オフィス契約率が好調なワケ 大阪梅田ツインタワーズ・サウス


▲観葉植物を配置したウェルコのカフェ

透けて見える新たな価値観

 阪神百貨店梅田本店が入る地上38階建ての大型複合ビル「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」(大阪市北区梅田)は全体工事が完了し、上層階のオフィスゾーンが3月24日に開業した。テナントとしてダイキン工業(北区中崎西)、東洋紡(北区堂島浜)がそれぞれ本社を移転して入居するなど全体の契約率は約8割に達した。駅直結の立地が受け入れられただけでなく、「心身の健康」に配慮した共有フロアのデザイン性が評価を得ているようだ。西日本最大のターミナルに誕生した最先端ビルに、オフィスワーカーの新たな価値観が透けて見える。

評価された「ウェルコ」


▲大阪梅田ツインタワーズ・サウス(右)と同ノース=大阪市北区

 「約8割が成約している。WELLCO(ウェルコ)を評価してもらった」

 阪急阪神不動産の森永純常務は、オフィスゾーンの内覧会でこう説明した。

 開業時の契約率約8割という数値は、開発業界では好調な域に入る。テナント企業がスペースの拡張を求めた場合でも対応できるように増床の余地を残しておく必要があるため、満杯の10割ではなく8割程度こそが好調なのだ。

 好調な要因となった「ウェルコ」は、テナント企業のオフィスワーカーが利用できるサポートフロアの名称で、ビル12階に位置する。栄養士監修のメニューを提供するカフェをはじめ、眺望を楽しみながらルームランナーなどで汗を流すフィットネススペース、商談や交流の場となるラウンジがある。

 特筆すべきは、オリーブやガジュマルなど30~40種の観葉植物を配置するデザイン性だ。担当した一級建築士事務所ヨシモトアソシエイツ(東京都)の吉本大史代表によると、「バイオフィリックデザイン」をベースにしたという。

東京にもない規模感

 「バイオフィリックデザイン」の由来は、バイオ(生命)とフィリア(愛好)を重ね合わせた造語のバイオフィリア。つまり、人間には自然とつながりたい本能的な欲求があるという仮説に基づいたデザインを意味する。先進地の欧米を念頭に、吉本氏はウェルコで「緑」をふんだんに取り入れた格好だ。

 「東京でもこんな規模はない。こちら(大阪梅田ツインタワーズ・サウス)は丸々ワンフロアを充てた。大きな経営判断だと思う」と吉本氏は話す。

 もともと、阪急阪神不動産のグループに阪神甲子園球場で培った環境緑化の維持管理ノウハウがあり、「緑」に慣れていたものの、ウェルコの設置に慎重論が無かった訳ではない。

 関係者によると、経営層から「ワンフロアを貸せば(テナント収入は)いくらになるのか」との声が上がっていた。それでも、「働き方改革の中で必要な施設。単なるオフィスビルだと力不足だ」と考え、ウェルコ設置の決断に至った経緯がある。

創造力アップへ

 「オフィスを健康にしなければいけない。健康面で劣悪な中ではいくら給料が高くても行かない」とは、吉本氏が考えるオフィスワーカーの価値観だ。

 これに通じるデータがある。不動産サービス大手のCBRE(東京都)が企業のオフィス戦略担当者を対象に今年1~2月実施した意識調査の結果だ。

 その一つに、企業が長期的成長を目指す上で重視すべき「ESG(環境、社会、ガバナンス)」の観点で調査したものがあり、事業活動のサステナビリティ(持続可能性)で優先的に取り組む事項のトップは「従業員の健康と幸福の向上」(61・2%)だった。後続の「エネルギー排出量に関する目標」(46・0%)を15ポイント上回っていた。

 結果について、CBREは「人材採用面の優位性や離職防止のためだけでなく、従業員のパフォーマンス向上にもつながるということが、優先項目の上位に位置づけられている要因だろう」と分析している。

 吉本氏も同様の見解を示している。「閉じ込められた空間であっても、本物の自然と触れ合えば、創造力を高めることができる」と話し、オフィスワーカーの価値観は「心身の健康」にあると説く。

連帯感生む

 大阪梅田ツインタワーズ・サウスのオフィスゾーンへのテナント入居作業は5月の大型連休から本格化する。東洋紡は5月3日の創立140周年を機に本社移転し、ダイキン工業も2024年10月の創業100周年記念事業として本社を移転する。これを機に、東洋紡は「社員同士のコミュニケーションを促進する」(広報担当者)オフィスのレイアウトを考えているという。

 新型コロナウイルス感染症流行によって在宅やサテライトでのテレワークが広がったが、同僚との連帯感を生むオフィスは生産性の向上に欠かせない。

 果たして、「心身の健康」に配慮した最先端ビルのオフィスで、創造性を発揮し、業績アップへ―となるかどうか。

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 大阪梅田ツインタワーズ・サウスは、阪急阪神ホールディングス傘下の阪神電気鉄道と阪急電鉄が事業主で、阪急阪神不動産が代行。地下2階から地上9階の阪神百貨店梅田本店は4月6日に全面開業した。事業全体の投資額は約900億円。グループの一体感を高めるため、阪急百貨店梅田本店が入る「梅田阪急ビル」の名称を「大阪梅田ツインタワーズ・ノース」に改めた。