高齢化が進む中、介護業界で人手不足の深刻さが増している。厚生労働省によると、2040年度には22年度より約57万人多い約272万人の介護職員が必要になると推計している。こうした現状に危機感を抱くのが、大阪市東淀川区で介護・福祉事業を展開するサクラコーポレーションの川原大貴社長だ。業界では外国人労働者の活躍も期待されているが、「まずは日本の若者が『介護や福祉って面白い』と思える業界にしなければ」と、若い経営者ならではの働き方改革に取り組んでいる。

有効求人倍率 訪問介護は13倍以上
夜勤を含む不規則な勤務や、業務量に見合わない賃金への不満など「きつい・汚い・危険」のいわゆる「3K」職場というイメージが先行する介護業界。今年4月の大阪労働局管内の有効求人倍率は施設介護で3.21倍、訪問介護は13.16倍と依然として高水準の状況にある。
特に若者の離職率が高く、介護労働安定センターが発表した24年度の介護労働実態調査によると、30〜39歳が13.8%なのに対し、29歳以下は18.7%と若手の定着が大きな課題となっている。
こうした中、サクラコーポレーションの川原社長は「介護は若者に選ばれない業界なのではない。選ばれる見せ方と、挑戦できる働き方を作れていないのではないか」と問題提起し、「介護のネガティブな印象を覆し、夢を持って働ける業界にしたい」と若い介護職員が挑戦しやすい環境づくりに力を入れている。
若いスタッフの挑戦を後ろから支える
実際に同社では20代が正社員の約2割を占める。最年少は22歳で、すでに管理者を務めているという。「彼はもともとパーソナルトレーナーだったが、高齢者向けの運動支援に取り組んでみたいと入社したんです」と川原社長。
同社として初めての取り組みだったためリスクもあったが、川原社長はすぐさま「やってみよう。何かが起きたとしても会社が守るから」と背中を押した。
最低限のルールは守りながらも現場の発想を止めない。SNSで見つけたゲームやタブレットを使ったレクリエーションなど、若いスタッフのアイデアを積極的にサービスに取り入れている。
「働くスタッフ自身が楽しめること。この姿勢が業界を変えていく一歩になる」と川原社長。
一方で、若いスタッフの存在は、利用者の刺激にもなっている。「若いスタッフがいる日だけ、身だしなみに気を配る高齢女性もいるんですよ」とにっこり。「楽しみが増えると人は元気になるんです」と話している。
在宅介護にこだわる理由
同社は住み慣れた家で暮らし続けられる支援を重視。訪問介護や福祉用具の貸し出し、リハビリ型デイサービスなどを組み合わせ、利用者と家族の在宅生活を支えている。
「施設に入れば家族は楽になるかもしれない。でも、20〜30年暮らした愛着のある家で最後まで過ごしたい人は多い」と川原社長。
在宅介護を費用面から支える行政制度もあるが、十分に知られていないケースもあるという。このため、同社では利用できる制度を紹介し、家族の負担を減らしながら在宅生活を続ける方法を提案している。

保険サービスに頼らず、収益源を広げて待遇改善
介護業界で若者の採用を伸ばすには、賃金の面も重要だ。介護事業は公定価格に左右されるため、売り上げの上限が見えやすい。このため、賃上げや研修体制の整備に十分な費用を回せない事業所も少なくない。
川原社長は介護保険が適用されるサービスだけに頼らず、福祉用具の貸し出しや、犬の散歩、映画館への付き添いといった自費サービスにも事業を広げている。収益基盤を強化し、スタッフの待遇改善につなげようとしている。
競合ではなく仲間 共に業界改革を
「同業他社についても競合視せず、同じ仲間としてとらえることが大切だ」と川原社長。地域の介護事業者とも情報を共有し、求人や制度活用、経営上の工夫を伝えている。自社のスタッフが起業を希望すれば、準備や考え方も教えるという。
介護を我慢して働く仕事から、自分の発想で人を元気にできる仕事へ。介護が若者に選ばれないのではなく、まだ選ばれる仕事としての姿を十分に見せられていないのかもしれない。
川原社長は自社だけの成長を追うのではなく、その実践を地域の事業者と共有し、業界全体へ広げようとしている。

