髪の常識、実は逆だった? 毎日3分のシャンプー習慣 「髪育JAPAN協会」が広める新たなケア

大阪で開かれた「髪育専門士」や「髪育サロン」の認定証授与式。二列目中央が宇留間さん

 髪を切り、染め、整えるだけでなく、日々のシャンプーや頭皮ケアから髪の状態を見直す「髪育」の考え方が、“一人サロン”の美容師らに広がっている。一般社団法人「髪育JAPAN協会」(神奈川県鎌倉市)によると、協会が認定する髪育専門士を取得した美容師は、大阪が最も多いという。

 活動を率いるのは、代表理事で美容師の宇留間祐介さん。「トリートメントで傷んだ髪をきれいにする」「薄毛にはヘッドスパで頭皮環境を整える」といった美容の常識に疑問を持ったことが「髪育」の出発点だった。

 「髪をきれいに見せることと、髪そのものを健やかに保つことは、実は別だったんです」

 9月17日には一般向けの著書「60代、70代 髪は、まだまだよみがえる」を出版。毎日の正しいシャンプーやドライヤーで、健康な髪を取り戻す方法を伝えている。

カットだけでは応えられない

 2000年前後にカリスマ美容師ブームが訪れた時期、宇留間さんはそのメッカでもある原宿・青山の「ACQUA(アクア)」に就職した。

 「私も当時はカットやカラー、パーマで髪を美しく見せることが美容師の仕事だと考えていた」と振り返る。

 アクアは当時の美容師ブームを代表するサロンだったが、宇留間さんはプレッシャーに耐え切れず、逃げるように退職してしまった。

髪の健康のために、毎日3分のシャンプー習慣を提唱する宇留間さん

 地元の鎌倉に戻り、“一人サロン”を開業して再出発した宇留間さん。一対一で客と長く向き合うようになったことで、それまでとは違った悩みが見えるようになった。

 髪型を整えれば、その日はきれいになる。しかし、数カ月後に再び来店した客から「抜け毛が増えた」「髪が細くなってきた」「以前のようにまとまらない」と相談されることも少なくなかった。

 「その時の私は、髪型をつくることが美容師の役割だと思っていました。でも、何年も通ってくださる中で、カットやカラーだけでは応えられない悩みがあることに気付いたんです」

 その後、宇留間さんは美容師の仕事そのものを見直すようになる。

 疑問を持ったのは、傷んだ髪にトリートメントを重ねたり、新しい商品を加えたりする従来のヘアケアだった。

 「もちろん、トリートメントやカラー、パーマを否定するわけではありません。ただ、髪をきれいに『見せる」ことと、髪や頭皮を健やかな状態に保つことは別に考える必要がある」と考え、「何を塗ればいいか、何を足せばいいかという発想ではなく、いったん余計なことを減らしてみる。髪や頭皮が本来持っている状態をどう守るか、という方向に考え方が変わっていきました」(宇留間さん)

髪を洗うより、頭皮を動かす

 宇留間さんが特に重視するのが、自宅で毎日行うシャンプーだ。特に「指で頭皮を動かすことが大事」という。

 「頭のてっぺんには、腕や脚のように自らを動かす筋肉がありません。額と後頭部の筋肉の間は帽状腱膜(ぼうじょうけんまく)と呼ばれる膜が張られているだけ」と指摘したうえで、「血行が滞りがちなので、もんで血流をよくするんです」と説明する。

 実際に、髪の毛の根元にある「毛母細胞」は、血液が運んでくる酸素や栄養素を取り込んで髪を成長させるが、宇留間さんは「頭皮の血流を保つことが毛根に栄養を届けるうえで重要だ」と説明する。シャンプーの時に頭皮を指でやさしく動かす。目安は3分という。

 「美容室には月に一度、二カ月に一度しか来ない人もいます。一方、シャンプーは毎日する。その積み重ねの方が髪にとっては大きいと考えています」

 ドライヤーも、ただ乾かせばいいわけではないという。近距離から長時間熱を当て続けたり、一部分だけを乾かし過ぎたりすることは避け、日常の何げない習慣を一つずつ見直していくことを勧めている。

 こうした考え方を宇留間さんは「髪育」と呼んでいる。

今年5月に大阪で行われた美容師に向けたセミナー

美容師の価値をずらす

 宇留間さんが、従来の美容室とは異なる新たな業態に舵を切った背景には、客の髪の悩みだけでなく、一人サロンが抱える課題を解決するねらいもあった。

 一人サロンでは、経営者自身がカットやシャンプー、接客、会計まで担うのが一般的だ。このため、1日で対応できる人数に限りがあり、売り上げの上限も決まってしまう。一方で大型店と違い、一人の美容師が同じ客を長期間担当することから、年齢による髪質の変化や日々の悩みまで相談を受けやすい。

 「そこを強みに変えられると思い、カットやカラー、パーマではなく、お客さんの髪の悩みを継続して支える『髪育サポート』をメニューの主軸に据えることにしたんです」

 この考えを広めるために宇留間さんが設立した一般社団法人「髪育JAPAN協会」では現在、美容師向けに髪や頭皮に関する知識を学ぶ機会や、髪育専門士として活動できる資格制度を設けている。

 同専⾨⼠の資格を取得した大阪府の美容師、近藤斐さんは「髪のボリュームが出ず、毎朝のセットや鏡を見ることがゆううつだったお客様が、髪育を続けた今では『手ぐしだけで髪型が決まるようになった』と喜んでくださっている。美容師として、目の前のお客様の悩みに応えられることが心からうれしい」と話す。

 長野県の美容師、矢口美喜子さんも「以前は薄毛の相談にパーマやカット、製品の提案しかできなかった。今は頭皮環境と習慣を見直すことで髪が育ち、喜んでくださる人が増えている」と喜ぶ。

 協会によると、有資格者は全国に広がっているが、中でも大阪が最も多いという。

出版を機に一般にも発信

 髪や頭皮を巡っては、育毛剤やシャンプー、トリートメントなど数多くの商品や情報であふれている。インターネットやSNSでは「これを使えば髪が変わる」といった誇大広告も少なくない。

 宇留間さんは「特定の商品や方法だけに頼るのではなく、まず毎日の生活やケアを振り返ることが大切だ」と言い切る。

 これまで協会は、美容師向けの活動が中心だったが、一般にも「髪育」の考え方を知ってもらおうと、9月17日に出版した著書でも、シャンプーやドライヤーなど家庭でできる手入れを中心に紹介している。

 「髪の悩みが出てから何か特別なものを探すのではなく、毎日の習慣から見直してほしい。髪について考えることが自分自身を大切にすることにもつながればと思っています。一人一人が髪を通じて自信を持ち、前向きになる。その輪を全国に広げ、日本を元気にしていきたい」

9月には著書「60代、70代 髪は、まだまだよみがえる」を出版

タイトルとURLをコピーしました