「すぐそばにいる安心を」 地域に寄り添う医師の覚悟 大石クリニック 院長 大石 賢玄さん

 父も祖父も医師だった――そんな〝家系の自然な流れ〟の中で医学の道を歩んできた大石クリニックの大石賢玄院長。「手術の名手」だった大石院長だが、目指すのは「手術をしなくていい未来」をつくることだった。患者と向き合い、話す時間を何よりも大切にする。医師であり、一人の人間として、目の前の命とどう向き合うか―。阪本晋治が迫った。

〝がん早期発見〟のため、「痛くない内視鏡」で検査の壁なくす

手術の名手の大石院長が目指すのは「手術をしなくていい未来」をつくること
手術の名手の大石院長が目指すのは「手術をしなくていい未来」をつくること

 ─医師の道を志ざすに至ったきっかけは。

 父が泌尿器科の医師で、祖父も診療所を開いていたんです。幼い頃から、家の中に医療の空気が当たり前にありました。

 ─〝お医者さん一家〟というわけか。

 だから自然と「自分も医者になるんだろう」と思っていました。八百屋の息子が八百屋を継ぐ感覚と同じで、特別な意志があって選んだというより、気づけばその道に立っていました。

 ─医学部を卒業し、実際に医師になってから、どんな道を進むことに決めたのか。

 正直、医師になりたての頃は明確なビジョンはありませんでしたが、外科手術を経験する中で、「早く見つけてさえいれば」と感じる場面に何度も遭遇しました。
 外科学の進歩は留まることを知らず、負担の少ない手術方法が次々と開発されていきました。しかし、どれだけ手術の腕を磨こうと救えない命があります。加えて、大きな手術では、どうしても術後に臓器の機能を完全には維持できなくなるんです。

 ─具体的には。

 たとえば直腸がんです。肛門近くにがんができ、手術で患部を切除してしまうと、術後に排便障害や生活の質が低下するなど、患者の人生に深く影響を与えてしまいます。
 このため、切除範囲をなるべく小さくし、なるべく機能の温存を目指すのですが、どこまで技術を突き詰めてもやはり限界があります。
 結局はもっと早く、がんを小さな段階で発見し、手を打つことが大事なんです。だから「早期発見・早期治療」に自分の医師としての価値を見出すようになったんです。

 ─だからこそ、内視鏡などの早期検査に力を入れているのか。

 はい。大腸がんはほとんどが大腸のポリープから始まります。ポリープのうちに発見し、内視鏡で切除すれば日帰り手術で治すことができます。しかし、大きな手術になってしまうと、少なくとも1週間の入院が必要です。術後の体力回復に数カ月を要することも少なくありません。

 ─患者だけでなく、医師の負担も大きい。

 その通りです。大きな大腸がんは手術に数時間を要します。私のような外科医3、4人が一つのチームで手術を行うのですが、その一人一人が毎日厳しいトレーニングを重ねてきた医師。つまり、その貴重な医療資源を一人の患者に注ぎ込む現状なわけです。
 こうした日々を送る中で、私は「難易度の高い手術を長時間かけて行うより、安全な治療を数多く提供することが大事なのではないか」と思いはじめました。「医師という貴重な医療資源を検査に振り向けられたら、もっと多くの患者を救える」と考えるようになったんです。

 ─開業の背景には、そんな思いもあったのか。

 検査でがんを早期発見できれば小さな手術で済みます。つまり、身体機能を損なわず、安全な治療を数多く提供でき、より多くの人が幸せに暮らす社会を実現する近道になります。
 だから、適切な時期に必要な検査を受けてもらえる仕組みづくりに力を注いでいます。

 ─確かに、日常的に検査を受ける習慣が広がれば、より多くの人が救われる。ただ、日本は先進国の中でも健康診断の受診率が低いと聞く。

 おっしゃる通りです。受診率を高めるためにも、検査を受けやすく、通いやすいクリニックにすることが大切だと考えています。

 ─具体的にどう取り組んでいるのか。

 例えば、大腸カメラ検査の場合、カメラが腸内を通過する際の膨張感や圧迫感から、痛みを生じることがあります。それを経験をした患者さんは〝検査が怖い〟と敬遠しがちになってしまう。だから、私は痛みを生じさせないように、腸に空気を入れすぎない、腸をたわませないなどの細かな挿入技術を使い、患者さんに負担がないようにしています。痛くない、怖くない内視鏡。それが、病気を防ぐ第一歩に繋がるんです。

