【脱構築】 目の前の鉄板で職人が焼く、贅沢な「個食」

 コロナ禍の飛沫防止策として広まった「個食」スタイル。カウンターに一席ずつ間仕切りを設ける店も増えたが、複数人で食事を楽しむにはコミュニケーションを取りづらいため、現在は撤廃する店が多い。そんな中、独自の狙いや着想により、一席ずつの間仕切りで食事を提供する店がある。神戸の行列必至店「ハンバーグと牛タンとお米 神戸赤ふじ」。今年大阪市中央区に新店舗を構えた。(西村由紀子)

赤ふじ名物「ハンバーグ」。目の前の鉄板で職人が焼いてくれる特別な体験が話題を呼んでいる

五感に響く新感覚ハンバーグ

 店名の由来である「赤富士」とは日本一高い山・富士山が晩夏の早朝に赤く染まって見えることで、すこぶる縁起がいいと言われている。看板メニューであるハンバーグもこの赤富士にちなみ、つなぎなし・黒毛和牛100%のハンバーグのてっぺんに牛脂で雪化粧した一品。店名に負けぬよう、日本一おいしいハンバーグを目指し、和食の技法を駆使して職人が仕上げる。客の目の前で焼き上げ、香ばしい匂いや湯気、肉や牛脂が鉄板で爆ぜる音も相まって、五感をフルに使って食事を楽しむことができると話題を呼んでいる。
 この「五感に訴える演出」について、運営する「くり松」の齋藤隼之介代表取締役は「起業した9年前はVRが世に出始めた頃。この先訪れるAIの時代はどの業界も従来通りでは生き残れないと感じ、廃れにくい三大欲求に訴える業態を選んだ。時代を先読みしたとき、飲食にも顧客の『五感』を揺さぶる演出が必要不可欠になると感じた」と語る。目の前の鉄板を挟んで職人が立ち、好みの焼き加減などをヒアリングしながら調理を進める丁寧な接客も客の心を打つ。ただのパフォーマンス、演出ではなく、客と職人が共に食と向き合う時間がおいしさへの感動に拍車をかけていく。
 さらに齊藤氏はこうも語る。「ハンバーグは家庭料理の定番だが、共働き家庭の増加で加工食品が中心。家庭の味を知らない人も多い。おまけに一人で動画を見ながら食事をとる『個食』が当たり前で、自分が何を食べているのか、味わう経験に乏しい人が多い。ハンバーグの材料すら知らない若者もいて驚くこともある。当店では、焼き上げる時間も含めて五感をフル稼働してじっくりと味わってほしい」。
 たかがハンバーグ、されどハンバーグ。良質な素材を用いること以上に大切な願いが込められていると感じた。

「赤ふじ」を運営するくり松 代表取締役 齋藤隼之介さん

■取材協力/ハンバーグと牛タンとお米 神戸赤ふじ 中座くいだおれビル店 
      大阪市中央区道頓堀1-7-21 中座くいだおれビル 3階