【わかるニュース解説】米、ベネズエラ急襲 中南米で今、何が起きているのか? 

 正月気分真っただ中の1月3日(現地時間2日深夜)。突然飛び込んできた米国のベネズエラ急襲のニュース。米軍150機が首都カラカスを攻撃し、マドゥロ大統領(63)と妻シリア・フローレス氏(69)が拘束された。
 トランプ米大統領は会見で「驚異的な軍事作戦」と賞賛。「マドゥロ氏は麻薬密輸の首謀者であり、暴力的な男」であるとし、長年の犯罪行為を立証する「圧倒的な証拠がある」と作戦を正当化。さらに、適切な政権移行まで暫定的に米国がベネズエラを運営する考えを示した。
 今回のニュースを見て、西半球(南北アメリカ大陸)が「米国の敵対者、競争相手の活動と拠点になることは許さない」というトランプの国際法を無視した一方的な権益発言に驚いた人も多いはず。ラテンアメリカで今、何が起きているのか? 歴史的な背景も踏まえて考察してみよう。

V米軍による急襲とマドゥロ大統領拘束の報が伝わり、避難先のチリ・サンティアゴで喜びを爆発させるベネズエラ人ら=1月3日(AP/アフロ)

貧困と分断の元凶作ったのは誰か モンロー主義の亡霊、再び中南米へ

中東失敗の反省、新統治体制

 ベネズエラは南米大陸の最北部にあるカリブ海に面した国だ。今回、拘束されたマドゥロ氏は米国内での裁判がこれから本格化するが、〝麻薬テロ、コカイン密売〟で実質、終身刑の判決が下ることは確実だ。その理由は1990年の「パナマ攻撃」が前例としてある。当時、共和党政権のブッシュ大統領(通称・パパブッシュ)の下で、米軍はパナマの軍事独裁者だったノリエガ将軍を「麻薬密売容疑」で急襲し、拘束した。ノリエガはその後に米国内で裁かれ、懲役40年の実刑判決を受ける。17年余り収監され、権力の座から引きずり降ろされて失脚した。

暫定政権人事米国が選んだ相手

 マドゥロ氏を拘束した米国は新たな指導者について、昨年末にノーベル平和賞を受賞し、世界が注目している野党女性指導者マチャド(58)ではなく、マドゥロ政権で副大統領だったロドリゲス暫定大統領(56)と統治交渉に入った。ちなみにこの女性2人は政治的ライバル関係にある。米国がロドリゲス氏を選んだ理由は、イラクやアフガニスタンでの反省からだ。いずれも前政権を倒し主な閣僚を追放した米国だったが、野党の民主主義者が政治的に未熟で泥沼状態に陥り、「餅は餅屋に」と学んだためだ。

もともと親米もチャベス登場で反米に

 もともとベネズエラは「親米」国家だった。20世紀初頭にベネズエラが石油生産国として台頭して以降は「石油」を売る相手、投資してくれる相手として米国の存在が圧倒的に大きかったからだ。米企業も現地で石油生産事業に深く関わってきた。
 ところが、1999年に社会主義者のチャベス大統領が登場すると、反米に転じる。チャベスが反米に舵を切ったのは、「(石油による)国のもうけが一部の富裕層や米企業に偏り、国民に回っていない」という不満が強かったからだ。そこでチャベスは、石油を国が管理して、もうけを福祉や貧困対策に回す方針を打ち出した。この結果、米石油資本の大半が追い出され、施設は国有化に切り替えられた。
 以来、今日まで一貫してチャベス派の残党が政権を占めており、米国からの厳しい経済制裁を受けて国内経済は崩壊。国民3000万人のうち800万人は他国に脱出している。ちなみにチャベスは2013年に58歳で病死し、後任のマドゥロは「米国による謀略死」を主張しているようだ。

大義名分は麻薬本音は石油利権か

 今回、マドゥロの拘束後に暫定大統領についているロドリゲスは米国要求へ全面協力を約束している。しかし、本気なのか面従腹背で反撃のチャンスをうかがっているのかは不透明だ。国民はマドゥロ政権による徹底弾圧時代の影響からか表面上は平穏で、トランプとロドリゲスのトップ交渉を息を潜めながら見守っている。
 トランプは「米国への麻薬流入の阻止」と「麻薬カルテルの崩壊」が攻撃の大義名分だが、ベネズエラの石油利権に関しても「チャベス時代に国有化された米資本の投資を、利子付きで取り戻す」と権益への意欲を隠さない。すでに米石油大手の代表と投資交渉に入っている。
 ベネズエラの原油埋蔵量は推定3000億バレルで中東諸国を上回り世界一。ただし、今の生産効率は日量100万バレルで、世界の原油生産の1%にも満たない。トランプはこれを数倍に増やす計画で「我々は地中からぼう大な富を手に入れる」と露骨に利権を口にしている。ベネズエラは原油だけでなく金鉱も南米最大量。天然ガスも世界9位。いわば利権の塊だ。

起訴状の弱さ「カルテル」立証は?