 ─先生は、患者と向き合う時間を「削らない」ことを大切にしている。

 私が一番恐れるのは「あの時、もっとちゃんと聞いていればよかった」と後悔してしまうことです。患者さんの不安や疑問、ご家族の事情や生活背景など全部ひっくるめて〝命に関わる選択〟を医師として一緒に考える。そのためにも、言葉を交わす時間は何より大切です。
 話を聞くことで、「実はこんなことが気になっていて」とポロッとこぼしてくれることがあります。それが病気の手がかりになることもあれば、患者さん自身の納得や安心にもつながります。

 ─実際に、先生は患者と時間をかけて向き合っているが、待合患者からは「待たされる感覚がない」と聞く。

 私は医師にしかできない部分に集中するため、システムや院内オペレーションを毎日改善しています。
 サインをするペンの置き場所を変えるだけでもムダな動きがなくなり、時間を生み出すことができます。患者さんのカバンを置くカゴも、動かないように設置すれば、カバンが引っかかって倒れたカゴを直す手間もありません。
 そんな小さな積み重ねがより良い地域医療の礎になると信じています。

 ─患者への「がんの告知」は、どのように。

 言葉の選び方には気をつけますが、良いことも悪いことも、すべて正直に伝えるようにしています。知らせないのは、患者さんから治療の選択肢を奪うことと同じで、医師として非常に傲慢だと感じるからです。
 最終的に治療法を決めるのは患者さん自身です。医師は命の責任まで負えない。後悔のない選択をしてもらえるよう、医師として知りうるすべての情報や選択肢をお伝えします。後は患者さんが納得できるように、そっと背中を押してあげる。

 ─先生が今のようなスタンスを築く上で、影響を受けた人はいるか。

 外科医として駆け出しの頃、手術の現場で私に自由にやらせてくれた2人の恩師の存在が大きいですね。
 医師として5年目の頃、10時間ほどかかった難しい手術を任せてもらったことがあります。先生方は執刀する私の手元をじっと見守るだけで、あえて口を出さず、間違っているときだけ軌道修正してくれました。この体験が自分自身の「背骨」をつくってくれたし、ただ見守ることがどれだけすごいことなのかが、後から分かりました。
 この経験から私も〝見守る覚悟〟を持った医師でありたいと思います。

大石院長(左)と阪本晋治
大石院長(左)と阪本晋治

 ─奥様も医師で、クリニックでは循環器内科の担当をされている。患者から「最強の病院」とも評されている。

 専門領域が違うのでカバーし合える強みもありますが、それ以上に、お互いに「信頼して任せられる」ことが大きいです。例えば、患者さんの心電図に違和感があれば、すぐに妻に相談できる。逆に、循環器の患者に乳腺の不安が出てくれば、私が引き受けられます。
 連携は速いし、何より診療の「すき間」が生まれません。患者さんにとっては、それが一番安心だと思います。

 ─AI(人工知能)や医療技術の進歩について、どう捉えているか。

 AIが医師の仕事を代替する時代はもう間近だと感じます。今、私のやっていることの多くはAIがもっと的確にやれるようになるはずです。
 しかし、最終的に「この選択でよかった」と思えるかどうかは、数字やデータからではなく、人間としての対話から生まれます。つまり、医療は〝人と人〟。どれだけ時代が進もうと、そこは変わらないのではないでしょうか。

 ─先生のような医師が地域にいると、住民の安心感にもつながる。

 ありがとうございます。私が目指しているのは〝すぐそばにいる医者〟であることです。何かあったとき、「あそこに行けば大丈夫」と思える場所があるだけで、人はずいぶん安心できるものです。
 妻も専門が違うからこそ、私にできないことを補ってくれています。それがこの院を〝地域の拠り所〟にしてくれているのかもしれません。
 高度な医療機器のある大病院ではありません。ですが、近くに「相談できる医師がいる」ことで、地域の方々の安心につながれば、これほどうれしいことはありません。

大石賢玄(まさはる)さんプロフィル

 2003年に関西医科大を卒業後、同大附属病院などで一般外科、消化器外科、乳腺外科を中心に経験を積む。かぜ、インフルエンザから高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病をはじめとした一般内科はもちろん、消化器疾患(胃炎、潰瘍、胃がん、大腸がんなど)、乳腺疾患(乳腺症、乳がんなど)など専門的な医療を提供。
 妻が循環器専門医のため、狭心症、心筋梗塞、弁膜症、心不全、不整脈などの治療もでき、夫婦二人三脚で地域のかかりつけ医として信頼されている。

大石クリニック
箕面市船場西3-6-32 箕面船場クリニックビル302号室
TEL.072(728)0018