大阪の未来を形作る日本初のプロジェクト、統合型リゾート(IR)が、夢洲を舞台に動き始めている。「IRは単なるカジノ施設ではなく、大阪の経済・観光・都市のあり方を根本から変えるプロジェクトだ」と語るのは、誘致を主導してきた大阪観光局の溝畑宏理事長。大阪府市のIR推進会議の座長を務める同氏に、大阪IRの持つ可能性と、大阪が目指すべき未来について話を聞いた。

1960年京都府生まれ。東京大学法学部を卒業後、総務省に入省(当時の自治省)。大分県に出向し、サッカーW杯日韓大会の試合誘致に尽力。Jリーグ・大分トリニータの社長にも就任した。10年には観光庁長官に就任。東日本大震災後の観光で「自粛の自粛」を訴え、海外に復興情報を発信し、訪日需要の回復を目指した。15年から大阪観光局理事長として観光政策の舵取りを担っている。大阪・関西万博をPRする「ミャクひろし」としても活躍中。
シンガポールをアップデートしたIR
─そもそも、大阪にIRが必要な理由とは?
私が初めて本格的なIRを見たのは2009年。シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズだった。それまでカジノには全く興味がなかったが、目の前に広がる光景を見て「これは都市開発の新しい形だ」と確信した。
マリーナ・ベイ・サンズの周辺には、高級ホテルやショッピングモール、劇場、ミュージアム、オフィスビル、国際会議場、国際展示場が集積し、一つの都市のようになっている。かつては未開発の土地だったエリアが、IRを起点に劇的な変貌を遂げ、世界中の観光客やビジネスマンを引きつける場所となった。しかも、これを税金を使わず、民間資本のみで実現したことが大きなポイントだ。
大阪のベイエリアにも同じ可能性がある。夢洲、咲洲、舞洲にはまだ開発の余地があり、生かしきれていないポテンシャルがある。IRは単に観光客を呼び込むためのものではなく、大阪全体の都市機能をアップデートする装置となる。
─大阪IRの具体的なスケールは?
敷地は約49万平方㍍、東京ドーム約10個分に相当する。この広大なエリアに世界最高水準のホテル、国際会議場、国際展示場、ショッピングモール、レストラン、劇場、最先端のエンターテインメント施設が集結する。昼夜を問わず楽しめる娯楽が目白押しで、観光客だけでなく、地元・大阪の人々の「お出かけスポット」としても利用できる施設となる。「最先端の巨大なテーマパークが新たに誕生する」と言えば分かりやすいだろうか。
特に国際会議場・国際展示場(MICE施設)とエンターテインメント施設には力を入れている。大阪はもともと「観光都市」というより「商業・ビジネスの街」という側面が強い。だからこそ、IRには世界中の企業や研究者が集まる会議の場を作り、エンターテインメントと融合させることで、単なる観光地とは異なる価値を生み出せると考えている。
─開業による経済効果は?
大阪IRが生み出す年間の経済効果は1兆1400億円と試算されている。これは観光業にとどまらず、飲食、物流、建設、ITなど、多くの産業に波及する影響を持つ。また、新たに約9万3000人の雇用が創出されることが見込まれており、大阪だけでなく日本全体にとっても大きなメリットがある。
さらに、大阪IRを核としながら、関西3空港の機能強化やスーパーヨットをはじめとするクルーズ船誘致による国内外からの受け入れ強化を進め、大阪の国際競争力を高めていく。これにより、IRは単なる陸路の観光施設にとどまらず、空路・海路を活用した「世界の富裕層を引きつけるハブ」としての機能も果たすことになる。
訪日外国人がIRを目的に大阪に来て、そこから京都や奈良、神戸へと足を延ばす。この流れを作ることで、関西全域を活性化させることが可能になる。大阪IRの成功は大阪にとどまらず、日本全体の観光・都市開発モデルの変革にもつながるのだ。

メリットを最大化し、都市開発に活用
─カジノの影響を懸念する声もあるが、どのような対策を?
確かに日本では「IR=カジノ」というイメージが強いが、実際にカジノが占める面積は全体のわずか3%以内に過ぎない。また、適切な国の監視・管理の下で運営される。その一方、カジノはIR全体の収益源として重要な役割を担う。
シンガポールのIRでは、カジノの収益を活用し、国際会議場やエンタメ施設の建設、都市インフラの整備を進めた。大阪IRでもカジノの収益をもとに、都市機能の拡充や観光・ビジネス環境の向上を図る計画だ。
治安の悪化や依存症の懸念もあるが、IRを推進する上で重要なのは、「デメリットを最小化し、メリットを最大化する」ことだ。シンガポールでは、地元住民のカジノ利用を制限し、入場料や回数制限を導入することで、依存症の増加を防ぎつつ経済効果を維持している。また、監視カメラの設置や警察との連携を強め、むしろ周辺の治安が向上したというデータもある。大阪でも同様の対策を徹底する予定だ。
─シンガポール同様、大阪IRにも海外の富裕層が集まりそうだ。
その通り。世界の富裕層の受け皿にもなる。海外の富裕層はプライベートジェットで移動し、滞在中に数千万~数億円を消費することも珍しくない。例えば、ファストフード店で「子どもが食べたいと言ったから」と100万円分の商品を買い占めるような光景も実際にある。
しかし現状、日本には彼らが十分にお金を使える場が少ない。IRは高級ホテル、ショッピングモール、エンタメ施設を備え、彼らが十分に気持ちよく消費できる環境を整える拠点となる。

アジアナンバーワンの国際観光文化都市に
─最後に、読者へメッセージを。
私たちが目指すのは、大阪をアジアナンバーワンの国際観光文化都市にすることだ。IRはゴールではなく、大阪を国際観光文化都市へと飛躍させるための重要な起爆剤。
大阪の競争相手は東京ではなく、パリやロンドン、ニューヨークといった世界の主要都市だ。世界の人々が「次に行きたい都市は大阪だ」と思うような魅力を生み出し、大阪のポテンシャルを最大限に引き出していきたい。大阪、ひいては日本の未来に期待してほしい。
大阪IRがもたらす経済効果
開業時期:2030年秋頃
初期投資額:約1兆2700億円
年間来訪者数:約2000万人
建設時の経済波及効果:約1兆9100億円
運営時の経済波及効果(年間):約1兆1400億円
大阪府・市への納付金など(年間):約1060億円
※大阪府・市の資料をもとに作成