【わかるニュース】仏大統領選は〝歴史的転換〟になるか トランプ幻影、世界を駆け抜ける


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 次の週末にフランスの新大統領が決まる。現職のマクロン大統領に、極右政党のルペン元党首が挑む構図は5年前と変わらないが、前回に比べ極めて接戦だ。この選挙はグローバリズムと反グローバリズムの戦いの構図と見ていい。

 米国にトランプ大統領が出現して以降、世界各国では急速にナショナリズム(単一の国家や民族を中心とした考え方)が台頭。英国は〝イギリスのトランプ〟ことジョンソン首相が誕生しEU(欧州連合)を離脱。EUメンバーとしての経済的利益より主権国家としての国民の利益を選択した。

 世界規模のコロナまん延、ロシアのウクライナ侵攻と経済的なマイナス材料が続く中で、資本主義の基軸だったはずのグローバリズム(地球共同体主義)はどこへ行くのか?

今、世界を見るときに必要な視点はグローバリズムとナショナリズム

リーダー降りた米国

 グローバリズムは無敵のはずだった。経済学者は「高度に世界経済が発達すれば、相互依存の関係を壊すことになる戦争はもう起きない、起こせない」と言っていたがウソだった。


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 グローバリズムの扉を開いたのは、大航海時代のさきがけとなった「東方見聞録」で知られる13世紀のマルコ・ポーロ(現在のイタリア出身)だ。手付かずだったアジアを開拓して資源や産物を欧州に持ち帰れば一躍大富豪になれた時代。彼だけでなく一山当てたい資産家は冒険家を使って、こぞって夢の黄金郷を目指した。

 リターンさえあれば冒険家はどこへでも出向く。植民地から安く原材料を仕入れ、先進国で加工すれば高く売れたからだ。そして、東西冷戦後の世界はまさに、こうした資本主義グローバリズムの天下となった。貧しかった中国は、改革開放を進める中で「世界の工場」と化し、民主化されたロシアは豊富な資源を輸出することで繁栄の礎を築いた。しかし、今や草刈り場だったアジアやアフリカ、南米の南半球諸国はどこも植民地支配からの独立を遂げた。

 残るは南極や宇宙空間ぐらいしかなくなり、20世紀の覇者・米国は軍事力と経済力を〝アメとムチ〟にして世界中に進出。ベトナム、イラク、アフガンに親米かいらい政権を樹立し、利権を確保し続けてきた米国だったが、次々と撤退。オバマ大統領は「もう世界の警察は無理」と宣言し、トランプ大統領はもっと明確に「アメリカン・ファースト(アメリカの事が第一)!」と叫び、自国回帰のアナグマ的政治にかじを切った。

富の偏在で内部崩壊へ

 欧米各国は内政で手一杯なので、専制国家の暴走を押しとどめる力はもうない。地球人口は75億人で、途上国を中心に爆発的な人口増加が続いている。一方で、先進国は日本のように少子高齢化に悩んでいるからだ。世界の3分の1は1日2ドル以下の貧しい生活をしているが、彼らは欧米をはじめとする先進国の言うことをもう聞かない。グローバリズムの恩恵を一番受けて発展した中国も、2020年代後半には人口減少に転じるから、世界のリーダーとしての黄信号がすでに灯っている。


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 グローバリズムが衰退する原因は、格差の拡大だ。1991年にソビエト連邦が解体されて以降、資本主義国にライバルはいなくなった。億万長者が富を一極支配するようになり、テスラ社のイーロン・マスクCEOらトップ1%の人間が、世界資産の約4割を牛耳る異常な構図になった。一握りの資産家が株価を操り、実体経済とのかい離はどんどん広がった。ファンドはリーマン・ショックなどの暴落に乗じて逆に大もうけし、一般投資家とは縁遠い存在になっている。

 資本主義の経済原則は①市中バランスを保つ②弱者救済、のはず。それが身勝手な「自己責任論」を振りかざすようになって庶民から全く信用されなくなった。一時ブームだった〝新自由主義〟による効率優先主義の限界となれの果ての終着駅で、大企業独占と投機マネー肥大が行き着いた醜い姿だった。


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転換期の終点は未だ見えぬ

 そこに降って沸いたコロナまん延とロシアのウクライナ侵攻。コロナで全ての流通が滞り、グローバリズムによる相互依存体制のもろさを露呈した。ようやく回復の兆しが見えたと思ったら、「ない」はずだった戦争が勃発。死語になっていた「西側」「東側」という東西冷戦時代の用語がよみがえり、一方ではコロナでデジタル社会が急速に進み、産業構造変革を加速させた。グローバリズムは大きな歴史的転換期にあるが、一瞬で体制が切り替わる訳ではなく、「1世紀ぐらいかけ新秩序に移って行く」と考えた方がよさそうだ。

 かつてグローバリズムの代表格が米国なら、今のリーダーは世界でシンガポールぐらいしか目に付かない。同国では外国人に積極的に門戸を開放し、アイデア・技術・資金を広く募っている。スティーブ・ジョブズの父親もシリアから米国への移民だったから、それがトランプ政権下だったら移民に厳しいからアップル社は生まれていなかったかも知れない。

弱肉強食の復活

 世界各国はロシアのウクライナ侵攻に立ちすくみ、ゼレンスキー大統領がIT技術を駆使してネットで世界に情報発信しても、肝心の国連は安保理常任理事国で強い拒否権を持つロシアに対し、全く無力であることをはっきり知ってしまった。


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 北朝鮮の金正恩党総書記は核兵器に執着して現体制維持を図る。核を持つロシアに誰も手を出せず、逆にブダペスト覚え書きで米ロから核兵器放棄の代償に安全保障されたはずのウクライナはロシアに裏切られ、同様に核開発放棄と引き替えに欧米からの支援を受け入れたリビアのカダフィ大佐は人民に殺されたことが「絶対核を手離さない」という確信的教訓だ。

 24日に迎えるフランス大統領選の決選投票。もし、ルペン政権が誕生したらナショナリズムに基づくEU離脱は現実味を帯び、英国からはじまった離脱ドミノ倒しが再び起こりかねない。「自国の安全は自分で守る」というのは一見格好いいが、弱肉強食の自己中心国の乱立が待ち受ける地球地図はどうなるのだろうか?