全国で増加する放置林を有効活用しようと、山林を貸したい所有者と静かな場所を求めるキャンパーをつなぐマッチングサービスが注目されている。林業衰退と所有者の高齢化が進む中、利用料の一部を森林整備に充てる仕組みも取り入れ、放置林問題の解決に向けた一手となりそうだ。

利用料を所有者に還元 荒廃防ぐ整備費に
昨今、森林所有者の高齢化や相続による世代交代により、放置された山林が災害リスクとして顕在化している。一方、山林に、新たな人の流れを生むサービスが登場した。山林の貸し手と借り手をつなぐマッチングサイトだ。きっかけは、コロナ禍で騒々しくなったキャンプ場の光景だった。(加藤有里子)
「これまで静かだったキャンプ場が、コロナによるブームで騒がしくなった。このため、未活用の山林を貸したい人と借りたい人をつなぐマッチングサービスを思い付いた」
こう話すのは、大阪市浪速区のITスタートアップ「メディコム」の木村正晴社長だ。
同社が運営する「YAMAKAS(ヤマカス)」は、放置林をキャンプ用地として活用するサービス。ソロキャンパーに限定して募集し、利用期間は最短1カ月からとしている。登録ユーザーは現在、約3000人で、その9割が40歳以上の男性だ。たき火をしたり小屋をDIYしたりして「自分時間」楽しむケースが多いという。
ヤマカスには現在、北海道から九州まで約50カ所の山林が登録されている。近畿エリアでは奈良、兵庫、滋賀などの山林や原野が中心で、大阪府内では三島郡の釣り堀付近の山林も登録されている。レンタル料は1カ月1万2100円から。
サービス開始当初は、所有者を一軒ずつ探し出し、交渉して掲載にこぎつけるという地道な作業を繰り返していた。「山林に『募集中』の看板があるわけでもなく、どこが私有地かも分からない。所有者や林業自治体と話す中で、放置されている実態を知った」と木村社長は振り返る。
近畿全体よりも広い放置林
全国で放置林が増えている背景は、林業そのものの衰退という構造的な問題がある。日本では1960年代の木材全面自由化によって国産材の価格が急落。林業は採算が合わなくなった。この頃から山の手入れがされなくなり、倒木や土砂災害のリスクが各地で問題となっている。
林野庁によると、国内の森林は2505万㌶ある。このうち、2023年度時点で私有林は657万㌶。適切な管理が行われていない、いわゆる放置林は389万㌶と約6割を占めている。これは近畿地方全体よりも広い。
国は複数の森林所有者の森林をまとめ、一括して種まきから植樹、伐採などの施業(しぎょう)を行うため、12年度から森林経営計画制度を導入した。
しかし、所有者の高齢化や相続による世代交代、不在村化などで境界の特定すら難しい事例が増えている。
こうした状況に対し、木村社長は「所有者が得た使用料の一部を整備費に充てる。そんな循環を生み出す仕組みの一つとして、当サイトを放置林対策に活用してもらいたい」と語る。
