【わかるニュース解説】
先月下旬、世界を牛耳るトランプ・米国大統領と習近平・中国国家主席がニューヨークで直接対談。大騒ぎした割に「何が話し合われ、何が決まったのか?」がよく分からないまま終了。「大事な事は全て11月の米国中間選挙後まで先送り」なのだが、中国が世界シェアの大半を占めるレアアース(希少金属元素)問題も主要議題に一つ。日本でも太平洋上の南鳥島で、2月に水深6000㍍の深海からレアアースを含む泥の採取に成功。この問題、各国はいったいどこに向かって着地点はどこなのか?

レアアース、遠い脱・中国依存 「中国独占」はなぜ起きた?
レアアースって何?
レアアースとは軽希土類7種(ネオジム、セリウムなど)と重希土類10種(ジスプロシウム、テルビウムなど)の計17種の金属元素を指す。取引価格はネオジムが1㌔1万5000~2万円なのに、テルビウムは同22~45万円で重10種の方が存在量が少なく高額。
「産業のビタミン」との別名があり、ほんの少し添加するだけで製品の磁力や耐熱性、発光などを向上させる。具体的な用途としてモーターの心臓部である永久磁石の能力向上による小型化実現に欠かせないのをはじめ、スマホやタブレット、テレビなどの液晶ディスプレイ製造・使用過程で必要、同様にEV(電気自動車)電池小型化にも役立つ。レアアースがなければエコ家電やスマホ、EV車も実用に向けた小型化・省力化が果たせない。風力発電整備にも必要で、このままでは2030年代に世界的供給不足に陥る危険性があるのに、40年代には需要が3~4倍に膨れ上がる予測が出ている。
金銀のように鉱脈を探し当てて掘るのではなく、レアアースは通常の土壌に差はあるが薄く広く分布。例えばセリウムは「銅より地球上で埋蔵量が多い」と言われる。しかし17元素は非常に似た性質で、1つずつ分離・抽出するのが極めて難しい。そこが〝世界市場を中国が独占〟を生んだ重要な背景でもある。
中国の「強力アイテム」
中国は他国が真似できない手法でレアアース世界市場を手中に収めた。それは「環境と人権より国益の全体主義独特の国家主導」と「米豪などのライバル鉱山潰しの価格競争」を実現できたからだ。
東西冷戦が終わった20世紀末は〝グローバル・スタンダード〟(世界基準)と言われ、政治体制を問わず経済取引は各国共通で「安く買える国から輸入し、安く作れる国で製造する」が当たり前の時代だった。
レアアース鉱石はウランやトリウムなどの放射性物質を含むことが多く採掘作業で人体に蓄積すると悪影響が懸念され、さらに分離・精錬作業に大量の酸性薬品を用いるため有害廃液処理問題も起こりやすい。日本でも高度経済成長過程で深刻な公害問題が発生したことは広く知られているが、国策国益優先の全体主義国・中国ではこれらの課題をクリアしやすかった。結果、世界生産量60~70%を占め、分離・精錬の加工施設は90%を今も握るに至った。米国などのレアアース鉱山は当時の価格競争に敗れ、縮小や撤退を余儀なくされた。
この時点でレアアースは中国の強力な外交的アイテムになった。トランプ関税による貿易摩擦には、レアアース供給見直しで対抗。日本には「軍民両用」品目指定で多くの企業を輸出禁止団体とし、さらに通関手続き引き延ばしや第三国経由輸出入禁止にし、〝台湾有事発言〟で関係の冷え込んだ高市政権下の日本経済をジワジワと締め付ける効力を発揮している。
日本の保険は南鳥島
日本も黙ってはいない。ハイテク産業育成の首根っこを中国に押さえられてはたまらないので「供給ルートを米豪などへ多角化。脱レアアース技術開発」が急ピッチ。中でも南鳥島の海底泥から今年2月「世界需要数十年から数百年分のレアアース発見」のニュースは、世界を駆け巡った。
地球深部探査船「ちきゅう」が採取した水深6000㍍地点は富士山の2倍の位置。しかも泥は海水を含むため抽出にはいったん水抜きして体積・重量を減らし、同島内に分離・精製施設を整備する必要がある。経産省は「国の安全保障上の重要インフラ」と位置付けており来年2月には連続海底泥回収を実現できる見通しだが、専用船整備や深海採取にさらに数千億円規模の費用を国庫から支援、中国産との価格競争を回避する必要がある。とても民間事業では採算維持出来ず、全て国策事業として継続運営するから気が遠くなる。
一方で利点もある。地上のレアアースは火山由来が多く冷える過程で放射性物質を多く含むのに対し、海底泥は魚など海洋生物の骨に吸着した状態で放射性物質はほぼゼロ。その分クリーンで環境にもやさしい。
もちろん中国も黙ってはいない。南鳥島は日本最東端(ちなみに最南端は沖ノ鳥島)で本土から1800㌔離れており、ほぼ日本列島がスッポリ入るぐらい距離がある。米軍基地がある米グアム準州から沖縄県に至る太平洋上の要所で、海洋進出に熱心な中国は我が国の海底泥調査に自国の公船を近隣まで差し向けてけん制、その動きに神経をとがらせている。

最も窮地はEU圏
かつて世界をつないでいた「サプライ・チェーン」(供給連鎖)の考え方は、日本を含む欧米諸国VS中露の対立激化と、身勝手なトランプ関税で今や死語となった。独自の「国家安全保障」が優先され、資源や製品の売り渋りや出し惜しみが正当化されるに至った。
一番ダメージを受けているのは、環境問題に最も熱心に取り組んでいたEU(欧州連合)だから皮肉だ。欧州にはレアアース採掘に適した山や精錬工場はほぼ皆無で100%近くを輸入に頼っている。うち98%は中国からで、当面の対応はレアアースのリサイクル率を上げるぐらいしかない。今年2月、日米欧を含む54カ国が参加した「重要鉱物閣僚会合」が開かれ、同盟国間融通や共同備蓄が話し合われたのも「何とか中国依存から脱却したい」との思惑からだ。米では採算面から一度閉じた鉱山を公費支援で再開、精錬・製造までを国内で完結するシステムを28年までに完成させようと急ぐ。
そんな中で草刈場になっているのがアフリカの途上国。調査段階で有望な埋蔵地が次々発見されている。西側だけでなく中露も加わった争奪戦で一説では中国がいち早く約3割を押さえ一歩リード。しかし途上国側もかつての様な〝資源だけ安売り〟には懲りており「自国に精製施設を整備し、雇用創出と技術移転」を条件にするしたたかな交渉ぶりが目立つ。
開店休業WTO
かつて多国間貿易はWTO(世界貿易機関)が裁定してルール作りされ、中国のレアアース取引も「自国産業保護の売り惜しみはルール違反」とされたこともあった。しかしトランプ大統領の身勝手関税導入でWTOは機能マヒに陥り、今や不公正貿易に誰も歯止めを掛けることができない。
9月の米中首脳会談でも、来年1月まで両国間で結論を先延ばしにしただけ。その間にも中国は日本や英国を狙い撃ちにしてレアアース輸出規制を強化してくるから一刻の猶予もままならない。AIや防衛の能力向上を背景にハイテク技術の覇権争いは深く静かに、そして長く続きそうだ。
