どう見ても普通の民家で中華&韓国のコース料理! サウナまで入れる謎空間

こんなところに名店が「灯台もと旨し」
猫田しげる

知らずに暮らしているなんてもったいない!あなたの街の、あんなイイ店、こんなイイ店。「入りづらい」「高そう」「怖そう」? 大丈夫!グルメライター猫田しげるが、扉を開ける一歩をお手伝いします。

この民家で豪華コースが食べられるとは、想像つくまい
この民家で豪華コースが食べられるとは、想像つくまい

 おそらく、関西で一番〝民家な中華〟だと思う。高速神戸駅から徒歩10分ほど、全くもって飲食店など存在しないエリアの、住宅街の1軒。外観もまんま普通の家である。「株式会社MSDジャパン」と表札が出ていてますます訳が分からない。

飲み放題はコースに+2000円。生ビールもある。バーカウンターの高級酒は別料金
飲み放題はコースに+2000円。生ビールもある。バーカウンターの高級酒は別料金

 ピンポンを押して玄関を入ると主人の林金龍さんが迎えてくれる。これも普通に「人ん家(ち)に来た」状態。だが引き戸を開けるとそこには、どう見ても普通の家には設置しないであろう幅3㍍ほどの大理石のテーブル、天井には煌びやかなシャンデリア。片隅にはバーカウンターまであり、「マッカラン」「山崎」といった高級ウイスキーがズラリ。この居間が食事スペースで、予約時のみ開かれるシークレットレストランである。

コースは1人8000円~(2~3名の場合は同1万円~)。肉・魚・野菜などの料理がドカドカと8~10皿出てくる
コースは1人8000円~(2~3名の場合は同1万円~)。肉・魚・野菜などの料理がドカドカと8~10皿出てくる

 食卓に着くと、林さんが大皿の料理を次々と運んでくる。色とりどりの野菜やナムル、ポッサム(茹で豚)、青パパイヤのキムチに干豆腐のピリ辛和え、続いてハルビン風酢豚、ハルビン風スペアリブ……。中華料理に韓国料理、その二つの融合料理など、どれも高級レストランのように華々しく美しい盛り付けで、キムチや和え物などいわゆる〝箸休め〟ですら物凄く丁寧に調理されているのが分かる。

コース内容は仕入れにより変わるが、だいたい鯛など大きな魚の韓国風煮付けが登場
コース内容は仕入れにより変わるが、だいたい鯛など大きな魚の韓国風煮付けが登場

 金目鯛は1匹丸ごと、ジャガイモやキムチと合わせてチゲ風に。麻辣蝦(マーラーシャー)は大ぶりのエビを自家製ラー油メインのタレで炒めて、殻まで舐めたいピリ辛味。真っ赤で辛そうなスープは、コチュジャンなどをブレンドしたスープでジャガイモやタマネギを煮込んだ「タットリタン」。初めて聞いたが、いわば肉じゃが韓国風。辛い中にも鶏肉の滋味が溶け込み、胃に優しい。次から次へとテーブルが皿で埋まり、あっちこっちへ箸を伸ばしても手が足りない。千手観音になりたい。

麻辣蝦など本家「祥龍」にない料理が味わえるのも別邸の醍醐味
麻辣蝦など本家「祥龍」にない料理が味わえるのも別邸の醍醐味

 つまり一体どういう店なの?と怪訝に思われるだろうが、「民家を改装した個室空間で中華・韓国料理のコースを食べられる店」としか言いようがない。店というより、サロンと呼ぶべきか。料理を作るのは奥様の池英恵さんだ。中国と韓国のハーフ。だから中・韓両方の料理が登場し、ミックスさせた韓式中華もある。

酒アテにちょうど良いキムチ、和え物などは皿数にカウントされない。つまり突き出し
酒アテにちょうど良いキムチ、和え物などは皿数にカウントされない。つまり突き出し

 ん? この2人どっかで見た気が……と思った人もいるかもしれない。そう、実は林さんと池さんは神戸元町駅すぐのカウンター中華「祥龍(しょうりゅう)」(神戸市中央区元町通1―9―8)を営むご夫妻である。ここは、林さんの自宅を改装した「別邸」という立ち位置なのだ。2025年7月にひっそりオープンし、10月から一般予約も受け付け本格的に始動した。

夫婦の出身が中国のハルビン。そのため酢豚やスペアリブもハルビン風の仕立て
夫婦の出身が中国のハルビン。そのため酢豚やスペアリブもハルビン風の仕立て

 池さんの一族は中国で大きなレストランを営む料理人家系で、その血を継いだ池さんも調理におけるこだわりは半端ではない。炒め物に使うイカやタコは刺身でいける鮮度の良いものを、牛も豚も鶏も国産しか使わず、羊肉なども塊で仕入れて店でさばく。甜麺醤(てんめんじゃん)、豆板醤(とうばんじゃん)、豆鼓醤(とうちじゃん)、ラー油、麻油(まーゆ)、鶏油……どんな〝醤〟も〝油〟も手作り。ハルビン風ソーセージも腸を仕入れるところから乾燥まで全て自分でやる。ハルビン風スペアリブには、自分で漬けた梅のエキスを隠し味に加えて味に深みを出す。池さんって何人いるんですかと問いたくなる仕事量だ。

予約によっては「祥龍」「別邸」を行き来して営業。とにかく忙しい夫婦。手にしているのは林さんが開発した高級シャンプー。どれだけ手広いんだ
予約によっては「祥龍」「別邸」を行き来して営業。とにかく忙しい夫婦。手にしているのは林さんが開発した高級シャンプー。どれだけ手広いんだ

 余談(というより林さんにとっては本題)だが、この家には1人用と2~3人用のサウナがあり、客が有料で入れるシステムだ。林さんのコンセプトとしては「サウナ中華」だが、サウナだけ入りに来ても、食事だけでも、両方でもOK。サウナの後にバーで1杯だけ…も大歓迎。サウナは、遠赤外線で高温にならず、じんわり体の芯から温めてくれる特注モデル。中でスマホもいじれる。サウナ嫌いな筆者が「騙された」と思って試してみたが、気持ち良すぎて寝てしまった。ベタベタな汗もかかない。「サウナも購入できますよ!」という林さんの宣伝は置いといて、とにかく民家すぎる中華、体験してほしい。もう無理!というぐらい料理が出るので、極限までお腹をすかせて挑むべし。

サウナは1カ月入り放題3万3000円だが、年間契約だと半額に
サウナは1カ月入り放題3万3000円だが、年間契約だと半額に

■祥龍別邸(金龍ハウス)/神戸市兵庫区荒田町1-3-30
tel.078-223-7999(要予約)/午前11時~午後10時(LO)/不定休

猫田しげる 20年以上、グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」「あまから手帖」「旅の手帖」などで記事執筆。めったに更新しないブログ 「クセの強い店が好きだ!」もどうぞ。SNS苦手。

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