STOP!悪質客の〝カスハラ〟 改正旅館業法施行

 旅館やホテルで迷惑行為や過重なサービスの要求などを繰り返す客の宿泊を拒否することが可能になった改正旅館業法が12月13日から施行される。SNSの普及や口コミ投稿などにより悪質な「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が増える傾向にあり、厚生労働省では、宿泊料の不当な割引きを求められた場合など施設側が宿泊を拒否できる具体的なケースをまとめた。一方で障害者が不当な扱いを受けないよう宿泊拒否ができない事例も具体的に示し、相談窓口も設置した。

SNSイメージ

「お客さまは神様」から、「お客さまとはお互いさま」に

〝カスハラ〟苦慮の業界から安どの声

 改正旅館業法では、「カスタマーハラスメント」を繰り返す客の宿泊を拒否することが可能になった。厚生労働省は配慮を求める障害者などの宿泊拒否につながらないよう、専門家による検討会でどのような場合に旅館やホテルが宿泊を拒否できるのかといった法律の運用の方針と具体的なケースをまとめた。運用指針には、宿泊拒否が可能な「カスタマーハラスメント」の事例をはじめ、障害を理由の宿泊拒否があった事例があるため、障害者が不当な扱いを受けないよう宿泊拒否ができない事例も具体的に示された。(下図参照)

宿泊を拒否できるケース

●客がスタッフに対し、宿泊料の不当な割引きや慰謝料の要求、契約にない送迎などほかの宿泊者と比べて過剰なサービスを求める。
●スタッフに対し、泊まる部屋の上下左右に宿泊客を入れないよう求める。
●土下座などの社会的相当性を欠く方法で謝罪を求める。
●泥酔し、スタッフに対し長時間にわたる介抱を求める。
●対面や電話、メールなどで長時間にわたり不当な要求をする。

カスタマーハラスメントに当たる特定の要求を行った者の宿泊を拒むことができる(イメージ)=厚生労働省のHPから
カスタマーハラスメントに当たる特定の要求を行った者の宿泊を拒むことができる(イメージ)=厚生労働省のHPから

宿泊業界が「改正」を要請

 改正旅館業法は宿泊業界から、「法律に基づいて客に感染対策を求め応じない場合は宿泊拒否を可能にする」ように国に要請があり、ことし6月に成立した。改正にあたっては2003年にハンセン病の元患者が宿泊を拒否されたケースがあったことから、「法律が拡大解釈され差別につながるおそれがある」という声が上がり、検討会にはハンセン病や障害者の団体なども加わって議論が行われた。

「罪」に該当するカスハラも

 客からの「カスタマーハラスメント」に悩まされてきたという宿泊施設は少なくない。「クレーム」と違い「カスタマーハラスメント」は法律の専門家によれば、「従業員や企業に危害を加えるといって要求を通そうとする行為」(脅迫罪)」▽「脅迫や暴力でしなくてもいいことをさせる。土下座の強要など」(強要罪)▽「大声を出す、品物を倒す、迷惑電話など宿泊施設側の人を怖がらせる行為」(威力業務妨害罪)などの罪に該当する可能性があるという。

増えるカスハラの背景

 カスハラ増加の背景には「顧客側の心理」と「過剰なサービスの一般化」が挙げられる。日本社会では長年「お客さまは神様」と例える「顧客至上主義」という共通認識がある。このため、「可能な限りサービスを向上させ、客に対して丁寧に接客すべき」という価値観が良いものとされてきた。顧客の中には「従業員には理不尽な態度をとってもいい」と勘違いする宿泊者が発生している恐れがある。また、カスタマーハラスメント対応に詳しい専門家は「個人主義が進み、デジタル化や匿名性が増したことで、SNSで企業に対して苦情を言ったりするハードルが下がってきている」と指摘する。

 実際、宿泊施設にとって旅行サイトの口コミやSNSの投稿の影響力は大きく、「理不尽な投稿であっても客足に影響を及ぼすことがあるので」(施設側)と安どの声が聞かれる。

 新型コロナの5類移行で観光需要が回復し、ホテル・旅館業界での人手不足が叫ばれている。

 こんな中、今回の旅館業法の改正で接客業界の「お客さまは神様です」の時代から、宿泊施設、利用側、双方がウインウインの関係で、「お互いさま」との気持ちが必要な時代を迎えている。