小学校でプログラミング教育が必修化されたり、児童や生徒に1人1台のデジタル端末が配られるGIGAスクール構想が始まり、「STEAM(スティーム)教育」という言葉をよく聞くようになった。IT社会に通用する子どもたちを育成していくために「STEAM教育の推進」を打ち出す公立の小学校や中学校も増えている。そもそも「STEAM教育」とは一体、どのような教育なのか? なぜ今後、大切になるのか? わかりやすく紹介してみたい。
2030年にはIT人材が最大で79万人不足する
2019年、元Yahooの社長である宮坂学氏が東京都副知事に就任した。巨大IT企業のトップからの転身は当時、大きな話題になったことは記憶に新しい。
宮坂氏は就任後に、民間からのデジタル人材の採用を進め、2021年4月には東京都庁のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進める新たな部局「デジタルサービス局」を設置した。2020年の春以降、コロナ対策で行政のデジタル化を求める風潮が一気に強まっていたからだ。
デジタル化によってこれまでよりも合理的に、無駄なく、スピーディーに社会を前進させていく流れは世界的に加速しているが、その一方でデジタル分野に明るい人材は足りていないのが実態だ。経済産業省は「2030年にはIT人材が最大で79万人不足する」と発表しており、こうしたデジタル人材の需要は急拡大中だ。
理数教育に創造性教育を加えた教育理念
社会とテクノロジーの関係がますます密接になっていく時代には、どんな教育が必要なのか? その答えとしてSTEAM教育に注目が集まっている。
STEAMとは「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Art(s)(芸術・教養)」「Mathematics(数学)」の5つの英語の頭文字を組み合わせた造語だ。
この5つの領域を対象にした理数教育に創造的教育を加えた教育理念がSTEAM教育と呼ばれる。デジタルの世界にこの5つの領域は欠かせないことから、この領域を理解し、さらにその力を創造性によって具体化する能力を養うというものだ。文部科学省の教育再生実行会議では「各教科での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科横断的な教育」として提言している。
大阪市内の小中学校でも取り組んでいるSTEAM教育
では実際に、STEAM教育に取り組んでいる学校はあるのだろうか? 大阪市内に目を向けると、小中一貫校という9年間の長いスパンをメリットにして、特色ある教育に取り組んでいる学校が目立つ。
STEAM教育の推進を打ち出している大阪市立咲洲みなみ小中一貫校(大阪市住之江区南港中、前田善久校長)では、小中9年間を通した英語教育、グループ学習を中心にアクティブラーニングの推進と、ICT機器を活用した授業を展開。小学校は算数、中学校は数学・理科を研究主題として取り組んでいる。
市立咲洲みなみ小中一貫校の前田善久校長
パソコンやタブレットを使って自主学習ができる「eラーニング」を導入することで、子どもたちは自分のペースで何度も繰り返しながらドリルで学習することができるようになった。SDGs(持続可能な開発目標)に向けても同校のある南港の恵まれた自然環境を生かしたSTEAM教育に取り組む考えだ。
ART(芸術)の面でも7年生の吹奏楽未経験者を対象に、shion(元大阪市音楽団)によるワークショップを開いて楽器や吹奏楽を体験したり、区内の相愛大音楽学部とも一緒に活動したりしている。卒業式には児童生徒が作詞や作曲をした音楽を披露し、YouTubeにもアップする予定だという。
また、文化部の技術研究部は、「第21回創造アイデアロボットコンテスト全国中学生大会」(全日本中学校技術・家庭科研究会主催)に出場し、プログラミング力が評価され審査員特別賞を受賞した。
前田校長は「複数教員で熱心に指導していただいている。教職員には児童・生徒が実社会を生きていく上での学力をつけていただくようにお願いしています」と話している。