【グローバル・ブリッジ・トレーディング ・曽我浩行社長】日本のマリン業界盛り上げるユーチューバー 成功するには周囲を〝循環〟させる

 家電やサプリメントなど数社の経営に携わる一方、マリン業界で日本一有名なYouTubeチャンネル「釣りバカ社長のGROOVY FISHING CHANNEL」を運営するグローバル・ブリッジ・トレーディングの曽我浩行社長。自身も2隻のクルーザーを所有し、現在は日本のマリン業界を盛り上げることを人生の意義と捉え、マリーナの開発や海の安全確保の活動に、精力的に取り組んでいる。日本のマリン業界はどんな課題を抱えているのか。曽我社長に阪本晋治が迫る。(佛崎一成)

「日本のマリン業界を盛り上げたい」と話す曽我社長

 ─〝電光石火の行動力〟で、さまざまな事業で成功を収めている。なかでも「釣りバカ社長─」のユーチューブ動画は、マリン業界で一番有名なコンテンツだ。曽我社長のライフワークでもある海の事業について詳しく聞かせてほしい。

 私自身、マリン事業はビジネスよりも社会貢献活動だと思っている。収益性は一切求めておらず、あくまで業界を盛り上げたいのが目的だ。これまでビジネスを通じて、いろんな勉強をさせてもらった。そのノウハウを生かしながら、好きなライフスタイルでもあるマリン業界の課題を解決していくことに、やりがいや意義を感じている。

 ─チャンネルでは例えば、6億円のラグジュアリーヨットを紹介したり、各地のマリーナを紹介したりしている。

 マリン業界を身近に感じてもらうには、まずは多くの人に視聴してもらうことが重要だ。だから、ある程度は尖った動画にしなければ見てもらえない。動画への興味を通じて、業界で活動する人々のことを人柄も含めて知ってほしいから。

 ─よく〝企業案件〟と呼ばれるお金をもらいながら、商品を紹介する動画もあるが。

 僕の場合は、船の宣伝は目的がずれるから一切しない。それに忖度は自分の性にも合わないので…。相手から取材の交通費を「出す」と言われることがあるが断っており、すべて〝自腹〟です(笑)。そこだけは徹底している。

 ─視聴者の反応は。

 各地に出向くと「いつも見てます」と声を掛けられるようになったし、「こういう保険があるんですね」「リースで船を買えるんだ」などのコメントもいただく。こうした反応から、マリン業界への敷居が低くなった手応えを感じている。

 ─そもそもなぜ、海の事業だけ収益性を求めず取り組もうと思ったのか。子どものころから海が好きだったのか。

 そうだ。10代のころから船が大好きで、営業職をしていたころは、昼時になると車で港に赴き、船を眺めながら弁当を食べるのが楽しみだった。その頃から「いつか自分の船を持ちたい」と思っていた。その夢は25年後にかない、現在は2隻のクルーザーを所有している。

 ─動画配信以外の活動もされているようだが。

 海の安全を啓蒙するため、海上保安庁や水上警察などと協力し、各地でマリンイベントを開いている。
 実は日本では水難事故が結構起きている。確かに、船を操縦するには船舶免許が必要になるし、各海域にはルールが備えられ、安全を確保する取り組みは行われている。だが、マナー違反が目立つのも事実だ。

 記憶に新しい北海道知床の観光船沈没事故(2022年)。そして大阪湾やびわ湖などでの水上バイクの衝突死亡事故…。こうした事故が起こる度に、規制ばかりが強化されていく。

 一方で、海難事故に一番活躍するのは水上バイクやライフセーバーであるのも現実だ。だが、マナー違反による事故の印象が強いから、安全面で活躍するイメージはまだまだ薄く、啓蒙が必要だ。

 こうした課題を解決するために現在、海の安全についての勉強会や報告会を行うグルーバーズというコミュニティーをつくり、90人の仲間と全国規模で活動している。オレンジ色のセーフティーフラッグを船に掲げ、海の安全を啓蒙していく仲間達だ。年内には500人規模に増やす計画だ。

 ─なるほど。水難事故の度にルールが厳格化される中、マナーなどの啓蒙を通じて海を楽しめるように活動されているということか。訪日外国人客に日本を楽しんでもらうためにも大事な取り組みと思う。ほかにも、マリーナの開発に取り組まれているが目的は。

