
スマートフォンのアプリ配信や決済システムに関する新たなルール「スマホソフトウェア競争促進法(スマホ新法)」の運用指針が、公正取引委員会から7月29日に公表された。12月18日に施行される予定で、特定の大手IT企業に偏ったアプリ市場の構造を見直す大きな転換点となる。EUでは既にスマホ新法と同様の「デジタル市場法(DMA)」が施行され、アップルに対し代替アプリストアの導入や外部決済の許容を義務付けるなどの措置が進む一方、偽アプリやマルウェアによる被害、外部ストア経由の悪質アプリの流通リスクも報告されており、混乱やセキュリティ上の懸念が続いている。
「安全性」の線引きに課題所管の限界に懸念の声も
スマートフォンの基本ソフト(OS)は、アップルの「iOS」とグーグルの「Android」が市場をほぼ独占している。それぞれがアプリストアを運営し、配信ルールや決済手段を事実上コントロールしている現状が、競争を阻害しているとの指摘が出ていた。
新法の目的は、開発者や利用者に多様な選択肢を提供し、公正な競争を促すことだ。指針には、アップルやグーグルが自社の決済システムを開発者に強制したり、外部サービスを不当に排除したりする行為を禁止する内容が盛り込まれ、違反行為や正当な制限の具体例が多数示されている。
ただし、その自由化の裏では、安全フィルターが緩む可能性にも注意が必要だ。EUでは、代替アプリストアの導入に伴い、偽アプリやマルウェアの流通リスク、外部ストアでの審査の甘さが指摘されている。また、DMAの施行によりアップルがEU向け機能の提供を遅らせた事例もあり、安全性と利便性の間で調整が求められている。こうした現状は、「選べる自由」の裏で利用者に重くのしかかる「見極める責任」を日本でも注視すべき要素として示唆している。
消費者団体の関係者は「ITリテラシーに格差がある中で、高齢者や若年層への影響が懸念される」と指摘する。利便性が上がる一方で、誰もが等しく〝安全な選択〟ができるとは限らない。
もう一つの課題は、制度の運用を担うのが公正取引委員会に限られている点だ。公取委は企業間の取引監視に強みを持つが、アプリの安全性や個人情報保護、青少年対策といった利用者保護の分野は本来の専門領域ではない。こうした分野における専門性や権限の限界は、EUでの制度運用上の課題とも重なる点であり、慎重な議論が求められる。
ガイドラインには「正当な理由に基づく制限は容認される」とあるが、その線引きは曖昧で、判断基準や責任の所在が不透明である。今後、事業者が「安全性」を理由に特定のサービスを排除するケースも予想され、むしろ透明性が損なわれる懸念もある。
新法が掲げる「自由な競争」と「利用者保護」の両立には、制度の柔軟な運用と他機関との連携が欠かせない。EUにおける課題を視野に入れつつ、スマホ新法がその両立を実現できるかが試されている。そして何より、アプリを選び、使うのは一人ひとりの利用者だ。これからの時代、「どのアプリを使うか」は、「どこまで自分で判断できるか」を問われる選択でもある。