「自律神経が整えば、人はもっと元気になれる」 メンタルとカラダの不調 〝腸もみ〟で改善する松井 行秀さん

 新年度のバタバタした毎日が落ち着き、次第に「倦怠感がある」「やる気が出ない」などの症状が現れる、いわゆる5月病の季節がやってきた。何かと心身に不調が出やすいこの時期。メンタルヘルスには自律神経が関係していることは有名だが、その自律神経には「腸」が大きく関わっていることをご存知だろうか。のべ13万人以上のお腹を診てきた「おなか専門店PIONA」の代表〝おなかちゃん〟こと松井行秀代表の腸もみについて、阪本晋治が実際に体験するとともに、そのメカニズムについて解明する。(西山美沙希)

「腸は自律神経と密接に関わっている」と話す松井さん

 ─そもそも「おなか専門店」を開業したきっかけは。

 もともと整骨院で10年ほど指圧を学んでいました。当時、腎臓の手術経験のある患者さんが、長年の腰痛に悩まれていたんです。詳しく話を聞いて、「訴えているのは腰痛だが、痛みの原因はお腹にあるのではないか?」と思うようになった。そこでお腹にアプローチする治療をすると、やはり症状の改善が見られました。

 この出来事をきっかけに、東洋医学の考え方と、これまでの治療の技術を組み合わせて独自に編み出したのが腸もみ施術です。医師にも推薦状をもらい起業しました。

 ─私もこれまでカイロプラクティックなどのいろんな施術を受けてきた。しかし、松井さんの施術は他とちょっと違う。お腹だけでなく、手や足の指もさわっていたが、どんな意味があるのか。

 あれは鍼灸治療の一種です。手足には胃腸や内臓のツボがあります。最初からお腹をグイグイ押すのではなく、手や足のツボで遠隔的にお腹の緊張をとるのです。

 ─オイルを使用するイメージがあったが、それは使わなかった。

 はい。オイルはリラクゼーションを目的に使われることが多いですが、僕の場合は腸もみを通じて自律神経にアプローチするのが目的だから使いません。自律神経は背骨にも通っていて、お腹を施術しても改善しない場合は、体の歪みや背中の緊張をほぐすことからはじめます。

 ─お腹にふれてすぐ「冷たいものをよく飲んでいますね」と言われ驚いた。確かに、私は冬でも冷たい飲み物を飲むことが多い。なぜわかったのか。

 お腹をさわると、体のさまざまな状態がわかります。冷たいものをよく口にする人、糖分を摂り過ぎている人、呼吸が浅い人…。それぞれお腹のふくらみ方が違うんです。

 ─興味深い。お腹のふくらみとは、太って脂肪がつくこととはまた違うのか。

 はい。腸が硬くなることでふくらむんです。腸は自律神経と密接に関わり合っています。内臓の働きや血液の流れなど、生命維持を司る自律神経には、体を興奮させる交感神経とリラックスさせる副交感神経の2つがある。その2つがバランスよく働いていたら問題ないのですが、冷えや糖の摂りすぎで腸が硬くなると交感神経優位に偏りがちになります。

 ─どんな悪影響が。

 「腹が立つ」という言葉がありますよね。怒ったりして自律神経が興奮すると、本当にお腹ってポンとふくらむんです。つまりお腹が張っている人は基本的に神経が興奮している。リラックスしているつもりでも、実は体は興奮状態にあるということです。これが長く続くと当然自律神経が乱れ、心身に不調をきたします。

 この順番を逆手にとって、腸を柔らかくすれば、副交感神経が優位になり、気持ちをリラックスさせられるというメカニズムです。

 ─最近〝キレやすい〟子どもが増えているが、これも自律神経が大いに関係していると聞く。

 そうですね。実際にそのような悩みを抱えた親子連れも来店します。寒いとか冷たいものの飲み過ぎだとか、日々の小さな刺激の積み重ねで交感神経が優位になり、自律神経のバランスが崩れる。気に入らないことがあったときについ荒っぽい言葉や、手が出たりすることも。そんなときはお腹から整えてあげると落ち着くことが多いです。

 僕が直接施術しなくとも、親が子どものお腹を触ってあげるのも良いです。「どうやって触ったら良いかわからない」という人には触り方のアドバイスもしています。

 ─スポーツ選手やアスリートも来院したり、松井さんが現場に帯同したりもしている。

 はい。パフォーマンスの向上のために来店するプロスポーツ選手の方も多いです。メンタルの部分は自律神経が密接に関係しますし、神経が高ぶっていると体がスムーズに動かない。

 最近施術したプロゴルファーの女性は、お腹にふくらみや、張りがあって体がうまく回転しないという悩みをお持ちでした。余裕を持って試合に臨み、自分が納得できるプレーをしてもらうことが大切だと思っています。結果につながるように僕もしっかりと施術でサポートさせていただいています。

 ─読者がすぐにできるメンテナンスやおすすめの食材はあるか。

 特にこの食材を食べて、という指定は僕はしていません。ただ、体が冷えている人には「夏野菜ではなく、根菜類を食べましょう」とアドバイスしています。

 それと、冷たいものを一気に飲まないことも皆さんに伝えています。夏はビールがおいしい季節。ついキンキンに冷えたビールを一気飲みしてしまうという人も多いでしょうが、それが毎日のように続けば腸にとっては刺激になります。

 温かいものと交互に飲むとか、冷たいものでも口の中にしばらく溜めて常温に戻してから飲むとか。そんな簡単なことからでいいので、バランスを考えて飲むようにするといいですね。日々の小さな積み重ねが、腸を通じて体をいたわることにつながります。

 ─人生100年時代と言われ、健康に関心が高まる昨今。松井さんの腸もみの技術はさらに需要が高まりそうだ。

 そうですね。腸もみが今以上にメジャーになって、生活の中に普通に取り入れられるようになればうれしいです。近年、食材やサプリなどで体の中からケアしようという人は確かに増えました。しかし腸は筒状なので、筒の外側も整えてあげなければならない。そうすることで栄養の吸収や排せつの効果をさらに高めることができます。

 今後はこの技術を他府県や海外にも広め、より多くの悩める人を助けたい。世界中の人々の健康寿命を、腸から支えていきたいですね。

【記者も実際に体験】わずか10分でお腹ペッタンコ

指のツボも同時に押しながら体を緩めていく松井さん

服の上からお腹に触った松井さんが「冷たいものを結構飲まれますね」と一言。お腹の張りの位置で糖を取りすぎている、宿便が腸内に溜まっているなどの症状がわかるそうだ。

 手や足の指を気持ちよく刺激しながら松井さんがお腹を多方向から押していく。すると3分ほどで、目に見えてお腹が引っ込んでいく。次第に松井さんの手が自分のお腹にめり込んでいくのがわかるが、決して痛くはない。

 10分ほどの施術だったにも関わらず、立ち上がるとお腹がペッタンコ。さわるとフワフワでやわらかい。体もポカポカと温かく、背中もスッキリとしてそう快感があった。

松井行秀さんプロフィル

 鍼灸師、柔道整復師、トレーナー。「おなか専門店PIONA」代表。長年整骨院で働いてきた経験から、独自の腸もみと東洋医学を掛け合わせた施術で13万人以上の施術実績をもつ。愛称は〝おなかちゃん〟。

おなか専門店PIONA/大阪市中央区本町4−4−17 RE-012 307号/電話080(9022)5729

松井さん(左)と阪本晋治