河瀨直美監督×岩井俊二監督トークショー 万博シグネチャーパビリオン「いのちのあかし」で開催

 大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「Dialogue Theater-いのちのあかし-」にて、テーマ事業プロデューサーであり映画監督の河瀨直美さんと、同じく映画監督の岩井俊二さんによるトークショー・新作映像作品の披露イベントが10月4日に開催された。

河瀨直美監督(左)と岩井俊二監督(右)

 このパビリオンは「対話を通じて分断を明らかにし、解決を試みる」場所。通常、ランダムに選ばれた来場者とスクリーンに映し出された話者が与えられたテーマについてリアルタイムで対話をするが、この日は来場者側に河瀨さん、スクリーン側に岩井さんが登場。「あなたがずっと閉じていた蓋をひとつ開けてください」というテーマのもと、過去に出せなかった手紙のエピソードや、秘密にしていた過去の思い出などが語られた。

 続いて、河瀨直美さんが監督した新作映像作品「この世界にようこそ」を上映。がんにより余命を告げられた夫と、看護師である妻を撮影したドキュメンタリーで、“愛とは何か”に迫る対話や、最後の散髪、亡くなる数日前に同パビリオンを訪れ対話を行った様子が収められている。会場には作品に出演した、妻であるemiさんも登壇。「彼は岩井俊二監督のファンで、特に『リリイ・シュシュのすべて』を繰り返し観ていました。今までありがとうございました」と涙ながらに感謝を伝えた。

emiさん

 岩井さんは「映画のパワーは凄い。公開当初は、いじめのシーンなどが悪影響になるのでは、と沢山のお叱りをいただいたが、絶対的な孤独を描けたのは自分の財産になっている。SNSのタイムラインに上がってくる話題を繋ぎ合わせても映画にはならない。知り合いが話してくれた些細なエピソードや、少し悲しい出来事の方が映画の素材になるようなことがあるんです」と語った。

 これを受け、河瀨さんは「映画監督冥利に尽きるのでは。映像を全て覚えられてなくても、観た人の心に何か刻まれて生涯忘れられなくなるのなら、私たちは撮り続けないといけない」と語った。
 さらに「対話とは、命を交換し合うこと。まず相手の話を聞くことから始まる。誰かの言葉をしっかり受け取り、咀嚼(そしゃく)して返す。コミュニケーションで命を活性化するような体験が、私たちの万博のレガシーです」と話した。

 「Dialogue Theater-いのちのあかし-」では開幕以来、“あなたが絶対的に信じていることを一つ教えてください” “もしも一度だけ魔法が使えるとしたら、あなたは何に使いますか” など毎回違うテーマで1500回以上もの対話が行われている。最後に河瀨さんは記者の質問に対し「対話は回数を重ねれば上達し成長することが、話者を見続けたことで分かった。情報をやりとりするだけの“会話”ではなく、10分でいいからスマホを置いて、相手の目を見て話すことが重要」と答えた。

 “会話”は情報交換や社交を目的としたものであり、“対話”とは、他者との理解を深め認め合うこと。分断が叫ばれる現代の社会において、相手の話に耳を傾けメッセージを受け取ることが、平和に繋がるのではないだろうか。

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