【外から見た日本】軍産複合体 戦争の経済学 15年ごとに戦争が起きる現実

Spyce Media LLC 代表 岡野 健将


 アメリカでの大学時代、軍産複合体についてのレポートを書いた事があります。今回はそれに関連した戦争の経済面を取り上げてみます。

巨額の軍事費が動く

 直接的な影響は軍事費の急増。ロシアだけでも何兆円もの戦費を投じています。ウクライナも世界中からの支援を受けて莫大な戦費を投じています。それ以外に、アメリカはウクライナに対して軍事面で数兆円規模、人道支援でも数百億円規模の支援を行っています。ドイツは今年特別予算で13兆円近い軍事予算増を即決した上で、GDPに占める軍事費を少なくとも 2%に引き上げることを決定しました。それに習う様にポーランドの3%を筆頭に欧州各国は軍事費を1%前半から2%に引き上げる決定をしています。

 NATOからアメリカを除く29カ国のGDP合計は約2500 兆円、NATO各国が設定している2%だと単純計算で合計50兆円もの軍事費が毎年計上される事になります。

 ちなみにアメリカのGDPは2500兆円程度で、軍事費は3%強。金額にして100兆円超。NATO全体の軍事費の約7割を占めています。

軍事費の裾野は想像以上に広い

 軍事費というとロケットやミサイル、戦車などを想像するのではないかと思いますが、それ以外にもレーダーや測量機器、ヘルメットに防弾チョッキ、医薬品から携帯用食糧、通信、衛星ネットワークなど多岐に渡ります。

 そしてそこに関連する産業も戦車やミサイルを製造する企業はもちろんのこと、医療機器メーカーや繊維メーカー、ゴムやプラスティックなどの素材メーカー、物資の輸送を請け負う運輸業者、電気・電子機器や通信機器メーカー、インターネット関連業界、そして食品メーカー、医療サービスなども含まれます。他にも長期的視点で見ると、大学や各研究機関、IT産業などの新興ベンチャー企業群なども軍事予算から研究開発費を得ているので関連産業と言えます。

 これらの巨大な産業群や教育・研究機関が軍事費名目で確保された予算から資金を得ていて、この軍事費は世の中の隅々まで影響を及ぼします。

 そして、戦闘が終結すると、今度は滅茶苦茶に破壊されたウクライナの都市の再建が待っています。そこにはゼネコンを筆頭に都市開発に関する最先端技術を開発している企業や交通機関関係や公共インフラ関係、樹木の提供やデザイン、広告、住宅、娯楽産業などあらゆる企業が虎視眈々(こしたんたん)とビジネスの機会をうかがっています。ウクライナ政府や国民に無料のインターネットサービスを提供しているスターリンクなどはその最たるものかもしれません。

戦争は武器のデモンストレーション

 今回の戦闘で知名度をあげたミサイルやトルコ製のバイラクタルTB2というドローンは一式で約13億円、F35は一機200億円以上、パトリオットミサイルは一発約4億円。これらの最新鋭兵器は、今後各国に飛ぶ様に売れていきます。それに加えウクライナ軍が使用してよく目にした対戦車ミサイルは1発約2500万円、地対空ミサイルは一発約400万円。これらは何万発も最前線に支給されています。ここで使われるのが、最初にあげた激増した各国の軍事費です。

 同時に今回の戦争で在庫として眠っていた旧式の兵器が一掃出来たことも見逃せないポイントです。古いものを処理出来ないと新しいものを購入するのは簡単ではありませんから。

軍産複合体による戦争経済構造は必要悪

 軍産複合体が牽引する軍需産業は一般的に約15年に一度大きな戦争が必要と言われています。1945年の第2次大戦終了後、1955年にベトナム戦争が始まり、75年に終了。1991年にイラクのクウェート侵攻から湾岸戦争が勃発、2001年の9・11テロから発したタリバン掃討、 2003年に始まったイラク戦争など対テロ戦争は2014年まで続きました。そして今回のロシアのウクライナ侵攻。歴史を振り返ると大体15年単位で大規模な戦争があります。

 これら以外にも4回の中東戦争や朝鮮戦争、ロシアのアフガン侵攻・クリミア併合、アフリカ大陸での大量虐殺を伴う戦闘などの局地戦があり、全て見ていくとキリがない程、軍需産業を潤す戦闘が繰り返されてきています。

 これらの戦闘行為によって旧式武器が消費されることで、新しい武器が開発され、売れて行き、様々な産業が潤い、雇用が提供され、研究開発が行われ、技術の進化が起こり、私たちを含めた世界中の多くの一般市民の生活が成り立っています。

 ウクライナへの侵攻が終わったあと、誰も正式に管理していない無数に流れ込んだ武器が闇から闇へと消えていき、テロリストや暴君の手中に落ちて行く事も避けられない現実です。しかし、それも市場の経済性からは必要なマーケットとなってしまうのです。戦争は良くない、ということは解っていても、このサイクルを断ち切る事はそう簡単なことではありません。あなたならどうしますか?

【プロフィル】 State University of New York @Binghamton卒業。経営学専攻。ニューヨーク市でメディア業界に就職。その後現地にて起業。「世界まるみえ」や「情熱大陸」、「ブロードキャスター」、「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、Discovery ChannelやCNA等のアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。