今や「国民病」といわれる花粉症。約10年おきに実施されてきた鼻アレルギーの全国調査によると、2019年の有病率は38・8%で、およそ4人に1人がスギ花粉症と推定される。また、花粉の飛散量が多い日ほど交通事故や労働災害が増えるデータもあり、社会的損失は甚大だ。岸田文雄首相は「いまだ多くの国民を悩ませ続ける日本の社会問題。省庁横断で対策を進める」との認識を示した。政府は昨年から「花粉発生量30年後に半減、スギ2割伐採」などの対策を本格化させているが―。
「たかがくしゃみ」ではすまない
8割が仕事のパフォーマンスに影響
「くしゃみ」が起因の交通事故
花粉症シーズンの2023年3月1日、大阪市生野区で乗用車が逆走し、歩道に乗り上げて歩行者の2人をはねた。この事故で86歳と75歳の女性2人が亡くなった。
事故を起こした男性は「事故直前に、くしゃみをして意識が遠のいた」と話した。府内の企業で労働者の健康管理を行う産業医によると、「くしゃみが引き金となった可能性のある交通事故は過去にも起きている。いずれも花粉症シーズンの3月、4月だった」という。 実際、東京大の重岡仁教授と神戸大経済経営研究所の明坂弥香助教の共同研究では、「花粉の飛散量が増えると人口当たりの事故による救急搬送数も増えていることが明らかになった」という。
花粉30年後に半減、スギ2割伐採
花粉症は現在10人に4人が発症している国民病で、低年齢での発症が増加している。政府はこれまで花粉症対策に1億円程度の予算をあてていたが、国民を悩ませ続け社会的な損失も無視できない状況だ。
花粉の悪影響を巡っては、経済損失の大きさも指摘される。
パナソニックが「花粉症である」と回答した20~60歳までの社会人を対象にした「花粉症に関する調査」(20年1月17~19日)によると、花粉症が仕事のパフォーマンスに影響を及ぼすと回答した割合は約8割にも及ぶ。また、「仕事のパフォーマンスが低下していると感じる時間」については平均2・8時間だった。これらの回答から花粉症による労働力の低下の平均時間を元に試算すると、経済損失は1日あたり約2215億円と推計された。
23年に政府は花粉症を国民病として「花粉症に関する関係閣僚会議」を立ち上げ「発生源対策」「飛散対策」「発症等対策」―の3本柱で対策を施行することを決めた。
花粉症の発生源であるスギの人工林については、伐採規模を現在の年間5万㌶から7万㌶まで広げ、10年後に2割ほど減らす目標を掲げ、「30年後に花粉発生量を半減させる」対策をまとめた。花粉の発生源対策では花粉の少ない苗木への植え替えを進め、10年後には苗木全体の9割以上を占める水準にする。飛散対策では薬剤の改良や散布技術の開発支援を急ぎ、5年後に実用化のメドをつける。
治療面では舌下免疫療法の普及を狙う。
花粉症対策の3本柱
発生源対策
スギの人工林、10年後に2割ほど伐採 30年後に花粉発生量を半減 花粉の少ない苗木への植え替え促進
飛散対策
薬剤の改良や散布技術の開発支援を急ぎ、5年後に実用化のめど
治療面
舌下免役療法の普及、年間の治療薬の供給量を現行の25万人分から5年以内に100万人分へ拡大
仕事能率ダウンの自衛策
一部の民間企業では花粉症による社員の生産性低下を防ぐ対策として「花粉症手当」を制定。病院の診察費、処方箋代の支給や、高級ティッシュ、高級マスク、目薬などの現物支給している。 また、運輸・流通業では生産性の低下以外にも「大きな事故にもつながりかねない」ことから、花粉症の発症中も適切な睡眠をとれるよう眠気を増さない薬や点鼻薬を選定し、症状のあるドライバーに提供している。