枚方信用金庫 吉野敬昌理事長インタビュー「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞受賞の裏側

　地域貢献と企業文化の向上を掲げ、独自の経営を進める枚方信用金庫。今回、「第15回日本でいちばん大切にしたい会社大賞」（主催：人を大切にする経営学会、会長：坂本光司）の経済産業大臣賞を受賞した背景には、吉野理事長の熱い想いと行動力があった。

─受賞のきっかけは？

吉野理事長　15年ほど前に「人を大切にする経営学会」の坂本会長の著書『日本でいちばん大切にしたい会社』を読んだことがきっかけ。本に登場する企業の姿勢に感銘を受け、「本当にこんな会社があるのか」と確かめるため、実際に訪問した。

─具体的にはどのような企業を訪問したのか？

吉野理事長　最初に訪れたのが長野県にある寒天製造の伊那食品工業でした。始業時間30分前に社員が自主的に会社周辺の清掃を行い、週末には家族を連れて掃除に来る姿勢に驚かされた。社員教育も厳格ではなく、自然と身につく文化があることを知り、感動した。また、同社では毎年、社員が自主的に海外旅行の行き先を決めるというユニークな制度もあり、社員の自主性が経営に根付いていることが分かった。そのほかにもいくつか企業を訪問したが、いずれもすばらしい企業ばかりだった。

─企業訪問を通じて得た学びは？

吉野理事長　企業の成長には「地域や職場環境を良くすることが不可欠」だと実感した。訪問を続ける中で、社員が自主的に行動する企業の強さを学び、それを次世代の経営者にも伝えたいと思うようになった。また、訪問した企業の多くは、短期的な利益ではなく、長期的な視点で経営を考えており、これは枚方信用金庫の経営方針とも共鳴する部分があった。

─受賞理由にはどのような点が評価されたか？

吉野理事長　地域貢献が大きく評価されたと思う。例えば、近居・住み替え促進事業「巡(めぐ)リズム」では、社会問題となっている空き家の有効活用を進めた。単に売買を促すのではなく、地域の資産として活かすことを考えた施策。また、待機児童対策として研修所を保育所に無償貸与し、親が安心して働ける環境づくりを支援した。さらに、アクティブシニアの活躍支援や、家庭環境に恵まれない子どもたちのための「宿題カフェ」も門真市・NPO法人トイボックスと連携して運営し、幅広い層への支援を行った。

─コロナ禍でも積極的な支援を行ったそうだが。

吉野理事長　2020年は創立70周年の節目だったが、記念行事をすべて中止し、コロナ対策に注力した。他の金融機関が対面営業を控える中、当金庫は感染対策を徹底しながら営業を継続。独自の感染対策「新型コロナ対策ひらしん安心宣言ステッカー」を飲食店などに配布し、消毒作業や店内風景を360度カメラで撮影し安全状況を確認できるシステムを導入した。また、コロナ融資についても積極的に対応し、多くの事業者を支援しました。特に、飲食業界への支援を優先し、「地域の経済を守る」ことを最優先に考えた。

─経営の根底にある考え方は？

吉野理事長　私は「関心・感動・感謝」の三冠王を目指している。何事にも関心を持ち、そこから生まれる感動を大切にし、その感動に対して感謝の気持ちを持つことが、人としても経営者としても重要だと考えている。これは、訪問した企業の経営者の多くが実践していたことであり、社員との信頼関係を築く上でも欠かせない考え方だ。

─今後の展望は？

吉野理事長　これからも地域密着型の経営を続け、地域とともに成長していきたいと考えている。信用金庫は単なる金融機関ではなく、地域社会の一員だ。だからこそ、利益追求だけでなく、地域の人々の暮らしを支える存在でありたい。そのために、引き続き地域貢献活動を積極的に行いながら、持続可能な経営を目指していく。