12日にサプライズとなった米中関税の90日間引き下げの延長合意などで一旦は落ち着いたかと思いきや、20日頃から米代表指数など株価の上値が重くなっている。理由は、前回の本紙4月26日号でも触れた米国の長期金利の上昇が原因だ。株式市場の話題は、相互関税から長期金利、つまり財政懸念へと移り変わろうとしている。
長期金利上昇の要因は、米国の財政リスクだ。今年、米国の政府債務は36兆ドルに達し、そのうち9・2兆ドルが年内に借り換えを迎える。市場ではいよいよ警戒感が強まっており、長期債の売り圧力が高まっている。しかも、金利の上昇により、米政府の年間利払い負担は1兆ドルを超える見通しだ。実は毎年、米国債のデフォルト(債務不履行)が話題になるが、政府は借り入れることができる債務の上限を引き上げるなど、いわばプロレス状態の恒例行事だった。しかし、今年はこれまでとは比較にならない額が満期(前述の9・2兆ドル)を迎える。
さらに、FRB(米連邦準備制度)はトランプ関税の不透明さからインフレ再燃を懸念し、昨年12月から利下げをストップしている。加えて今月16日に、世界格付け会社ムーディーズが米国債の格付けを1段階引き下げ(最上位の「Aaa」→「Aa1」)した理由も財政リスクだ。つまり、トランプ米大統領は、国内で減税を進める一方、その代わりに国外に高い関税政策を行うことでバランスを取ろうとしているのではないか。今回の格下げは関税収入の財源化が見込みにくくなったためと推察している。
こうした動きは日本にも波及。20日、日本の20~40年国債利回り(=金利)はいずれも史上最高を記録。夏の参院選を控えての減税論が活発化する中での財政拡張懸念もあり、市場は日米の財政リスクを意識し始めている。
長期金利の上昇は、株式市場や実体経済に暗い影を落とす。金利上昇による株価下落だけでなく、企業の借入コスト増や住宅ローン金利の上昇を通じて、企業業績や消費活動の鈍化が危惧される。これらの先行き不透明さが株価に影響を与えている。
米国も日本も、国債価格の下落(=利回り上昇)は、発行国の信用力への評価そのものだ。金融市場が財政の健全性に疑義を抱けば、より高い金利を要求し、債券価格は下がる。この負のスパイラルは、経済大国であっても例外ではない。〝金利の警鐘〟は、単なる市場の揺らぎではなく、財政の信任という土台の揺らぎを映している。ベッセント米財務長官は、長期金利に目を光らせている。日米ともに今夏は、債券利回り10年以上の長期金利の動向を注意しておいた方がよさそうだ。