演歌・歌謡曲ファンが、手軽な料金で生の演歌・歌謡曲を楽しめる「大阪発流行歌ライブ」。阪神・淡路大震災の年、1995年1月から始まり節目の30年目に入った伝統の月例イベントは、コロナ禍などでの休止を超え今年3月で第317回目を迎えた。長い歴史の中で「恐らく最短」というプロ13年目でトリを務めたのが、中堅演歌歌手・蒼(あおい)彦太(35)。「前回の出演はデビュー直後の13年前。トリ出番は怖過ぎます」と緊張の面持ち。
大阪・ミナミのアメリカ村にあるライブハウス「BIG CAT」を会場に、入場料3500円で出演歌手CD1枚とドリンク1本が付く。平日昼休みを挟んだ時間帯に、レコード会社所属のプロ歌手4~5人が出演。終演後は歌手が自身のCDを直接ファンに手売りし、サイン入り色紙をプレゼント、2ショット写真撮影にも応じる。こうした生の触れ合いが魅力で、毎月楽しみにしているファンも数多い。
2時間半の舞台を、ベテラン作詞家・もず唱平(85)が突然訪れ客席で見守り、歌手側の緊張感はさらにアップ。この日の出演は、3年目の演歌Z世代歌手・原田波人(21)や、蒼より年上だがプロデビュー9年目と遅咲きの村木弾(44)と、蒼より芸歴の浅いメンバーが並び、蒼にトリ出番が回ってきた。
香川県の県庁所在地・高松市のベッドタウン三木町出身の蒼は、会場の独特のムードを振り払うように客席との対話からトークをスタート。ご当地曲「宗右衛門町ブル-ス」で笑顔を引き出し、「ねずみ小僧」では客席通路に降りて満員の観客と次々握手。ラストは昨秋発売の新曲「浮世がらす」で締めくくる圧巻のステージ。
「僕は中学生の時に氷川きよしさんにあこがれ、歌手を目指した。氷川さんの師匠・水森英夫先生に曲を書いて頂くのが念願でした。それがかなったのがこの〝浮世がらす〟。レッスンの時に水森先生から〝もっと声が出るだろう? ほら、出るようになった〟と言われた。歌手生活が長くなって、知らず知らずのうちに軽く歌うようになっていたのを戒められたのだと。原点に帰ったようでとても新鮮でした」と目を輝かす。
健康的な顔色は、好きな山歩きの副産物。元々手先は器用で、パソコンを使っての音楽や映像の編集も得意。コロナ禍でネット配信が普及し「自分で作って配信するのが当たり前の時代へ一足跳び。技術的に不安はないんですが、もっと中身を充実させたい」と、意欲を忘れない。
(畑山博史)