
「おー、いらっしゃい!」
昼時の大衆食堂「母の味 アゲイン」。大阪・門真市常盤町の京阪大和田駅近くにある店の扉が開くと店主のテルさんが、門前で待っていた学生に声をかける。食事を待つ間には学生同士や店主との会話が自然に生まれ、水のピッチャー運びの手伝う学生の姿も見られる。この店は、ただ食事をするだけではない。人とのつながりが生まれる場所になっている。〝都会の孤独〟が叫ばれる昨今、どこかレトロなこの店の扉を開けてみた。
厚労省調査によると、国民全体の4~5割が「孤独を感じている」とされる。進学や就職などを機に故郷を離れる若者は多く、新たな環境で人間関係を築くことに不安を抱える人も少なくない。発足した子ども家庭庁では、若者の「居場所」作りに取り組んでいる。居場所とは、誰かに受け入れられ自分らしく過ごせる場所を指す。地元を離れた学生は新たな地での環境が大きく変わる。授業やアルバイト以外にも気軽に立ち寄れて、さまざまな人と関われる場所は孤独な学生にとって大きな支えになる。
「母の味 アゲイン」は2021年にオープン。テルさんが「大学生の孫におばあちゃん手作りのごはんをお腹いっぱい食べてほしい」という思いが始まりだった。メニューはお孫さんの好きな物を中心に考案され、すべて手作りにこだわり提供している。物価高が続く昨今でも大学生が利用しやすい価格帯を維持しており、食事を通じて学生たちを支える様子がテレビ番組などにも何度か紹介された。

テルさんは、お孫さんが学校を卒業した今でも店を続ける理由について「学生の皆にお腹いっぱい食べてほしい。学生には勉強や部活動など、やるべきことを頑張ってほしいから」と話し、「〝美味しかった!ありがとう〟と言ってもらえることが何よりの励みになっている」と笑顔で話す。その思いは、料理だけでなく店内の雰囲気にも表れている。店の扉が開くと笑顔で客を迎え、常連の学生には名前で声を掛ける。私たちがインタビューに訪れた際に、独りで入ってきた学生とおぼしき若者に「今日はひとり?」と優しく声を掛けていたのが印象的だ。客ひとりひとりのことを覚え、気に掛ける何気ないやり取りから学生との距離の近さが感じられた。その積み重ねが、「母の味 アゲイン」独特の温かな雰囲気を醸し出している。
「孤独」という大きな社会課題は、一挙に解決できるわけではない。そもそも「母の味 アゲイン」は、若者の居場所を目的に作られた場所でもない。それでも、名前を呼んでもられること、何気ない会話を交わすこと、自然と店を手伝いたくなる様な人間関係が、人と人とのつながりから自然と生み出されていた。都会の真ん中で孤独を感じる人が多い今の時代だからこそ、こうした何気ない交流から生まれるホッとできる居場所の存在は、これまで以上に大きな意味を持ってきているのだ。
(大阪国際大学/山澤拓真、山下友哉)
