公営住宅の空室 リノベし定住促進 京都市が民間とコラボ 若者・子育て世帯が対象 周辺相場より低家賃

 京都の管理会社で大阪・阿波座に事業所を構える長栄は、京都市が行う「市営住宅の空き住戸を若者・子育て向けに活用する」事業、愛称「こと×こと」の委託事業者に選定され、向島ニュータウンの活性化に取り組んでいる。

【Before】改装前の状態(向島市営住宅)
【Before】改装前の状態(向島市営住宅)
【After】リノベーションしたリビング(向島市営住宅)
【After】リノベーションしたリビング(向島市営住宅)

 「こと×こと」は、市営住宅の空き住戸を長栄などの民間企業に貸し出し、リノベーションした上で入居してもらうという全国初の試み。ターゲット層を若者、子育て世帯とし、所得制限を設けず、公営住宅の枠を超えた制度設計が特徴で、2023年にスタートした。
 事業展開の背景に、若者の転出問題がある。京都市では、住宅価格が高騰し、23年の人口動態調査によると、市の人口は全国市区町村の中で神戸市に次ぐ人口減少率ワースト2位。同市住宅政策課活用推進の竹中康之係長は「特に利便性の良い中心部は価格が高騰し、滋賀県や大阪府などへ流出している。一方、市営住宅では、入居者の高齢化で施設への転居や死亡が増え、空室が目立っている。このため民間の力を借りて廉価で貸し出す施作を行った」と話す。

京都市伏見区の「向島市営住宅9街区住棟」
京都市伏見区の「向島市営住宅9街区住棟」
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リノベ後には満室に

 長栄では、伏見区の「向島市営住宅9街区住棟」を担当する。奥野雅裕執行役員は、「築48年と古く、間取りも当時のままだったので、試作を含めて10室改修したところ、
想定を上回るスピードで全室入居となった」と話す。24年度は追加で20室リノベーション。今年度はさらに25室ほど新たに再生することとなった。
 改修後の間取りは2LDK(57・72芸方㍍)で、家賃は5万8000円、共益費5000円。近隣の相場より約1万5000円ほど安い賃料だ。

バルコニーからの眺望を確かめる舩井社長(左)と松井市長
バルコニーからの眺望を確かめる舩井社長(左)と松井市長

子育て世帯向けにキッズルームも

 4月25日には、松井孝治市長や職員らが改修前と改修後の住戸を視察した。松井市長は「ビフォーアフターの違いに驚いた。リビングダイニングも日当たりがよく、収納がたくさんあり、この広さで家賃が月約6万円というのは、入居者がすぐに見つかるのも納得だ」と話す。
 さらに、1階の住戸を改修し、子どもを遊ばせながら親同士が交流できるキッズルームを設ける予定にしている。このほか、京都市主催のイベント「向島市営住宅 公園遊具ペイント」への参加協力や、企業とコラボレーションし、カーテンや緞帳(どんちょう)の切れ端を活用したワークショップを実施。「交流してもらうことで既存の入居者と、新たな入居者とのコミュニティー醸成に努めている」(奥野執行役員)

物件を視察した(左から)長栄の舩井渉社長、松井市長、奥野執行役員、京都市の伊藤担当局長
物件を視察した(左から)長栄の舩井渉社長、松井市長、奥野執行役員、京都市の伊藤担当局長

 京都市はこと×こと事業を23年度から継続して実施しており、同社を含む10社が参画している。向島市営住宅以外に、山科市営住宅や醍醐中・西・東市営住宅などでも実施されている。
 竹中係長は「人口流出に歯止めをかけると同時に、移住を促進し京都市を活性化させたい」と話している。