「日陰者」輝く職場へ 「ヴァンパイア」流〝働き方ハック〟

「これが職場!?」。従来の〝職場〟の概念を覆す、ゴシックホラーをテーマにした「ヴァンパイア」のエントランス。手前には休憩ベッド代わりの棺桶も。独特の世界観に惹かれて応募してくる人も多い(写真=同社提供)

 「働き方改革」と言われて久しいが、現場の実感はどうか。形式的な残業是正などにとどまる例も多い中、大阪でゲーム業界向けのイラスト制作を手掛ける「ヴァンパイア」(大阪市中央区)は、「人の生き方に制度を合わせる」という発想で、独自の柔軟な働き方を実現している。

「人に制度を合わせる」会社

 「短時間労働が良いことのように言われていたけど、僕はめちゃくちゃ働きたいタイプ。人によって幸せの形は違うのに、同じ枠に押し込めるのはおかしいと思った」。こう語るのは同社代表取締役・加藤洋平さん。好みの働き方は人それぞれなはずなのに、〝働き方改革〟が一方的な短時間労働信仰に傾いていることに違和感を覚えたという。

 この考えから、同社では社員一人ひとりが自分の働き方を選べる仕組みを整えた。月150時間のフレックス制を採用し、勤務時間や働く時間帯は自由。「昼は家事、夜は制作」など、家庭や体調に合わせて働くことができる。子育て中の主婦や、心身に不調を抱える人も無理なく続けられる環境だ。

 「一応就業規則はあるんですよ。でも、必要があればその都度変えたらいい」と柔軟な姿勢で社員に寄り添い続ける。

代表取締役の加藤さん。顔を出さない主義だが、写真の落ち着いた雰囲気とは対照的に、実際は明るく気さくな人柄が印象的だった(写真=同社提供)

「顔を知らない」従業員も

 柔軟なのは時間だけではない。加藤さんは「顔を見たことのない社員が少なくない」と話す。全国に散らばるクリエイターたちは、ボイスチャットとテキストのみで制作を進める。「成果を出せば、見た目で判断する必要はない。だから履歴書に写真は求めていません」と加藤さん。

「日陰者」が輝ける場所に

 こうした文化の根底には、社名に込めた理念がある。「ヴァンパイア」という社名を採用した理由について、加藤さんはこう語る。

 「クリエイターって、夜型の人が多かったり、人と感性が合わなかったりして、社会の一般的な働き方に馴染めない人が結構いる。いわば太陽の下では生きづらい〝日陰者〟みたいなところがある。でも、ヴァンパイアが夜に最強になるように、場所を変えれば輝くことができる。だったら僕らも、自分が輝ける場所をつくればいいと思ったんです」。

 この理念に共感し、最近では募集をかけずとも「ヴァンパイアで働きたい」と声をかけられることが増えているという。

 「SNSなどを通じ、自由に働ける会社として知られるようになってきていると感じています。『僕は何も技術を持ってないけれど、ここで働きたい』なんて言われたこともあります。じゃあ何か仕事を作ろうかって。今別の事業を考えているところです」と笑顔を見せる。

 制度に人を合わせるのではなく、人に合わせて制度をつくる。加藤さんの哲学は型破りでありながら、実に合理的だ。掛け声ではなく実装で示す。〝働き方改革〟の次を行く現場がここにある。

(文・西山美沙希)


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