経営者に会ったこともある。
 経営者で作家の一条真也氏は著書『なぜ、一流の人はご先祖さまを大切にするのか?』で、次のように分析する。
 「ご先祖さまをつねに意識する人は、こころの中に『第三者的視点』を持っています。『世のため、人のため』の志を自然に立てられるので、私利私欲にとらわれず、周囲から『一流』と認められる人になりやすいのです」
 一千万円の仏壇があることを知った当初は、正直なところ買う人はいるのかと疑った。しかし、心のよりどころでもあり、自身を高みへ連れていってくれる存在ということであれば、お金をかけて大切にする人がいることもうなずける。
 実際に一千万円クラスの仏壇を購入した70代男性は「見た目の美しさが際立っており、これなら子々孫々に受け継いでいきたいと思えるものだった。書斎に置いて〝友〟としてゆっくり向き合っていきたいと思った」と話した。

今こそ大切にしたい仏壇の意義

 仏壇は故人を想い偲ぶためだけでなく、祀る側の精神的健康にも影響を及ぼすことがわかった。千年以上も日本人に先祖への尊敬や畏怖の念を培い、時にカウンセリング機能も果たして来た仏壇だが、今はその機能がほとんど忘れ去られ仏壇離れが進んでいる。
 日々の疲労やストレスが蓄積され、自己中心的で無気力、無関心で他人に思いやりを持てないいわゆる〝心の貧困〟の増加が、若者を中心に問題視されていることと仏壇離れを結びつけるのはいささか短絡的だろうか。
 西洋占星術において、物質や財を重視した「土の時代」から、精神性を重視する「風の時代」に突入したと言われている。
 精神の健康を司る仏壇は、排除すべき対象ではなく、むしろこの時代を生きる我々にこそ必要なものではないか。

価格は1000万円超 八木研が異色の高級仏壇

 現代仏壇のパイオニア「八木研」が超高級現代仏壇シリーズ「グランクリュ」の開発に乗り出している。中でも「スカリナータ・デリ・アンジェリ」は、価格が税別で1250万円と現代仏壇では最高級。高さ約160㌢、横幅約83.2㌢とサイズも比較的大きめで、「小さくて安価」という顧客ニーズの多い現代仏壇においては異色だ。その誕生の理由について、営業本部で副本部長を務める原田玲以香さんに取材した。

─一千万円を超える超高級仏壇が話題だ。開発に至った経緯は。

 一言で言えば「なかったから」。高級な金仏壇や唐木仏壇はあるが、おしゃれで安価な家具調仏壇のシェアが増えている一方、高価格帯でおしゃれな仏壇は今まで業界に存在していなかった。そのため特注で作ったり、諦めて金仏壇を購入されるお客様がいた。そんな要望に応えるために開発したのがグランクリュシリーズだ。
 「スカリナータ・デリ・アンジェリ」はイタリアの高級家具メーカーと共同開発した商品。最高級の材質と一流の技術を用いて作られた、まさにモダンな仏壇の最高峰と呼べる逸品ができたと自負している。

スカリナータ・デリ・アンジェリ。格子状の扉から光が漏れる雰囲気も美しい
スカリナータ・デリ・アンジェリ。格子状の扉から光が漏れる雰囲気も美しい

─どのような方が購入検討されるのか。

 「一目惚れ」される。「スカリナータ デリ アンジェリ」は他にないデザインなので故人にふさわしいものとして、また自分が未来永劫にわたって子孫を見守っていけるように選ばれることが多い印象だ。あとはこの美しい曲線を見て、メーカーを言い当てたファンの方が「我が家はコレだ」と来店することもあった。

─ギャラリーを実際に訪れてみて、こんなに仏壇に種類があるのかと驚いた。どれが自分にあったものがわからないという人も多いのでは。

 はい。だから私たちはまず、お客様の気持ちを丁寧に聞くことから始める。お祀りに対する疑問や心のモヤモヤを解決して、一人ひとりの「こんな風に手を合わせたい」という祈りのカタチを提案している。現代仏壇はバリエーションが豊富で仏具の組み合わせも自由。全体のコーディネートを考える中で、祀りたい心が実際の形に現れる。お客様の気持ちに寄り添って、祈りの場を作っていくという過程を大切にしている。

ギャラリーメモリア大阪梅田店
 大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪北館5階 HDC大阪内
 tel.0120-596-939 営業時間11:00~19:00

ギャラリーメモリア神戸三宮店
 神戸市中央区江戸町94-2
 tel.0120-596-941
 営業時間10:00~18:00