 例えば、沖縄・宮古島などは海水浴場にできる美しい海がありながら、ライフセイバーの不足を理由に、遊泳禁止になっている海が多々ある。このため、ライフセイバーを職業として成り立たせられるように取り組んでいる。

 単にマリーナを作る、海水浴場を作る、海辺にレストランを作るという視点だけではうまくいかない。すべてが好循環する仕組みを整えて、海を安全に楽しめる場所にしていかなければならない。

 ─美しい海があっても若者が田舎から出て行き、全国の地域で過疎化が進んでいる。曽我社長の取り組みは、地方で若者の働ける場所を作り、外から人を呼び寄せられるので、地方創生にも繋がりそうだ。ところで、マリン市場は現在、どのような状況か。

 コロナ禍に船舶免許を取得する人は大きく増えたが、問題は日本には船を停泊させる場所があまりないことだ。

 水産庁の調べによると、全国には放置艇が約5万6000隻(2022年)もある。放置艇とは、ちゃんと管理された場所に停められていない、いわゆる放置されている船の数だ。プレジャーボート全体では、約4割という膨大な数に上っている。マリーナの開発はこうした放置艇の行き場を用意することにもつながる。

 加えて今は船の値段も高い。数年前に500万円だった船が、現在は800万〜1000万円に高騰している状況だ。放置されている中古艇を安全に乗れる状態に整備し、安く提供できる仕組みも整えている最中だ。

 ─今後、官民一体で取り組むべき課題となりそうだ。

 最初に戻るが、こうした活動を多くの人に知ってもらうためにユーチューブを活用している。

 ─曽我社長はビジネスでもそうだが、全体を捉えて課題を解決しているように思う。その心の軸は何か。

 僕は〝循環〟を大切にしている。世の中に〝三方よし〟の言葉があるが、現実はそうなっていないケースは多い。自分を循環させようと思えば、周りの人を循環させないといけない。さらに、その周りの人もちゃんと循環しているかどうかも見極めなければならない。それらがすべて循環していることが確かめられて初めて、自分が循環していると感じられる。

 人体で例えれば、さらにわかりやすい。口から食べたものは消化され、吸収された後に排泄されることから、もし排泄が悪ければ、原因は食事かもしれないし、吸収が悪いのかもしれない。つまり、排泄だけをピンポイントに見ていても原因にはたどり着かないということだ。事業も人々の考えも、世の中すべてのことがこのメカニズムでできていると思っている。

 ─曽我社長は思ったことをすぐに実践する行動力がすごい。

 人を助けるのであれば心底助ける。どこかに行く時は自分が最高の状態でいけるように準備しておく。誰かから相談が来たら、きちんと相談に乗ってあげられる状態に常にしておく。それがやりがいでもあり、自分の生き方でもある。

 ─一流の情報を得ることも大切にされている。

 その通りだ。自分が常に、一流の情報にアクセスできるようにすることはビジネスにおいても大切なことだ。例えば、世の中にはコンサルタントを名乗る人はたくさんいるが、最前線で現場を熟知したコンサルタントがいる半面、机上の空論のみでアドバイスをしているコンサルタントもいる。同じ相談をしても情報の質の違いは明らかだ。

 僕は基本的に、自分が経験したことのないことをアドバイスするのは一流ではないと考えている。加えて、一つのビジネスの狭い視野だけで物事を考えている人と、社会の循環を考えながらやっている人とでは、視座も異なる。

 ─先日、これまでの経験を本にまとめ、出版された。

 ビジネスにおける僕の考えだが、世の中は結局、売る人と買う人で成り立ち、その状況にどうアプローチするか、一つの考え方として書かせてもらった。

 僕が得たノウハウを集約し、わかりやすく伝えているつもりなので、機会があればご覧いただきたい。

曽我社長(左)と阪本晋治

プロフィル 家電やサプリメントなど数社の経営に携わる一方、ビジネスコミュニティー「TSUNAGU」を主宰し、若手経営者の支援にも注力。(一社)日本予防医学マイスター協会の理事も務める。夢だったクルーザーも購入し、「釣りバカ社長のGROOVY FISHING CHANNEL」でユーチューバーとしても活躍。日本のマリン業界の課題解決にも取り組んでいる。

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