1972年の冬季五輪以来、大規模な再開発が急ピッチで進む札幌市。世界の超富裕層に注目されるリゾート地「ニセコ」をはじめ、2031年に札幌まで伸びる北海道新幹線など話題は目白押しだ。こうした資産価値の上昇を背景に、関東を中心とした富裕層が札幌のタワーマンションを購入している話を過去に報道してきた。ところが最近、富裕層は札幌のみならず、道北にある北海道第2の都市「旭川」にも触手を伸ばしている。しかも、その中心は関西の富裕層だ。背景に何があるのか。
セカンドハウスでタワマン購入。道内巡るリゾート拠点に
「道外からの購入は3割にも上ります。うち半数以上が関西の方です。50代以上で二人世帯からの問い合わせが多いですね」
こう話すのは、JR旭川駅前に建設中の超高層マンション「プレミスト旭川ザ・タワー」の販売担当者だ。旭川市で初となる地上25階、高さ90㍍にもなる同タワーマンションは、1LDKから4LDKまでの151戸。完成すれば道北エリアでは最も高い建物となり、高層階の大きな窓からは標高2000㍍級の大雪山連峰が見渡せるという。
建設場所は、JR旭川駅から北に伸びるメインストリートの買物公園(歩行者天国)に面した一等地。エリア唯一のタワマンという希少性から販売は順調で、最高価格3億5000万円を含む高層階の住戸は、すでに売却済み。今後は中層階(18階)~低層階(3階)が販売される予定だ。入居開始時期は2025年3月になるという。
札幌の物件よりも4~5割安い
関西の購入者で多いのは、セカンドハウスとしての活用だ。北海道全域で見れば当然、札幌が一番人気だが、「実際に購入を考えると札幌は価格が高いし、都心過ぎてゴチャゴチャしているという声もあります。手頃でゆったり過ごせる面から、旭川を選ばれる方も多い印象です」と販売担当者は明かす。
では、実際にその価格面を見比べてみたい。本紙の記事で何度も取り上げきた札幌駅前の「ONE札幌ステーションタワー」は現在、販売中の住戸が5000万円台~1億2000万円台。これを1坪あたりに計算し直すと、390万~460万円台となる。
一方で「プレミスト旭川ザ・タワー」はどうか。販売中の住戸(中層階)は3600万円~6200万円台で、1坪あたりはいずれも240万円台。札幌よりも4~5割安くなる計算だ。しかもこれは上層階が中心の坪単価だから今後、低層階の販売が始まれば、さらに割安になるはずだ。
旭川は北海道のほぼ中心部にあるから、クルマで道内各地を巡りやすい。道民以外は〝北海道全体をリゾート地〟と大きな枠で見るから、「セカンドハウスを構えるなら、札幌よりも旭川の方が価格や利便性の面で賢い」という関西人たちの計算が働いていそうだ。
一方で、投資目的の購入者もいる。実は旭川は、網走や十勝、釧路などの道東地域と、稚内や紋別のある道北地域の中継地点で、比較的医療が発達しており、医師の入れ替わりが激しい地域事情がある。
「富裕層のドクターに貸したり売ったりするのを目的に、物件を購入するニーズが一定数あります」(販売担当者)
雪質でニセコを超えるか?
ところで〝旭川〟の地名は有名だが、多くの大阪人にとって北海道は縁遠い地域。今一度、「旭川とはどんな街か」をおさらいしてみよう。
同市は札幌に次ぐ第2の都市で約33万人が暮らしている。人口規模で言えば、大阪の高槻市や茨木市クラスだ。
ウインタースポーツではニセコのパウダースノーが世界的に有名だが、旭川や富良野の一帯も〝北海道パウダーベルト〟と呼ばれる粉雪圏にあり、軽い雪がたっぷりと降りそそぐ。「胸まで雪が積もっても自由自在にスキーを動かせるほど雪質が軽い。個人的にはニセコを超えると思っている」と称賛するスキーヤーもいる。
市内にある道北最大級のスキー場「カムイスキーリンクス」は、国際スキー連盟が公認するコースに加え、自然の地形を生かして木々の間を縫って滑走するツリーランエリアがある。冬季にはオセアニア地域やアジア圏、北米からの来訪者もすでに多いことから、旭川が第2のニセコになるポテンシャルは十分にある。
オホーツク、日本海、太平洋…。道内の食が集まる物流拠点
北海道といえば、おいしい食も見逃せない。旭川は農業や畜産、酪農が盛んだが、地理的に道央の物流拠点になっているから、内陸にもかかわらずオホーツク海や日本海、太平洋で獲れた新鮮な海産物などが集まってくる。
ご当地グルメでは、札幌や函館と並び3大ラーメンの一つに数えられる「旭川ラーメン」が代表格。魚介と豚骨を合わせた濃厚なダブルスープに、キレのある醤油ダレを合わせるパターンが主流だ。真冬の気温が氷点下30度近くまで下がるため、スープが冷めないように表面をラードの層で覆う。熱々の香ばしい醤油味のスープを少加水のちぢれ麺がよく吸収するので、味わい深い。
また、かつては養豚業も栄え、新鮮な豚が手に入ったことから〝塩ホルモン〟の発祥の地でもある。市内にはホルモン専門店も多く、〝トントロ〟の火付け役も旭川の焼き肉店だったと言われている。
富裕層の新しい旅のスタイル「体験型」で注目
世界遺産の知床、神秘の湖の摩周湖、富良野のラベンダー畑、トマムの雲海など都府県に比べて圧倒的な観光資源に恵まれる北海道だが、道庁が今、観光施策の柱に据えているのがアドベンチャートラベル(AT)だ。
日本ではなじみが薄く、初耳の読者も多いだろうが、欧米や欧州では富裕層を中心に定着している旅行形態。地域住民との交流やその地域でしか味わえない体験などを通じ、自分自身の成長や内面の変化を感じられるような新しい旅のスタイルで、この市場が今、急拡大している。
観光庁によると、ATの市場規模は2016年の約49兆円から23年には約147兆円まで拡大する見込み。ポイントは訪日外国人旅行者の平均消費額が15万4000円なのに対し、AT旅行者は33万円と2倍以上になることだ。
実際に、訪日客に付加価値の高い体験サービスを提供するDeeper Japanでは、エゾシカの狩猟見学(420㌦)や、雪原での乗馬体験(280㌦)、刷毛染め体験(180㌦)などを提供しており、人気を集めている。
こうした世界の観光トレンドから予測しても、北海道の拠点として地理的優位に立つ旭川が今後、注目を集めることは間違いない。