演歌と歌謡曲と弾き語りの三刀流 川野夏美は不思議な歌手

 今秋でデビュー27周年を迎える演歌・歌謡曲歌手、川野夏美(44)は不思議な歌手だ。過去に代表作といえる大ヒット曲がないのにここ2、3年の新曲CDは年に1・5枚出している。コロナ禍でもペースは落ちない。楽曲のネット配信が主流となって、どんな大歌手でもCD発売は年に1作に絞られ、スターだとカップリングを変えた姉妹盤が出されて発売枚数を稼ぐ。限られた市場の中でCD売り上げ枚数を積み上げるにはメーン曲が同じなら、この方法しかないからだ。川野の発売ペースの秘密に迫った。

「ちゃんとメークすればこんな感じ」とほほ笑む川野夏美

 業界内部の話になるが、演歌・歌謡曲は売れそうもない歌手の新譜CDは多少実績があってもメーカーが出さない。中堅クラスで、前作と2年近くインターバルが空くのは今では珍しくない現象だ。

 実際の川野に会って感じるのは良くも悪しくも普通っぽい。中肉中背、驚くほどの美人でもないから、自然に街の風景に溶け込む風情。普段目立たない彼女がCDを出し続けられる理由はただ一つ。歌がうまいからだ。しかも8月発売新曲はガチガチの本格演歌「北の恋情歌」とカップリングは歌謡調で切々と訴える「海峡セレナーデ」。聴き比べれば分かるが「ホントに同じ人なの!?」と思うほどテイストが異なる。通常プロ歌手は自分の個性を大事にするので、他の歌手の曲をカバーしても誰が歌っているのかがすぐ分かる事が多い。ところが川野が歌うと邪魔することなくオリジナルの楽曲を再現してしまう。この器用さが彼女の最大の持ち味と同時に損なところだ。

最近はキャンペーンでも自前ギター持参が増えた川野夏美

 川野と同じように独りで何でもこなしてしまう男性歌手に三丘翔太(30)がいる。やはりカメレオンのように何でもサラリとこなす。2人が組んでNHKBS「新日本のうた」で〝懐メロボーイ&ガール〟とでデュエット。姉弟のように自然でさわやかな歌声。衣装も昭和風に凝って聴く者のハートに飛び込んで来る歌唱力が光る。さすがNHKはいいところに目を付ける。

 川野の8月に出る2曲はともに作詞・たきのえいじ、作曲・弦哲也と同じ組み合わせ。最初から本格演歌の「北の恋情歌」がA面と決まっていたそうだから、カップリング曲「海峡セレナーデ」はわざと歌謡曲っぽくしたに違いない。歌いこなせる川野の特徴を生かしたCDと言える。

川野夏美「北の恋情歌」のCDジャケット

 多くのプロ歌手がそうであったように幼い頃からカラオケ好きの父の影響を受け演歌を聴いて育ち、自分もちびっこカラオケ大会のスターに。高校生でNHKのど自慢に出場し合格をもらう。デビュー当時は着物姿演歌だったが、次第に歌謡曲も取り入れるようになり二刀流へ。元々ピアノは弾けるのだが、最近ではギターの弾き語りで単独ライブが出来るまでに上達し〝第3の武器〟を手に入れた。

 本人は新曲について「原点回帰ですね。どっちかに決めるんじゃなくて〝歌いたい曲を歌ってみなさい〟という作家の先生方のお許しが出た。ワクワクしてます。ギター1つ持ってあちこちで歌ってみたい」と夢を広げた。

(畑山博史)