福祉の隙間埋める新たな家族支援 受給者証不要、訪問サービス開始

 文部科学省の調査で、不登校の児童生徒数が過去最多を更新し続ける中、家庭内で抱える悩みに寄り添う新たな支援サービスが注目されている。既存の福祉制度だけでは対応しきれない日常の困り事に特化したもので、大阪市城東区を拠点とする「しずくそう」が展開する「訪問型療育わがやのさぽーと」だ。

 同サービスは、公的な障害福祉サービスの枠組みにあえてとらわれず、完全自費型の支援として提供しているのが特徴。制度上の制約を受けにくい形にすることで、利用者の家庭ごとに異なる悩みや要望に柔軟に対応し、多くの家庭が求めてきた〝あったらいいな〟を形にしている。

「通所」のハードルを取り払う訪問型サービス

 障がいのある子どもや家族への既存の公的支援は、施設への通所を前提としたものが多い。一方で、不登校や行き渋り、強いかんしゃくなどを抱える子どもにとっては、外出そのものが大きな負担となるケースもある。家庭の中で困り事が起きていても、支援の場までたどり着けず、保護者だけで対応を抱え込まざるを得ない状況も少なくない。

 「訪問型療育わがやのさぽーと」は、こうした家庭の困り事に直接寄り添うサービスだ。公認心理師や社会福祉士といった有資格者、現場歴10年以上のベテランを中心とした専門家チームが家庭を訪問し、子どもと家族の状況に応じた支援を行う。

 専門家や支援者が家庭を訪問することで、生活の場に即した実効性のある関わり方を見つけやすくなる。施設など外部の場では落ち着いて過ごせても、家庭では課題が表面化することは珍しくない。専門家が実際の生活環境を見ることで、環境要因や家族の言葉がけを客観的に分析し、その場で具体的な環境調整や実践を共に行うことができる。

 もう一つの利点は、家庭の負担軽減につながることだ。外出が難しい子どもを無理に連れ出す葛藤や、送迎に伴う保護者の時間的・精神的な負担を減らすことができる。同サービスは夜間や土・日曜、祝日にも対応可能で、共働き世帯でも利用しやすい設計となっている。

 同社代表で、社会福祉士をはじめ複数の専門資格を持つ下元啓大氏は「福祉の制度に家族を合わせるのではなく、目の前の家族の困り事に支援を合わせたい。だからこそ、あえて枠組みのない自費訪問にこだわった」と話す。自宅のある寝屋川市では子育て応援リーダー、ファミリー・サポート・センター提供会員も務める。下元氏自身、中学時代に登校を辛抱し続けた経験があり、10年以上にわたる福祉現場でのキャリアと重なる言葉には、現場の切実な声がにじむ。

パンフレットを手に「訪問型療育わがやのさぽーと」を紹介する、しずくそう代表の下元啓大氏=大阪市城東区で

家族全員を救う「きょうだい児支援」と親のためのコーチング

 同サービスが他の療育サービスと大きく異なるのは、支援の対象を子ども本人だけに限らず、家族全体に広げている点だ。
 特に、障がいのある子どもや不登校の子どもがいる家庭では、兄弟姉妹への配慮が後回しになりがちだ。こうした「きょうだい児支援」は、多くの保護者が潜在的に必要としているとされる。支援者が本人と関わっている間に、保護者が兄弟姉妹と2人きりでゆっくり向き合う時間を確保する。あるいは、家族全員が笑顔になれる関わり方を提案する。そうした支援を通じて、家庭内の関係性を良好にするきっかけをつくる。

 保護者向けのコンサルティングも充実している。日常生活の中で起きる「困った」に対し、その場で解決に向けた助言やコーチングを受けることができる。

 運営面では、自費による訪問型の家庭支援に加え、公的な福祉サービスとして障害児相談支援や計画相談支援を行う事業所「うちのこと相談センター」を併設している。制度に基づく支援と、制度の枠に収まりにくい家庭支援を組み合わせたハイブリッド型の運営となっている。

診断や「受給者証」を必要としない利用しやすさ

 通常、就学前の子どもを対象とする児童発達支援や、18歳まで利用できる放課後等デイサービスなどの公的な療育支援サービスを利用するには、医師の診断や自治体が発行する受給者証、利用計画書の提出が必要となる。一方で、障がい児支援の現場では、計画を作成する専門の相談支援事業所が不足している点も見逃せない。

 厚生労働省の公式発表によると、2024年3月末時点で、障害児相談における全国のセルフプラン率は30・7%に達している。セルフプランとは、専門家に依頼できず、保護者自らが利用計画書を作成することを指す。成人の約2倍に上るいびつな実態だ。大阪府は約52%、大阪市は47・9%と全国的にも突出して高く、2人に1人の保護者がセルフプランを作成している状況にある。

 相談窓口につながる段階で数カ月の待機が発生し、書類手続きの煩雑さに力尽きてしまう保護者も少なくない。さらに、診断がつく前の「グレーゾーン」の子どもや、診断を受けることに抵抗がある家庭にとっては、公的サービスの利用を申し込むこと自体が高いハードルとなっている。

 同社が提供する「わがやのさぽーと」は、障害児通所受給者証の有無を問わない。民間独自の自費サービスであるため、子育てのしにくさを感じている人であれば利用できる受け皿となる。福祉サービスを一切利用していない世帯であっても、専門家による支援に速やかにアクセスできることは、孤立しがちな家庭にとって大きなメリットといえそうだ。

経済的格差を生まないための「社会的責任」

 自費サービスと聞くと、「高額で一部の人しか利用できない」というイメージを持つ人もいるかもしれない。同サービスでは、不登校やひきこもりを経験しながら、福祉現場で10年以上のキャリアを重ねてきた下元氏の経済感覚も反映し、利用しやすさに配慮した料金設定としている。
 加えて、相談支援専門員としての情報収集力を生かし、利用できる助成制度なども積極的に案内している。大阪府の子育て支援事業で、子育て応援パスポートとして知られる「まいど子でもカード」を提示すると、初回アセスメント料を半額にする仕組みも設けた。

 生活保護世帯や困窮世帯でも「まずは使ってみよう」と思えるよう、世帯収入に応じた世帯所得配慮割引のほか、きょうだい児割引、併用割引などを用意。家庭の状況に合わせた負担軽減を図っている。
 「所得によって支援の質に差をつけない」という姿勢は、単なる民間サービスの枠を超え、地域社会に必要とされる新しい公共の担い手としての期待を抱かせる。

学校以外の「居場所」は家庭から

 「社会の中でしっかり生きていってほしい」。そんな保護者の願いに応えるため、同サービスは家庭内の支援を出発点に、不登校支援、自立に向けたサポートへと段階的につなげていく。支援のはじめに据えるのは、子ども本人だけでなく家庭全体だ。

 既存の枠組みでは捉えきれなかった家庭の〝静かな悲鳴〟に向き合い、制度の隙間を埋める〝あったらいいな〟を形にした「わがやのさぽーと」。家庭を孤立から救う新たな地域インフラとして、その一歩は多くの親子にとって希望となりそうだ。(濱田康二郎)

<取材協力>
訪問型療育 わがやのさぽーと 問い合わせは06(7632)7437へ
相談支援 うちのこと相談センター 問い合わせは06(7632)7438へ
住所/大阪市城東区中央3-7-18-117
https://pcs-shizukuso.com

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