 マドゥロの起訴状を読むと、トランプの言う「麻薬カルテルのボス」を裏づける説明がほとんど見当たらない。さらに、ベネズエラ国内に麻薬カルテルが〝組織として存在する〟こと自体についても、起訴状では具体的に示されておらず、立証は十分とは言いがたい。
 また、米側は「ベネズエラから麻薬を米国に持ち込もうとしている」と、この4カ月で約40隻を迎撃して沈没させ、乗組員123人が死亡したとしている。だが、その迎撃が正当だったことを示す証拠や根拠は起訴状からは確認できないままだ。2003年に米大統領のブッシュ・ジュニアが「イラクが大量破壊兵器を保持している」と攻撃に踏み切ったが、大量破壊兵器は結局、何一つ出てこなかった時の状況と似ている。

16世紀からの植民地支配

 ラテンアメリカは16世紀にコロンブスが発見して以降、当時の海洋大国だったスペインとポルトガルによって約300年間、植民地支配されてきた。先住民に対する略奪と搾取はし烈で、インカ帝国(現ペルー)とアステカ帝国(同メキシコ)はスペインに滅亡させられた。
 欧州から西へ進出したスペイン・ポルトガルに対し、東へ向かってアフリカやアジアの利権を得たのが英国やオランダ、フランスだ。これら後発の国は中南米への進出が遅れ、カリブ海の島々の一部を支配したのみで終わっている。
 19世紀に入ってからは独立戦争が盛んになり、欧州列強と対抗する形で米国が支援する政権が次々に誕生していく。この時、第5代モンロー大統領が提唱したモンロー主義という言葉が生まれた。
 「米国は欧州に関与しない。代わりに、欧州もラテンアメリカから手を引け」という意味で、トランプが自らのドナルドをもじって名付けた〝ドンロー主義〟(ドナルドの新モンロー主義)の下敷きになっている。

次の標的コロンビアとメキシコ

 次に目を付けられているのは、ベネズエラの西隣の産油国コロンビアと、米国の南に広がるメキシコだ。共にトランプ得意の「麻薬やコカインなど違法薬物持ち込み」が攻撃理由で、すでに対象国として公表されている。
 コロンビアのペトロ大統領は左翼反政府ゲリラ出身で、マドゥロと共に反米政権の急先鋒だったが、今回の事態を見て慌ててトランプと電話会談。協力を申し入れ和解した。一方、メキシコは環境学者出身のシェインバウム大統領が、以前から地球温暖化を全否定するトランプに不満を抱くが「協力はするが干渉は拒否」と反論するので精いっぱい。それほどマドゥロ拘束の軍事作戦は強いショックを与えている。

パナマ運河奪還 大命題

 パナマ運河奪還もトランプにとって大命題だ。この運河は1914年に米国が完成させ、99年のオバマ大統領時代に管理権を全面的にパナマへ返還した。
 トランプは「パナマ運河は中国が支配している」「運河を取り戻す」と発言し、99年の返還を「愚かな贈り物だった」と批判。パナマは慌てて運営権を香港企業から米国の資産運用企業に移し矛先をかわそうと懸命だ。同じように、左翼政権が長いボリビアも天然ガスや非鉄金属の埋蔵が豊富で「目を付けられては大変」と、米麻薬取締局(DEA)の調査に全面協力を約束した。
 一方で、同じ反米政権でも資源に乏しいニカラグアには関心を示さない。もうからない人道援助に興味を示さないところから、資源略奪がトランプの目的にも見える。

貧困と難民構造の根は搾取

 中南米の貧困原因には、長い植民地支配からの悪影響がある。大地主らによる貧富の差が大きく先住民差別も激しい。また、米国の操り人形政権には汚職や財政危機がはびこって国民が困窮し、左翼反政府ゲリラとの内戦が激化。米国に不法難民の流入が増える引き金になってきた。
 こうした構造的な原因となっているのは、元を正せば米国の搾取が大きいのに、今のトランプのやり方は、かつて戦艦を並べて原住民に降伏を迫ったスペインやポルトガルと何ら変わらず、帝国主義への逆戻りといえる。

野心は北へグリーンランドとカナダ

 中南米だけに留まらない彼の野心は、グリーンランドやカナダにも広がる。グリーンランドは平面の地図を見てもピンと来ないかもしれないが、地球儀の立体で見るとカナダと北極の間に位置しているのが分かる。
 グリーンランドはEU(欧州連合)の一員でNATO(北大西洋条約機構)の仲間、デンマークの自治領だ。同盟国を脅すとはメチャクチャな発想だが、トランプは「グリーンランドを中国やロシアの自由にはさせない」と言い分を展開。島民の大半は「米国NO」を示しているが、お構いなしだ。
 一方で「アメリカの51番目の州になればいい」と言い放ったカナダは、国民の大半が米国の民主党支持のため、最近は無視を決め込んでいる。
 こうした前例が積み重なるほど「領土・主権・通商のルールは、結局は腕力次第」という空気が世界に広がり、日本が依存する海上交通・エネルギー調達・貿易秩序の土台が揺らぐ。

日本の無条件追従の代償

 では、日本はどう立ち回るべきなのか?外務官僚は伝統的に米国に弱く、無条件で追従する行動規範が染み付いている。だが、無条件追従を続けていると、米国の行動の〝当事者〟として国際的な反発を背負い、アジア諸国との信頼と交渉余地を失い、いざ東アジアで同種の危機が起きた際に「日本の味方は誰か」という選択肢を自ら狭めることになってしまう。
 だからこそ、トランプの機嫌を損ねない範囲で距離感を保ちつつ、韓国・フィリピン・豪州・インド・ASEANなど〝ルールを守る側の横の連携〟を厚くし、暴力的な大国に踏みにじられにくい安全網を編んでおく必要がある。

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