【2022大学入学共通テスト】 数Ⅰ・Aが過去最低点の衝撃! 新入試に必要な“力”とは?


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 センター試験に代わって、2022年春で2回目となった大学入学共通テスト。ところが、数Ⅰ・Aや生物などの理系科目を中心に、7科目の試験で平均点が過去最低に陥るという異常事態が発生。特に数Ⅰ・Aは37・96点と、昨年(57・68点)に比べて大きく低迷し、衝撃的なニュースとしてマスコミ各社から報じられた。低迷の原因はなんだろうか? その答えは、今までに見たこともないような出題形式にあった。

■数学力の低下は本当か?

 「数I・Aが大きく低迷した理由は、受験生の数学力が低下したわけではありません」。河合塾教育研究開発本部の富沢弘和本部長はこう話す。そして「センター試験のころに比べて問題の文章量が非常に多くなっていることが一因」と指摘する。

 「問題自体は基礎的な学力を確認していることに変わりないのですが…」と富沢本部長は前置きしたうえで、「例えば、問題の設定に長い会話文が提示されるなど、一体何を問われているのかを読み解くのにすごく時間がかかる。問題を解くために必要な情報をつかむ力も測ろうとしているのでしょうが、読み解いているうちにタイムオーバーになった受験生は多かった」と説明する。

 実際にそれを裏付ける情報として、センター試験の最終年(2020年度)と、共通テストの初年度(21年度)で問題冊子のページ数を比べたとき、数Ⅰ・Aは18ページ→26ページ(約44%増)に、数Ⅱ・Bで14ページ→18ページ(約29%増)に増えている(河合塾の調査)。

 開成教育グループの藤山正彦入試情報室長も同様に、「数学の基礎的な知識を問う点ではセンターの頃と同じ。言葉は悪いが雑音が増えた」と違いをわかりやすく説明する。図表や文章など読み取る資料が膨大になった新入試で必要な能力は「速読力と思考の器用さ」と言い切る。

■今までにない問われ方

 「問題冊子に数式があって、それを計算して答えるのが従来の出題形式だったが、具体的な事象を問題に当てはめた今までにない問われ方に変わった」と出題形式の大幅な変化について指摘するのは、数学の鉄人と言われ予備校や学校の講師も務める学びエイドの香川亮さんだ。

 「地図を使って角度を考えるものなど、具体的にやったことがないと何を問われているのかも分からないような問題が多かった」と具体例を示しながら、「知っているか知らないかを問う『有名問題』、最初でつまずくと 後半が解けない『誘導形式』、複数の分野がくっついた『融合問題』の三つの〝ゆう〟が顕著だった。過去問では見たこともない形式だったので、数学に苦手意識を持つ受験生にとってはつらかったと思う」と分析している。

■基本を捉える

 教科固有の力を測る前に、問題を読み解くところで行き詰まる今年の傾向は、数学に限らず全科目に出ていた。富沢本部長は「教科固有の思考力、判断力をどう測るか、非常に苦労しながら作問されている印象。加えて科目全体の難易度の調整も作問者には求められる。センター試験の時代にも例えば理科で、物理や化学、生物の平均得点差が大きくならないよう非常に配慮して作問されていた。問題作成には優秀な先生方が携わっている認識。まだ2年目なので、徐々に改善されていくと思う」。

 一方で、近々に共通テストを控えている受験生に関しての対策はどうか。藤山室長は「すでに共通テストが2回実施されたので、過去問を繰り返し解き、感覚をつかむことだ。速読力もカギになるからストップウォッチで時間を計りながら、より実践に近い形で訓練するといい」とアドバイスする。さらに「共通テストに限らず、文系でも理数ができるに越したことはない。心理学や社会学でも、今は統計処理を行って信憑(しんぴょう)性を増す作業が必要となっており、将来的にも役立つ」と話している。

 出題形式が大きく変わった共通テストにどういう心構えで臨めばよいのか。

 香川さんは「これまでは問題を解く数をこなすことで対応できたが、今年の傾向を見ると教科書に戻るというか、もう一度、基本を捉える力を大切にしている」と見抜いた上で、「数学であれば公式を覚えているかどうかではなく、公式をちゃんと作れるかどうか。公式の成り立ち、なぜこの公式が存在するのかといった意味を考えることも重要だ。物理基礎の問題も具体的にスプーンを使う話がでてくるなど、何のために物理の考え方を学ぶのかという原点に戻っている。計算量は今回、共通テストでハイレベルのものは出題されていなかった。ただ、出題形式が独特なので、時間配分を身につけるための演習は必要になる」と話している。

■次の大きな変化は25年

 大学入試ではここ数年、安全志向が高まっている。センター試験の最終年となった20年は、翌年から共通テストに切り替わることが事前に分かっていたため、「現役で行ける大学に進学しよう」という動きが顕著になり、浪人生が大きく減少した。

 新入試の実施年となった翌21年も、「追入試は難易度が上がる」という定説から、コロナ感染で本試験が受けられないリスクが受験生の心理的負担となり、「行ける大学を早めに受けて決める」の安全志向が目立った。

 さらに今後、大きな変化の年となるのは、学習指導要領が変更された現高1生の受験年となる25年1月の共通テストだ。この年から共通テストの出題科目に「情報」が新設されることで、6教科から7教科に増える。

>>【どうなる?2025年大学入試】“情報”加わり6教科になる共通テスト 河合塾の富沢本部長が解説

 科目数は30から21へスリム化されるが、数学Cが復活し、学習範囲も大幅な変更がある。こうしたことから「前年に現役で共通テストを受ける現高校2年生は浪人できない背水の陣」(藤山室長)になる可能性が高い。

 一方で藤山室長は「早め決着にならないよう、行き過ぎた不安感で安全志向に走り、自らの可能性を潰すべきではない」とも指摘する。「不安を払拭(ふっしょく)するために、模試などの客観的なものさしで自分の実力を正確に測り、自信をつけることを忘れないでほしい」とアドバイスする。

来年も難易度は同じ傾向なのか?

 ところで、今年の共通テストが難し過ぎたことで、来年は難易度が下がるのでは? と期待している受験生も多い。しかし、香川さんは「あまり変わらないのではないか」と予想している。「21年は移行措置で浪人生に配慮する部分があったから、踏み込みが甘かったのだろう。21年が60点で、今年が40点。共通テストの平均得点は一様に50点の設定で考えているから、今年の調子をちょっと変えていく判断になる」と分析する。

 香川さんは続ける。「おそらく今年の傾向が来年以降も続くと思う。とすれば、数学なら公式を学んだら作り方もちゃんと学ぶなど日常の学習を丁寧にやっていく必要がある。こうした対策は高3になってからで\は厳しいので、高1から取り組むといい。これからは学習を広くというよりも、深く学ぶと言う意識が大切になる」。