高齢者狙う「次々販売」 罰する法律がない。〝自衛策〟講じて

 必要のない高額商品を次から次へと売り付ける「次々販売」の被害が後を絶たない。特に判断能力が低下している高齢者が狙われ社会問題になっている。しかも、この〝悪徳商法〟はどこまでが適法なのか、線引きが難しいうえに、この商法自体を罰する法律がなく、立件そのものが困難だけに厄介だ。つまり被害を防ぐには「自衛策しかない」という状況に近い。そこで被害防止のために「どうすれば良いのか」をチェックしよう。

 「次々販売」に関する相談が各自治体の消費生活センターなどに、相変わらず寄せられている。手持ちの現金をつぎ込ませるだけでなく、収入状態からはとても返済できないローンを組ませ、生活を破綻させるほど次々と商品を販売するというもので、消費者契約法4条4項の「過量販売」に該当する疑いがある悪徳商法のひとつだ。

 日用品や身近な食品などを〝ただ同然〟で配るとチラシなどで告知し、締め切った会場(こんな状態のものが多い)に人を集め、雰囲気を盛り上げた後に、高額な商品を買わせる「SF(催眠)商法」はよく知られるが、消費者問題では同種の商法とされている。

 「次々販売」を巡るトラブルには、家屋工事(塗装や内装工事など)や健康食品・器具(ふとん、磁気マット、浄水器など)、化粧品、アクセサリーとさまざまな商品が登場するが、古くから度々、問題に浮上するのが「呉服」である。テレビCMで知名度を上げたものの、実態はトラブルばかりの〝展示会商法〟で、客から訴えられたあげくに倒産した「愛染蔵(あぜくら)」の事件は2006年の社会問題として記憶に残っている。

「松葉」の社長ら逮捕

 昨年11月、「愛染蔵」と同じ大阪の呉服店「きもの松葉」の運営会社の社長らが奈良県警に「不正販売があった」として逮捕された。国民生活センターによると松葉関連の相談が11年度以降、約500件にも上っている。

 しかも逮捕後も多くの相談が寄せられているが、逮捕は「商品受け渡し前の分割払いを無許可で営んだ」割賦販売法違反で、12月に奈良簡裁が罰金100万円の略式命令を出している。罰を問える法がなかったための〝苦肉の策〟だが、同社の悪質極まりない実態とはかけ離れた罰と言わざるを得ない。

 「松葉」の悪質な実態は大阪市消費者保護審議会が昨年6月、80代の女性客の事例を「報告書」にまとめ公表している。そこで〝その案件〟を見ながら、被害防止策を検討してみよう。

「お茶だけでも」の誘い

 女性が「松葉」と初めて接触したのは令和元年の5月5日。毎日の散歩コースの途中にある商店街にあった同店の店頭に置かれたバッグが目に留まった。4980円を払い購入。それからは散歩途中に「良い柄だ」と思って、立ち止まって着物を見る度に「お茶だけでも」などと店内に誘われ、生地を体に当てるなどされたあげく、次々に着物や帯、アクセサリーを買う契約させられてしまった。

 女性は年金(2カ月で約26万円)生活者で独居。過去にほとんど着物を購入したことはない。それが5月にもう一度、6月1回、7月2回と購入を重ね、8月以降は月4、5回ほどにペースアップした。11月には老後のために蓄えていた預貯金も底を尽いたが、それでも「松葉」はローンを利用しての購入を勧め、売り続けた。

 当然、生活は困窮するようになった。結局、女性の親族がこの状況に気付いた翌年1月までの8カ月間で、契約は31回にも渡り、総額は約3445万円にもなっていた。

 なぜ、これほどまでに高額な契約を結ぶことになったのか。

 実は女性は「要介護1」の認知症患者だった。物品の売買や金銭管理などの能力がかなり低下していると、医師に診断されていた。もちろん「次々販売」の標的になるのは認知症患者に限ったことではない。店頭販売だけでなく、展示会や食事会、旅行会などを実施し、その折に高額商品を勧めて、契約に持っていくのが「催眠商法」の手口だ。

 展示会では一人の客を数人で取り囲み、威圧感を与えて契約させることや、怒鳴って恐怖心から買わせるケースもある。さらに契約するまで帰してもらえない〝超悪質〟な例もある。そうでなくても「どれが良いと思いますか」と聞いてきたのに「これ」なんて答えると、それを買ったかのようなムードに持っていかれて、気付けば「買わされた」ということが少なくない。

 概ね展示会などには「見るだけでいいので」と誘う。自宅に迎えに来て、まるで拉致されるかのごとく参加させられた例もある。必要がないと思えば、契約はきっぱりと断る。「押しに弱い」人は断り切れなかったりするので、買うつもりがなければ、展示会などに「行かない」のがベストだろう。

消費者センターに相談を

 前出の女性の親族は消費者センターに相談し、「松葉」に返品返金を求める書面を通知したが、「応じられない」という回答だった。「買いたいと言われれば売る。販売に問題はない」と繰り返し、センターの相談員に対して威圧的な発言をするほどだったという。

 センターのあっせんが不調に終わり、そこで審議会が問題の処理に当たった。そして合意した内容は、買った商品のほとんどが「未開封のまま保管されている」にも関わらず、「松葉」が契約された半額程度の1500万円を3回分割で返金し、残債約223万円を放棄するというものだった。

 「次々販売」の被害については、クーリング・オフや消費者契約法の取り消しで対処できる場合もある。また公序良俗違反による返金で解決といったケースも考えられるが、規定が抽象的であるため、必ずしも認められるとは言えない。ケースによっては弁護士に解決をゆだねることも方法のひとつだろうが、それよりも高齢者は周囲の人たちが見守る必要が不可欠。

 日頃から家の中に見慣れない商品や契約書がないか気を配り、あれば1日でも早く消費生活センターなどに相談するのが、解決への近道だ。